4ぶんの1の風のきせき

うのたろう

プロローグ

第1話

 やられた。


 やられてしまった。


 体操着を忘れて帰ってしまったのがまずかった。


 いや、ただしくは「忘れたことを、今のいままで忘れていたこと」がまずかったのだ。むしろ「やってしまった」といったほうが正解だった。


「はあ」


 ため息がでた。自分のあまりのバカさかげんに肩が落ちる。ついでに視線をしたに落とす。私は昨日、体操着を学校に持ってきて、それを家に持って帰るのを忘れてしまった。


 その結果が、これだった。無残なものが机のうえにおいてある。


 その朝、いつもの時間に登校した私の目にうつったものは、体育の授業中いつも私が着用している服だった。それが教室の私の机のうえにのっている。


 まごうことなき私の体操服。


 いや「体操服」といういいかたは、もうすでにただしくない。ただしくは「もと体操服だったもの」だ。


 ジャージ素材のハーフパンツは極太の短冊みたいに切りきざまれ、ぶ厚い化繊のTシャツは縦にハサミをいれられたのか、すだれみたいになっている。


 私はしばらく机のうえにのったものを見て、ぼうぜんとした。

 怒りや悲しみや情けなさは感じない。すでに私の感覚は麻痺している。


 また新しいものを買わなければいけない。そんな思いが真っ先に頭をよぎった。

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