墓守

風見 新

第1話

 私の仕事は墓守だ。

墓地に埋葬された亡き者たちを野犬や墓荒らしから守りその御身の清純を保つ、それが墓守の仕事だ。


そんな墓守の目覚めは遅い。


夜を徹して墓を守る墓守は、朝床に着いて昼過ぎに目を覚ます。

まるで日の光を嫌うという吸血鬼にも似てる。

そして朝食でも昼食でもある少し多めの食事を摂って、街へ簡単な物資を入手するために赴き、その後墓地で仕事を始める。


それが日常だ。


街を歩く私は決まって薄暗い路地裏を歩く。


全身黒づくめの、はたまた長身で頬のこけた私を、たとえそれが墓守の正装であっても子供たちが見ると怯えてしまうからだ。


私はこう見えても、子供が好きなのだ。あまり嫌われるような事はしたくはない。

だからその日も、いつもの様に人目に着かない裏通りを歩き、街での簡単な用事を済ませて、森の中の墓地へと向かった。


墓地のある森は、暗く静かで物寂しい。

そこには、まるで来る者を拒むかのよう気配すら感じる程だ。


私はそんな森の中を慣れた足つきで歩み進んで、ようやく仕事場である手狭な墓地にたどり着いた。


墓地で最初の仕事は、その日埋葬される亡骸の確認である。


これも墓を管理する私の大事な仕事だ。


そして本日弔われるのは、見た目6、7歳くらいの金髪の綺麗な可愛らしい女の子だ。名前は知らない。


それにしてもこんなに若くして亡くなるとは、なんとも残念なことだ。


死因が窒息死というのもまた私の胸を強く締め付ける。


しかし、今更そんな情には流されない。


この墓地には、彼女のように幼い子供逹や老人や妊婦と体力の弱い者が多く眠っている。


残酷で理不尽なこの世界では、そんなチカラのなき者から命を落とすということを痛い程に知っている私だ。


だからこそ、 長らくこの仕事に携わっている私にとって、こうして亡者の最後を見届けるのが最大の役目であり、そして墓守としての誇りでもある。


その誇りを噛み締めながら、私は少女の上に土をかぶせ、徐々にその姿を地面に埋めていく。


この瞬間が私にとって最も辛く、そして最も愛おしい。

墓守の仕事は、埋葬された者たちを守ることだ。

その守るべき者が増えるという事は私にとっては家族が増えるのも同義だ。


不謹慎だというのは、もちろん承知だがそれでも頭の片隅でそんなことを考えている私がいる。


だから、今宵も私は墓を守るのだ。


参りに来る者などいない、この暗い森の中で。


私だけの小さな墓地を。


日に日に増えてくる家族と共に。


たとえその手を僅かながらの血に染めようとも……


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墓守 風見 新 @mishinn

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