赤い悪魔と麾下の愚痴
「捜しましたよ」
声には疲労と呆れと、それからわずかに含まれているのは怒りだ。それもそうだろう。カナーン地方から西のラ・ガーディアまではそこそこに遠く、イレスダートとなるとなおさらだ。ディアスはやおら振り返り、赤髪の男を見た。顔はやはり怒っていた。
「まったく、とんだ役目を押しつけられたものです」
「そう言うな。お前にしか頼めない」
「そうでしょうね。ええ、あなたはいつもそう言うのですから」
ディアスは苦笑しながらも、目顔で彼をもっと近くに寄るようにと言う。西の国では金髪が多いから、青髪や彼らのような赤髪は特に目立つ。そのままどこか酒場にでも入ろうとしてやめた。彼も酒が強かったが、そのせいで良い具合に酔いが回ってくると愚痴や説教が増えてくる。この長旅の鬱屈を延々ときかされては堪らない。
「それで? あちらの情勢は?」
「思っていたより悪くはありませんね。さすがは聖騎士殿の母君です。ずいぶんと肝が据わっていらっしゃる」
口を開けば饒舌なこと、もっとも彼はやっと戻ってきたというのにねぎらいの声ひとつない主君に対して思うところもひとつやふたつあるはずでも、最初の一言だけで済ませた。ディアスは彼の性格をよく知っていたし、彼もまた己の主をわかっているからだ。
「ただ、悪い知らせといえばそうなのでしょうね。これは聖騎士殿もあなたも想定外なのでは?」
「……なんだ?」
勿体ぶった物言いに慣れていても、長々と相手をするのはさすがに疲れる。お喋りにもコツがあるんですよ。いいえ、ただのお喋り好きな男は嫌われますとも。特にランツェスでは。まずはとことんきいてやればいいのです。そうすると相手は勝手にどんどん喋っていくし、こちらの問いにもすんなり答える。
自分の容姿に自信がなければ出てこない台詞の数々を、いつだったかディアスは辟易しながらもきいた。アストレアに潜入して彼は洗濯女を一人捕まえたのだろう。
「いますよ、その男がアストレアに。いったい、どういうわけなんでしょうね?」
「あいつは二人とも死んだとは思っていない。そのうちの一人がアストレアに居座っていると?」
「そういうことです」
彼はにこやかにそう答える。ここに幼なじみがいたら彼の胸倉を掴んでいただろうか。いや、そうはならない。ブレイヴはいまフォルネの要人と相対している。
ブレイヴが捜しているのは二人、かつての上官ランドルフと自身の麾下であるアストレアの
「で? もう一人は?」
風が強くなってきた。ラ・ガーディアの南の領土は比較的暖かいというが、秋口に入った夜の時間となるとさすがに冷える。
「サリタの市長は聖騎士殿になんて回答しましたか? 答えは俺もおなじです。アストレアの鴉はサリタにはいません」
「では、生きている……と?」
「さあ、どうでしょう? その結論は正しくありませんね。あれをアストレアの鴉というならばそうではない。だとしたら、かの騎士は死んだと考えた方がいいでしょうね」
ディアスは無遠慮に嘆息する。幼なじみは気性が穏やかだがああ見えて気の強いところもある。こんな回り道をされたらいくら優男と言われようが怒る。
「わかった。この話はここで終わりだ。オスカー、お前には」
「お断りします。……と言ったら、どうしますか?」
当然の主張だと、彼はそう言う。
「パウエル家の長子らしからぬ声だな。それとも、俺を置いてランツェスに帰るか?」
「ご冗談を」
長年ランツェス公爵家に使えてきた名門パウエル家の騎士だ。彼には腹違いの兄弟が何人かいて、いずれも優秀な騎士である。ああ、誤解なさらないでください。兄弟仲は良好ですよ。だから兄を出し抜いてまでのしあがろうとする者なんていやしませんよ。それをきかされたときは二人で
彼はディアスに向かって
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