汝、青春を謳うことなかれ

風見 新

4月 遠足

第1話

 

青春と一体……。


ふと、そんな益体のないことを考える時、決まっていつも答えはでない。


あたり前だ。


俺は青春なんてものを感じたことがないし、見たこともないのだから。


ともすれば、青春なんて語る奴というのは皆一様にそれを謳歌し、

人生を得難い幸福と満足感で満たしているのだろう。


美しいものだ。


それに引き換え、俺みたいな根暗で陰険で、それでいて利己的な人間。

すなわち、醜い部類の人間には拝めない代物、それが青春ということだろうか。


しかし、そうだからこそ。


そんな青春を知らない俺だからこそ、言いたいことが一つある。


こんな俺が、青春を謳歌しようとせしめる連中に。


嫉妬と羨望と軽蔑、それと少しの真理と共に......


この言葉を送りたい。


そして気づいてもらいたい。


今、この時は決して美化すべき美しいものではないということに。


断じて美談として語られるものなどではないということに。


心して聞くといい。





* * * * *






一日の授業が終わって帰りのホームルーム。



言葉を忘れたかのように静まりかえる教室。


そこで危うく『うわあ』と場違いな声を出すところだった。

というのも理由がある。


その日、今日付け編入してきたという転入生の紹介がなされたのだ。


凪沙なぎさ小春こはる


真っ黒な黒板に、綺麗な白文字で綴られた横にその転校生は立っていた。

どうやら彼女の名前は凪沙と言うらしい。


どっちも名前みたいだなぁと、適当な感想を抱くと共に俺の目は自然とその転校生に向けられていた。

正直、名前なんてどうでもいい。

俺が彼女に関してまずなによりも興味を抱いたのはその風貌だった。


鮮やかな艶のある長い黒髪に、絹のような白い肌、バランスの取れた顔のパーツの配置はどこか人形めいた印象を受ける。そしておそらく160はないであろう身長に七頭身くらいに見える程の小顔、その肌にはニキビやできものの類は見当たらず新雪のようにどこまでも白くきめが細かい。


有り体に言えば「美人さん」と呼ぶに十分にふさわしい出で立ちだ。


もしも俺が学級委員としての立場で彼女の学校生活の援助などを仰せ使っていなければ、素直に喜んでいたかもしれない。


しかし、ここで疑問を感じる者もいるだろう。


普通こんな女子生徒と接することが出来るなら、緊張と照れを浮かべながらも内心では喜ぶものだ。

 ではなぜこんなにも、俺は気落ちしているのか。


その原因は彼女の風貌云々よりも、どちらかというと彼女によってもたらされたこのクラスの雰囲気に起因していた。

 男子達は転入生の顔を見て密かに笑みを浮かべつつ、姦しく声を踊らせる。

 それは良い。


問題は転入生に向けられる女子達の視線だった。

その視線は自分よりも顔の良い女子が入ってきたことに対する嫉妬でも、ましてや羨望の色が滲む憧れでもない。


まるで肉食獣が獲物を捕捉して今にも飛びつきそうな、そんな獰猛な瞳だ。

そして、その瞳の奥には近くこのクラスで起きるであろう波乱を予見させているようでもあった。

 「はあ……」

 今度は誰にも聞こえないように小さくため息をついた。


 胸に迫るは憂いと煩い、それらが俺の心を怪しく撫でる。

 理由など考える必要もない。確実に面倒なことが近いうちにこの教室で起こることは明白だ。

 そして、その面倒事に俺が関わらずお得ないことも。


 どうしてこうなったのか……

 胸の中でそっと思いを馳せ、そして最後に事の発端である昨日の昼の事を思い出した。




 俺が高校生活の大半を過ごす、ここ峰ヶ丘みねがおか高校はその名の通り小高い丘の上に門を構える由緒正しき普通の高校だ。

 そのボロボロで至る所が老朽化している校舎を除いては、そこそこ居心地がいい。


 そんな古い窓枠からの風が背中をさする春の頃。

 俺は春から移りかわりゆく季節の流れを感じていた。

ニュースで聞いていたほどの肌寒さは感じない。

おそらく東や北の方はまだ寒い日がつづいているのだろうが、こっちはだいぶん暖かくなってきたようだ。


俺は机の上で腕枕を作り、朝の天気予報を思い出していた。

いよいよ本格的に冬が明けてきたようだ。春の日差しが実に明るい。


しかしその明るさとは対称的に目の前の光景はずいぶんと陰鬱としていた。

(3……2……4……2……2、4……)

 全部で六人、自分も入れて七人か、大体例年通りの数だろうか。いや少し少ないような……特に女子の姿があまり見えない。

左の頬を机に押し付けながら、目で教室の様子を探る。



 俺こと案野あんの 中葉なかばは先見性があり、空気が読め、実年齢よりは少し達観している……と思いたい十六歳の健全な男子だ。

まだまだ理想の自分には遠いがそうありたいと思う一方で、少しはその自覚もあったりする。


というのもかつてはクラスの中心に近い立場にいたこともあるし、運動も勉強もそこそこ出来た。

 普通にクラスのイケてる女子とも会話を出来るし、男子とはバカ騒ぎをして盛り上がれる。別に騒がしいのが好きだという訳ではないが、そういう空気に馴染むことは出来た。

そんな調子で地道に自分の地位を確立していたのが功を奏してか、一時期は彼女なんかもいた。今では信じられないが。


そんな俗にリア充と揶揄される部類の人間だった俺。

だが、それと同じくらいに日陰に干された時期も経験したことがある。

 教室の端の方で誰とも話さず、空気の様にただそこに居座り時間を浪費し誰とも口を聞かずに一日を終えたこともあった。

友達はおろか、挨拶のできるような人間も限られ一人ぼっちだった。


この対極な二つの立場、青春という盤上の頂上付近から底辺までを経験した俺はある意味で特異だと、そう認識している。

そんな俺だからこそ、今のこの高校生活においては多少の理解とある意味での度量のような物も持ち合わせているつもりだった。

 決してそこにくみしたいとは思わないが。


 端的に言って俺は青春を毛嫌いしているのだ。

どうしようもなく度し難くて救いようがなく、孤独と従属が両立し、虚像のように実態がない。それは、まるで青春と括りの中で一定のステータスを奪い合う椅子取りゲームのような……そんな青春を。


だから無意味な人間関係には首を突っ込まない。

 友達は少なくてもいい。自分にとって必要なものだけで良い。

 そんなスタンスのせいで、昼休みだというのに今日も今日とで俺は机の上で一人腕を組んでいた。



 そして最近趣味にもなりつつある教室観察に精を出す。

 思えば今はあってないような春休みが終わり、そしてまた今までの日常とさして変わらない名ばかりの新学期が始まった四月の上旬。


 新学年で、新学期で、新学級というわけだ。

まさに心機一転といえる。

そして新しいクラスとなることで、もちろんクラスメイトも変わる。

しかし、そうだと言って季節の様にころころと人の交友関係が変わるものでもない。その証拠に今もこうして、新しいクラスにはほとんど人がいない。


 みんな今頃は他のクラスにいって元クラスメイトとの友情を確認しあっているのだろう。

 大切なものは距離を置いてみて、初めてその有難みに気づくものだ。

とはいってもこれは仕方のないことなのかもしれない。


 高校生ともなると幼いころの様に、そう易々と人と人とが打ち解けるのは難しい。みんなある程度、同じ場所で同じ時を過ごしコミュニケーションをとるなどして段々と親密になっていく。おそらくこれが一般的な輪の広がり方だろう。


 しかも、今は新学期という状態でろくに授業もなく、クラス単位での活動も少ない。さらに下校時間も早いことなどから、この新しいクラスで新規に交友関係を築けた者はクラスの様子を見るにほとんどいないだろう。

 かくいう俺もその手のことが苦手な部類に入る。


 兎にも角にも人は孤独を恐れ、そして孤独だと思われることを恐れ、皆今は亡き元のクラスという残骸にすがりつく。怨霊かのごとくすがりつく。

 まさに青春ゾンビ、これぞ思春期のなせる技だろう。  


 廊下に目をやると時折、何人かの生徒がクラスの中を覗きそして少しガッカリした表情で後にするのが見える。

 どうやらお気に召した獲物はいなかったらしい。まるでハイエナのようだ。


 そんなどうでもいいことをつらつらと考えていると目の前の光景が少しずつぼやけはじめる。春の麗らかな陽気に誘われてか眠気が徐々にこみ上げてきたのだ。

 遠のいていく意識と見たくもない現実から徐々に思考が離れ、心地の良い面持ちで遂に安楽の海に落ちようとすると……


 ドンッ!!  


 と不意に視界が揺れた。

 「うおっ!?」


 思わず素っ頓狂な声を上げ、不意に頭を持ち上げた。

目の前には大量のプリントの束と、そしてその後ろに眼鏡をかけた一人の女子生徒が呆れ顔で立っていた。


 髪はショートと呼ぶにはやや長く、ロングというには短い。また癖毛なのか毛先だけがクルクルとあらぬ方向を向いている。

が顔立ちは凛として整っており、年の割に大人びた雰囲気を纏っていた。眼鏡越しからでも分かるくらい大きな目にはおよそ女子高生にありがちな甘ったるい感じはなく、まるでやり手のキャリアウーマンのような風格が宿っている。


 それに加えてスタイルも無駄によく、身長は一般の女子よりもやや高いくらいで、胴回りはアホみたいにしまっている。うちに母親にも見習わせたいものだ。

総じて美人と言って十分に刺し違えないレベルだろう。


 (7……)


 「って長瀬かよ。」

 先ほど、変な声を出したせいで周りの人の目が向けられているため、やや抑えぎみの声でそのプリントの女子を見つめた。


 長瀬ながせ こととは一年次も同じクラスだった。そして同じく学級委員だった。

ただなし崩し的になった俺とは違い長瀬は自分から立候補してなった手練れだ。

そんなモチベーションの違いから、俺達は業務連絡以外ではろくに会話をしないような仲だったが紆余曲折の末、今では割とよく話す。

 だからといって親密と言うわけではないが。


 「私で悪い?」

 別に悪くないけど……

 俺は寝起きは悪くない方だが、安眠を妨げられるのは嫌いだ。多分じゃなくても男子だったら悪態の一つでも付いていただろう。

 なのに、なんで俺じゃなくてお前の方がちょっと不機嫌なんだよ。


 「んで、何これ?」

 最近のキレやすい若者の心理に内心でアタフタしながら、うず高く積み上がるプリントの束について尋ねる。


 「何って仕事。何だかうちのクラスの学級委員の一人が仕事もせずにおよそ生産性のない瞳で無意味に時間を浪費していたから、私がそんな男に存在価値を与えるために労働をめぐんでいるの。感謝しなさい。」


 と何故か上から目線で命令してくる。

そして生産性のない瞳ってなんだよ、むしろ生産性のある瞳ってなんだよ。目からやる気スイッチでも伸びてるのか。

 ふう……それにしても、感謝ですか。

仕事を貰って喜ぶのは社畜かぼっちくらいだと思うけど。


 まあ俺も今は似たようなもんだから、正直都合がいい。

話相手のいない哀れなぼっちも、なんらかの作業をすることで仕事をやらされている哀れな学級委員へとジョブチェンジできる。

労働とは偉大だ。大人になる前にいっぱい言っておきたい。


 どっちにしても哀れなのは変わらないが後者の方がまだマシなため、今は甘んじて仕事は請け負っておくことにした。

 眠気まなこを覚ますために首をポキポキと回して、椅子に深く座り直しながら、そんな長瀬に軽く応酬する。


 「無意味とか言うな、知ってるか?俺みたいなのを一部の世界の主人公だと『省エネ系』だの、『やれやれ系』での言うらしいぞ。すなわち俺のこの風体は今やれっきとしたステータスなんだ。」


 「それはあんたに主人公としての器と主体性があればの話でしょ。

凡人以下のあんたは屁理屈を吐くだけのただの下等生物に過ぎないわよ。」


 かなりひどいことを言われたようだが、言ってることが正論過ぎてもはや反発できない。確かに俺は物語に出てくるような主人公のように買って誰かのために体なんて張れないし、そんなことを考えようとも思わない。


 普通に面倒事に関わりたくないし、保身にも走る。


やはり、寝起きで垂れる屁理屈はロクなものでないな。


 俺がそんな苦い顔をする一方で、長瀬はいつの間にか前の空席から椅子を引っ張り出し俺の目の前に腰を下ろした。


 「それじゃ、あんたはこっちね。6枚1セットに分けといて、五分前になったら配るから。」


 まるでさっきのことなどなかったかのように事務的な口調でそう言って、束の半分をドッサリと俺の前に置いた。  

 ふーと鼻息をついて俺はしぶしぶ作業に取り掛かる。

 結局、俺が出来るとしたらこんな地味で目立たない裏方の仕事ばかりなのだ。

別にそこに不満はないし、分相応で今は満足している。



 そもそも学級委員という役職は元来こういった地味な仕事を任されやすい。始業時の号令やクラス会議の司会、そして今日のようなプリント配布など。

どれも簡単な仕事ではあるが、中途半端に時間がかかるし変に目立つこともある。


 だから、俺も最初はやる気はなかったし今も大してあるわけではない。

 が、一年の頃の俺の素行を理由に担任が学級委員という役職を任命したため、働かなくてはいけない。


 自分からは決して仕事はしないが、任されたならそれなりにこなすのが俺の信条だ。あくまで非難を受けないほどのそれなりだ。これは別に良くも悪くもなかろうが、学級委員という立場だとどうも面倒な事を任されるため困る。


 「多いな」


 頭の中で無意味に思考をスパークさせながら、淡々と手だけを動かしていると、思わずそんな事を口走ってしまった。

 どうにも、考え事をしていると出てくる言葉にフィルターがかかりづらい。


 「口よりもまず手を動かしなさい。吐息で温暖化が無駄に進行するわ。それに私なんてこれを運ばされた上に先生からお使いも頼まれたんだから」


 お使い?

 きつい一言と共に発した一言が気になって目だけで前を見ると長瀬は顔も向けずただ眼鏡をクイっと持ち上げた。

 取り付く島もない。

こんな仕事にもちゃんと集中できる所は、どうやら一年前から変わってないらしい。


 そんな長瀬を見て、口から漏れそうなった欠伸をかみ殺し、もう一度作業に戻ろうとすると


 「なるほどね……」


 今度は長瀬の方から口を開いた。再び目を向けると今度は視線がかち合い、このまま沈黙しているのも決まりが悪かったため俺も応じる。


 「なんだよ。」

すると長瀬は薄く笑って、一枚のプリントを差し出した。


 「あんたがプリント多いって言った理由。」

 手にとって、それに目を通してみる。


『今年度、第二学年遠足のお知らせ』


  なるほど…これか

 一番上に書かれている見出しを見て、俺はすぐに理解した。

どうやら来週末にある遠足の諸々の連絡のせいで、こんなにもプリントがかさんでいるらしい。


 試しに他のプリント確認してみると、ほとんど内容の変わらない保護者向けのものや、注意事項や遠足にかかる費用などが記されたものもある。

 こりゃ多くなるわけだ。

癖癖へきへきといった感じプリントを長瀬に返す。


 うちの学校では、四月になるとクラスの親睦を深める名目で二年と三年は遠足に出る。

 遠足と言ってもさすがに四百人近い生徒がぞろぞろと隊列組んで歩くといものではない。せいぜい大型の公園や施設へと趣きその中で自由行動をとるといった、端的に言えば修学旅行の日帰り版みたいなものだ。


 ちなみに一年はというと日帰りではなく二泊三日の泊りがけの宿泊研修がある。

二、三年の遠足もこれの代用みたいなものだろう。


 そんな今年の二年生の目的地は、能古島のこのしま

博多湾の中心に浮かぶ小さな漁島で、春になると黄熟の菜の花と大量の昆虫達で覆われる福岡でも非常にホットで激熱なスポットだ。


 アクセスは一時間に一本くらいの割合で出るフェリーで今回もどうやらそれに乗るらしい。

 そして片道一時間程の山道を歩き島の小高い山の上にある公園で昼食を摂って、最後にまた来た道を戻るといった修行僧の一日のようなスケジュールだ。

 また色々とハードだな……


 本来ならこのイベントで一部を除くほとんどの生徒が新たな友情に花を咲かし、交友関係を築き上げるため学校としては有意義な行事なのだろう。


 「また面倒な企画だな。」

 「そう?私は好きよ、なんだかわくわくするじゃない。いつもと空気が違って。」 


 俺の素直な感想にこれまた長瀬が素直な感想を述べつらう。


 「なんだか、珍しくまともな事を言うな。」

 「そうね、案野とこうして話していると、こんな自分が少しはまともに思えるわ」

 「それは褒めてるんだよな?」

 「そう聞こえるなら、受精卵からやり直した方が良いわよ、手遅れになる前に。」

 「……そんなんだからお前はクラスの奴らから嫌厭されるんだよ。」

 「良いじゃない、こういう態度は案野にしか取っていないから。」

 「それは、たいして嬉しくない優遇だな。」

 「だったら、そういうのは不遇というのよ。日本語をもっと勉強したら。」


 グッと俺は押し黙る。どうもこいつには口喧嘩で勝てそうにない。

 口ごもる俺に長瀬はなおも続ける。


 「それに嬉しいもんでしょ、異性から周りとは違う態度であしらわれるのは。なんて言うんだっけ、こういうの……つ、ツン、」

 「少なくてもお前が想像してるのとは違うから安心しろ。」

 こんなツンデレがあってたまるか、とばかりに言い添えた。そもそもツンデレじゃないし。


 長瀬は表向きは至って真面目で物静かなクラス委員だが、俺に対してだけは異常に当たりが強い。というより隙あらば暴言を吐く。


 それはこの学校でまともに話せる異性が俺くらいなのと、もともとそういう性格なのか一年たった今でも判然としない。だが俺はこれが長瀬なりの友好の証と捉えている。別にそこまで不快になるわけでもないし、何も悪意を込めて言ってるわけでもないだろう......俺のファンタジックな妄想でなければ。


 だから俺はそう開き直って長瀬と接しているわけだ。

決してそういう性質たちというわけではない。

 だって男子にやられたら、切れるもん。


 といつものようにあーだこーだと言い合いながら手を動かしていると、気がつくとプリントの分配が終わっていた。

そしてそれを見計らったように鳴り響くチャイム。グッバイ、俺の昼休み。

 いそいそと教室に戻ってくるクラスメイトを尻目に俺達は席を離れた。

これからプリントの配布をしなくてはいけない。学級委員長はなかなかに多忙だ。


 徐々に騒がしくなっていく教室で、人を押しのけつつ歩いていると突然前を歩く長瀬が振り返った。


 「案野あんの

 いきなり名前を呼ばれ、顔を持ち上げる。


 「今日の放課後、応接室にきなさい。先生が呼んでいたわよ。」

と微笑むように笑って長瀬は俺から離れていった。


 いたずらっぽくて、どこかはかなげなその笑顔。

 だから話の内容よりもそっちの方が気になった。そして失念していた。

コイツがこんな顔をする時は十中八九ロクな目に合わないということに。

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