第十四話
「アオイさん」
「はい」
「ギルドマスターに魔人さんの許可を得るのが、どのくらい難しいかお分かりですか?」
「は、はい」
「そもそもアオイさんは武器を作ってもらいに行ったのではないのですか? それがどうしてもう一人増えているのでしょうか?」
「そ、それは海よりも深い理由が」
「言い訳はいりません」
「も、申し訳ないです」
ここはラルツの町、アリスさんの家です。
そして私と魔人二人は廊下に正座をさせられて、ただいまアリスさんに絶賛お説教を受けています。
「ペットを飼うのとは違うのですから、そんなにぽんぽん拾ってこないでください」
「私も拾おうと思ってたわけではなく……」
「ではこの人は何でしょうか?」
アリスさんの赤い目がラッキーさんを睨み付ける様に射抜きます。
その瞬間ラッキーさんの全身が一瞬震え上がり、額から脂汗が一筋流れたのを私は見逃しませんでした。
「な、なんだこの圧力は?!」
「むぅ、ここまでの気迫とは。単なる吸血鬼かと思っておったのだが、我の目も狂ったか?」
魔人二人が借りてきた猫のように、ものすごく小さくなっていますよ。
「えっとジョニーさんと同じ四天王とやらのお一人、クイックのラッキーさんです」
「それでそのラッキーさんとやらは、どういう訳でアオイさんに着いてきているのでしょうか?」
「は、ははっ」
「ど・う・い・う・わ・け・で・す・か?」
えーん、アリスさん怖いですっ。
ラッキーさんも萎縮して、言葉すら発せられないようになっています。
どうしてこうなった?!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
エルフの里からアーバンの宿に戻った時、既に夜が明けていました。
そして部屋のドアの鍵を開け……もとい、ジョニーさんが壊したドアをそのまま押して開けると、ラッキーさんはもう回復していてジョニーさんと共に優雅にお茶なんぞ飲んで待っていました。
「おお、我が女神よ。お帰りなさいませ」
「我が暗黒神よ、お待ちしておりました」
二人とも私の姿を見るや否や、即座に立ち上がって深い礼をしてきました。
う、うわー。これは慣れない……。
ジョニーさんはマッチョな筋肉の大男ですが、ラッキーさんは普通の人っぽい感じです。
というか見た目だけなら、チャラそうな優男ですね。
黒い羽が背中に生えているのを除けば、ですけど。
「早速ですがラッキーさん」
「はっ!」
「これを下賜しますので、背中の羽を隠してください」
ポーチからマントを出してラッキーさんへあげました。
元々はジョニーさんのマントが破れた時の予備なんですけどね。
「おお、ありがたく頂戴いたします!」
ラッキーさんはマントをつけて、くるんと一回転しました。
えっと、雰囲気イケメンを気取っているのでしょうか。
でも私が色々と切ってしまったので、服は半そでの半ズボンという小学生のような格好ですね。
「さて我が女神よ、なぜこやつがここの大陸へと着たのか聞き出しましょうぞ」
ジョニーさんがラッキーさんの肩を掴む。
まるで尋問を始めるようですね。
いやその通りなんですけど。
「そうですね。ラッキーさん、あなたは確か魔大陸で二世と戦っていたのではないのでしょうか? それが何故世界樹を狙いにこっちへ来たのです?」
「ジョニーの兄貴が行方不明になって二千年、抜けた穴を埋める為に新しい四天王を三百年ほど前に設けたのですが、そいつもどこかへいっちまいまして」
四天王って家出癖があるのですかね。
「それで探しにこっちまでやってきたと?」
「はい、ついでに先日の赤い月で新しい魔人が生まれてた場合、回収する役目もありやした」
「それが何故世界樹を壊そうと?」
「下に面白そうな木があったので、つい」
「つい、で世界樹を壊そうとするなっ!」
「へい、申し訳ありやせん! でも魔人とはそう言ったもんですぜ」
ジョニーさんのほうを向くと、首を横に振って否定しています。
「いやいや、兄貴が変なだけでオイラが普通の魔人でさあ」
普通の魔人って何でしょう。ジョニーさんは戦闘狂ですから、木よりもエルフを攻撃しそうですけど。
「まあそれはともかく、その家出した新しい四天王ってどんな人なのですか?」
「ジョニーの兄貴に匹敵するくらい強いやつなんですけどね」
ラッキーさんがそう言った時、ジョニーさんの眉が一瞬ぴくりと動きました。
「ほほぅ、それは楽しみだ。してラッキーよ、どこにそやつは居るのだ?」
「それが分かれば苦労しやせんぜ」
「それを探しに来たんですよね。で、その魔人の名前は?」
一体なんという名前なんでしょうね。
マッスルのジョニー、クイックのラッキー、フォーシーのボブ、ぼっちのエレガント。
こうくれば次はお座りポチですかね。
投げやり感がありまくりですが。
「流離い人チャッピーと言いやす」
「魔人が流離うなっ!」
もはやアコースティックギター持って、草色の帽子と服を着てパイプ咥えている、トロールとお友達の人しかイメージできません。
……魔人って一体何なんでしょうか。
「永遠に流離っていてくれれば良いのですけどね」
「チャッピーは強いことは強いんですが、趣味が草笛ですし、本気でどこかの酒場で一曲吹いてそうなんですよ」
「く、くさぶえ……」
「なかなか綺麗な音色ですぜ? 我が暗黒神も機会があれば是非聞いてみるといいと思いますぜ」
魔人って魔に堕ちた人なんじゃないのですかっ! なぜ草笛なんていう洒落た趣味を持っているんですかっ?!
「我が暗黒神よ、一応オイラたちにも趣味の一つや二つはありやすぜ」
「魔人の趣味が草笛というイメージがつかないだけですよ。ちなみにラッキーさんはどんな趣味を持っているのですか?」
「オイラはこう見えてもお茶の淹れ方がうまいんですよ? さっきジョニーの兄貴にも淹れましたが、我が暗黒神もどうですか?」
「……いえ、いりません」
まだ戦闘狂のジョニーさんのほうが想像つきます。
……頭痛くなってきました。
「ジョニーさん、ラッキーさん。取りあえず今日は寝ましょう」
「朝になったばかりですが?」
「今日はもう私は疲れました」
「わかりました我が女神よ。女神が寝ている間、ラッキーを少し鍛えてきますぞ」
「どうぞー。でも自然破壊はやめておいてくださいね」
「了解しました」
こうして翌朝までたっぷり寝た私は、ジョニーさんとラッキーさんを伴ってラルツまで戻ってきました。
途中ベールでいつものお肉&ワインセットを買って食べたのは言うまでもありません。
そしてラルツ着いてすぐアリスさんの家に行ったのですが、こうしてお説教を喰らっている最中です。しょんぼり。
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「さてアオイさん、そしてそのお二方も。今からギルドへ行って説明をしにいきましょう」
「今からっ?!」
「何か文句でもありますか?」
「いえすまむっ!」
アリスさん、ジョニーさん、ラッキーさん、そして私の四人はギルドへと向かいました。
真昼間から吸血鬼とダンピールの二人が居るだけでも目立ちますのに、筋肉とチャラ男をお供にしているのですから、注目の的ですね。
しかも注目の的になっているのが嬉しいのか、ジョニーさんは歩きながらポージングしているし。
それを見た通りすがりの女の子にキャーキャーと言われています。
満更でもなさそうなジョニーさんですが、それは黄色い声じゃなく、きもいコールだと思いますけど。
「あれ? アリス先輩、さっき帰ったんじゃなかったでしたっけ。今日もまた徹夜しにきたのですか?」
ギルドに着いた私たちは、アリスさんを先頭にしてギルドの中へと入った途端、アリスさんの後輩らしき人に言われました。
これだけでいかにアリスさんがワーカーホリックかわかりますね。
「いえ、ギルドマスターはいらっしゃいますか?」
「ええ、上にいると思いますけど」
「少々お邪魔しますね」
「はい、どうぞ」
私は後輩の人(顔は知っているのですけど、名前は知りません)に軽く会釈をして通っていきます。
続いてジョニーさんとラッキーさんも同じようにギルドの中に入りました。
「ひっ?! オーガー?!」
後輩の人がジョニーさんを見て、びくりと震え上がりました。
「違います違います、こう見えてもこの人はれっきとした…………人間ですよ?」
「あ、アオイさん、どうしてそこで間を空けるのですか?」
「少し躊躇ってしまいました。オーガーではありませんのでご安心ください」
躊躇う理由はお分かりですよね?
「小娘よ、我をオーガーなどという下賎な魔物と一緒にするでない」
「し、失礼しました」
「以後気をつけるようにな」
「いやいや、ジョニーさんもそんな強面にするからですよ」
「我が女神よ、この顔は生まれつきです」
「……何だかごめんなさい」
二階に上がったアリスさんは、ギルドマスター室のドアをノックしました。
「ギルドマスター、アリスです。アオイさんを連れてきました」
「お? 案外早かったな。いいぞ、入って来い」
「失礼します」
ドアを開けて中に入る四人。
中にはギルドマスターとサブギルドマスターの二人が座って書類整理していました。
そういえばまだ復興途中でしたね。
「ああ、そこに適当に座って……って、誰だ、その男二人は?」
「サブマスター、少し前に許可を取った魔人さんです」
「確か一人だけと聞いたが」
「アオイさんがもう一人お連れになってきたみたいでして」
ふむ、という顔つきでリリックさんが魔人二人を観察し始めました。
ちなみにギルドマスターのほうは書類整理に飽きたのか、あくびしてます。
「なるほど、これが魔人というものか。確か人類とは敵対していると古い書物には書かれていたが」
「今は我ら両名、我が女神の下僕です」
「は? 女神?」
「……なんでしょうか、リリックさん?」
なぜそんなに顔をゆがめながら私を見るんですか。
「アオイよ」
「はい」
「確かにお前はダークエルフの血が混じっているだけあって美形だよ。でもな、いくらなんでも人外からも好かれるとは思わなかったぞ」
「可憐な美少女冒険者ですから、モテるのは仕方ありませんよ?」
「ま、お前も十五歳だ。でも一応言っておくが、男遊びも程ほどにしておけよ?」
なっ、なんということを言いやがりますかこいつは!
「しつれいなっ! 私は男には興味ありませんっ!」
「お前、そっち系だったのか」
「違いませんけど違いますっ!」
「どっちだよ」
男には興味ありません。女の子なら少しは興味はありますけど、それよりも血のほうが重要です。
「サブマスターもアオイさんをからかってないで、真面目にしましょう」
「おっ、すまん。じゃあ本題だ」
「はい」
「魔人は一人ですら町をも簡単に滅ぼせるほどの災害クラスの魔物だ。それが二人もいるということは、どれほど危険か分かるよな?」
「はい、わかっています」
胡散臭そうな目ですよ?
「本当にわかっているのか? もし魔人が暴走したらどうするつもりだ?」
「そこから先は少々ご内密にですが、私は魔を封じる目と銀の武器を持っています」
「魔を封じる? 銀? なんだそりゃ」
「とりあえずこの二つがあれば、万が一魔人が暴走したとしても大丈夫です」
そしてリリックさんに今まで起こったことを説明しました。
半信半疑ですが……。
「うーむ、銀ねぇ。確かに吸血鬼に銀が効くのは知っているが、魔人にも効くとは思ってもみなかったな」
「一応万が一の時を考えて、銀の武器を大量に集めてはどうでしょうか?」
「あのな、銀はすげぇ高いんだ。滅多に採れない貴重品だぞ? グラム百万ギルしても不思議じゃない」
「え? そこまでするのですかっ!?」
ちょっとまってください。
この戦斧って十kgくらいありますよね。
刃の部分が八割の重さだとして、そして銀はそのうちの半分混ぜてあるとすれば四kgの量になります。
……つまり四十億ギル?
くらっときました。
超最高級の魔法剣と同じくらいの値段ですよ。とても個人では買えるようなモノじゃないです。
よくあのエルフさんたち、これ譲ってくれましたね。
「取りあえずはわかった。その二人の魔人がここに住むことも許可しよう。ただし、二人とも冒険者に登録しろ」
「登録できるのですか?」
「その辺はアリスに任せる。何はともあれ俺らなんぞより遥かに強い魔人が味方になれば、強力なカードになる」
冒険者登録させて、ここに縛るんですね。
大人って汚いです。
「我は人間たちの味方ではないぞ? 我が女神の意向に沿うだけだ」
「オイラもそうだ。我が暗黒神に全てを捧げたしな」
「と二人は言っているが、うまくやれよ、アオイ?」
「善処します」
こうして一応ジョニーさんとラッキーさんはラルツ所属の冒険者になりました。
しかもなんとS-ランクです。
一気に追い抜かされました。くすん。
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