第七話
「吸血鬼と……ダンピール、しかも同族か。なるほどなるほど、サラが五十年ぶりにここへ戻ってきた理由はそちらのダンピールか」
「はい、ぜひとも族長にはお伝えしたくて」
扇子とか持っていますよこのロリっ子。
さっきからぱっちんぱっちんうるさいですね。
「で、このアオイ殿がアベリア様の子です」
「ふむ、姉上の子か。確かに気配は姉上のに間違いなさそうじゃが……信じられぬな。まさかダークエルフが子供を生めるとは」
ん? ダークエルフって子供産めないのですかね?
でもそれじゃ、どうやって人口を維持しているのか分かりません。
まさか子供が出来ない滅び行く種族、なんていうオチではないですよね。
でもまずは挨拶からですね。
「始めまして、ラルツで冒険者をやっているアオイです。こちらが私の
「まあとにかく座るが良い」
扇子であいている椅子を指してきました。
子供が頑張って背伸びしているような感じですよね。
ロリババアなんて小説などではよくある設定ですけど、実際に見てみると違和感ありまくりですよねー。
でも、よく考えればうちの母親の妹なんですよね。ということは私から見ると、叔母さんという事になります。
この子供を叔母さんって呼ぶのに何か抵抗ありますよ。
「妾がこのダークエルフを預かる族長の、エピラ=シルフィードじゃ。アオイ、と言ったの?」
「はい」
「姉上はちゃんと元気にしておったかの?」
うちの母親の事から聞いてくるなんて、やっぱり心配なんですね。
でも、正直殆ど覚えていません。
生まれてから十五分くらいで捨てられましたしね。
「私は生まれてすぐ捨てられましたから、さっぱり覚えていません」
「捨てられた? 姉上が我が子を捨てた?! そんな事は考え付かぬが……。それにしても、アオイは魔大陸で生まれたのじゃろ? よく生きていたな」
うちの母親、確か「仕方ないねー、かわいそうだけど捨てちゃうか」って言ってた記憶があります。
全然人徳者には見えない発言ですよねー。
それに、全く本当によく生きていたと自分でも花丸満点を上げたい気分です。
「どうやら捨てられたあと、偶然狼を魅了したみたいで。そして幸いその狼は、魔大陸でもかなり強い魔物でした。私が覚えているのはその狼に育てられたという事だけです」
取りあえずはこのように設定しておきました。
突っ込みどころ満載な設定ですけどね。
「魔大陸でも強い狼じゃと? そりゃフェンリルじゃの。確かに真祖はフェンリルを使い魔にする事があると聞くが、しかし赤子でフェンリルを魅了などと、普通はそんな馬鹿げた話はあり得ぬ」
「私が真祖のダンピールだという事をよくご存知で」
「姉上はあのいけ好かない真祖野郎を好んでおったからの」
真祖野郎ですか。草を生やしたい気分ですね。
それにしても、このロリっ子はあのくそ親父と会ったことがあるのですね。
「あと、ダークエルフのダンピールって珍しいのですか?」
「そりゃ珍しい。アオイ以外いないであろ」
「ほんとにっ?!」
いくらなんでも私以外に居ないなんて断言できるのでしょうか。
ああ、そういえばダークエルフの元締めでしたっけ。
であれば自分の部下が子供を作ったらわかる、っていう事ですか。
「第一、我らダークエルフは子を生せぬ」
「え? ではどうやって増えているのですか?」
「お主、それすら知らぬのか。確かに生まれてすぐ捨てられたという事は事実のようじゃな」
こ、これも一般常識?!
アリスさんのほうを見ましたが、しかし彼女も知らないようで首を横にふるふると振ります。
なぜかちょっぴり安心しました。
「私が狼から習ったものは生きていく術以外ありませんでしたので」
「ならば教えてやろうかの」
彼女はコホン、と咳をしておもむろに椅子の上に立ち上がりました。
お行儀悪いですね。
ま、お子様ですし仕方ありません。
「ダークエルフとは、エルフが魔に堕ちたものを指すのじゃ。人間が魔に堕ちると魔人になるように、エルフが魔に堕ちるとダークエルフとなる。そして魔に堕ちたものは子を生すことができぬ」
えええっ?! じゃあ私は魔に堕ちた悪い子だったのですかっ?!
いえ、堕ちたのは親であって私じゃありませんよね。
「一度だけ魔人と会ったことがありましたが、あの時感じた狂気のようなものは、ダークエルフからは感じませんけど」
「エルフは魔に強い抵抗力を持っておるからの。狂うことはない」
「あれ? 強い抵抗力を持っているのに、魔に堕ちるのですか?」
そういう意味ではない。と、彼女はため息を吐き出しました。
「そもそも魔に堕ちる条件というのは、素質ある者のみじゃ。条件さえ整っていれば、勝手に堕ちてしまう。抵抗力があろうがなかろうが、問答無用なのじゃよ」
でも抵抗力が高いおかげで、肌黒くなったり銀髪になったりするけど、狂うことはない、そういう訳ですか。
それとダークエルフが子供生めないなら、なぜ私は生まれたのですかね?
「えっと、あとダークエルフが子供生めないのなら、なぜ私は生まれたのです?」
「うむ、分からぬ」
やっぱり分からないのですか。
うーん、自分の生まれた経緯が分からないのも釈然としませんよね。
「ただ、誰も吸血鬼と子を生す行為をしたことはないからの。第一普通は吸血鬼がダークエルフを血族にするからの」
「ですよねー」
となると、ダークエルフは赤い月になった時のみお仲間さんが増える、という事ですか。そういや先日赤い月がありましたけど、その時に増えたのでしょうかね。
さて、そろそろ本日の本題を聞くことにしましょう。
「あともう一つ聞いておきたいことがあるのですが」
「なんじゃ?」
「実は魔人と会ったことがある、と言いましたが、その時レムさんという二世吸血鬼とも会いました。この名前をご存知でしょうか?」
「いけすかない真祖の二世か? いや知らぬが」
「そうですか。彼女から、ダークエルフの里に来れば得るものがある、と聞いたのです。何か心当たりありますか?」
椅子に立っていたロリっ子が扇子を広げ顔の半分を隠して、座りなおしました。
どうやら思案している様子です。
「ふむ、なるほどの。お主を戦力として迎えたいという事じゃな」
「戦力??」
「うむ、お主、真祖吸血鬼が魔人王を閉じ込めていることは知っておるかの?」
「敵対していることは知っています」
「真祖は現在七人おる。そのうち四人が魔人王を結界で閉じ込めているのじゃ。真祖が結界に力を注いでいるから、魔人王以外の魔人を倒すのに二世や三世といった吸血鬼が動いておるのじゃよ。その戦力のあてにされておるのではないか?」
「えー、そんな面倒なことを」
「そして封印の間にある、ダークエルフの秘法でお主の抵抗力を高める、という訳じゃな」
秘法。秘宝ではないのですね。お宝じゃなかった。
「秘法? 抵抗力? なんでしょうか、それ」
「ダークエルフ、エルフ族は魔に対して強い抵抗力を持っておる。それを更に高めるためのものじゃよ。しかもダークエルフにしか扱えぬし、秘法をかけた相手はその影響で寿命が半分になるというものじゃ」
「半分!?」
「しかしお主はダンピールじゃし、寿命が半分になったところでまだ数万年はあると思うがの」
ダンピールの寿命がどの程度あるのかは知りません。
でも半分になっても数万年ですか。
気の遠くなるような話ですよねー。
「ところで、その抵抗力を高めるといい事あるのですか?」
「うむ。魔への抵抗が増す。すなわち魔人だろうが吸血鬼だろうが、あらゆる魔の力を半分まで下げる」
千ダメージが五百ダメージになる感じですか。
なんというか微妙ですよね。
それの取引が寿命半分。うーん、あまりお得に感じられません。
それに吸血鬼たちの戦力と言いましたよね。
つまり平たく言えば、私が魔人たちの盾になれって言うことですよね。
なんという自分勝手な奴らなんでしょうか。
腹が立ってきましたよ。
しかし続けて言ったロリっ子の言葉がすばらしいものでした。
「そしておまけに成長も早くなる」
「成長が早くなる?」
「寿命が半分になるからの。すなわち成長が二倍になるのじゃよ」
……ということは、二倍早くアリスさんのような体型になれるということですね。
「早速やりましょう。今すぐやりましょう! お願いします!!」
「お、おう。本当にいいのか?」
「ええ、ぜひともお願いしますっ!」
そうです、よく考えたら魔への抵抗が高くなる、ということはくそ親父の攻撃も半分になるのです。
すなわち、それだけ親父を早く殴れるようになるという事です。
「だが少々問題があっての」
「問題?」
「二千年ほど昔に、ここへ魔人がやってきたことがあるのじゃ。妾と姉上が共同して封印をしたのじゃが」
二千年ほど昔って事は、このロリっ子は二千歳以上?
やっぱりロリババアですね。
「それが何かあるのですか?」
「ダークエルフの秘法を行う間に封印をしたのじゃよ。そこの部屋が一番封印に適していたからの」
魔の力を半分にする秘法ですからね。
魔人を封印するには最適ということですか。
でも、この流れはきっと私にその魔人を倒せとか言うのではないでしょうか。
「それなりに上位の魔人で、妾と姉上が苦労して封印に成功したのじゃが、正直邪魔での。できればお主に倒してもらいたいのじゃ」
「私が勝てるとお思いで?」
「真祖の血を継いだ二世であり、且つ魔への抵抗が高いダークエルフの子じゃぞ、お主は?」
それは買いかぶりすぎでしょう。
「所詮ダンピールですよ、私は。自分の能力を過信する訳にはいきません」
「確かにお主はダンピールじゃ。しかしハーフでありながら本来の吸血鬼、ダークエルフとほぼ変わらぬ力も持っておる」
「え? そうなんですか? 今までそこまで強いと思ったことはないんですが」
「ただのダンピールごときが、あの魔大陸で生きていけるわけがなかろうて。あそこは災害クラスの魔物がうようよ居る大陸じゃぞ?」
「そうなんですかねぇ……」
「ま、やってみるのもよかろ? ダメだったときは、妾が再度封印するからの」
ああ、いざというときの保険はあるのですね。
じゃあチャレンジしてみますかね。
「ところでその封印されている魔人というのは?」
「すごい筋肉をもっておったの。更に攻撃魔法を打ち消してきおった」
「筋肉……。いやですねぇ、パワータイプの魔人ですか」
でも逆に言えば、魔法を使ってこない魔人という事ですね。
力であれば、私も多少自信があります。
それなら何とか勝てそうですね。
「アオイさん、私はどうしましょうか?」
「えっと、アリスさんは今回は大人しく待っててください」
「私も少しはお手伝いできるかと」
「ごめんなさい、正直に言わせていただくと、アリスさんじゃ足手まといです」
「はい、わかりました。私も早くもっと強くなってアオイさんと戦いたいです」
「これからたっぷり時間はありますから、急がなくてもゆっくり強くなりましょう!」
「はい、約束ですからね」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そして夜まで待って、封印されていた魔人とご対面したわけです。
しかも魔法を打ち消して、単なる風圧で私を吹き飛ばすような常識はずれのパワーを持っている魔人です。
何とか勝てそうと思ってた自分を殴ってやりたいですね。
さあどうしましょうか。
「ふはははは、今度はこちらからいくぞぉぉぉぉ! マッスルパーンチ!」
魔人はその場に立ち止まったままこちらへ向けて腕を突き出した瞬間、私は何かに激突したかのように吹き飛ばされて壁にぶつかりました。
くっ、これってただの拳圧ですか?!
地面へと倒れこむ私。
すぐに起き上がろうとしましたが、壁にぶつかった影響で背骨が折れたみたいです。
まともに立ち上がることができません。
「さあ、まだ我はスパーリング程度の力しか出しておらぬ。どうする、小娘よ」
勝ち誇ったかのように腕を組んでいる魔人。
背骨が急速に修復していき、ふらつきながらも何とか立ち上がりました。
しかし、これはピンチすぎますね。
「一体どうやったらそんな非常識な力をもてるのか、不思議ですよ」
「ふはははは、我が魔人になってから千年間、毎日プロテイン飲んで腹筋して鍛えた結果がこれだ。地道な特訓こそが最強の筋肉を生み出すのだ」
プロテインあるのですかっ!
それ以前に堅実な鍛え方なんですね。
筋トレも千年続けていればあんなふうになるんですねぇ。
「さて、次は小娘の番だ。かかってくるがよい、胸を貸してやろう」
「そうですか、ではお言葉に甘えさせていただきます」
私はポーチに仕舞っておいた静御前を取り出し、そして上段の構えで静かに魔人をにらみつけました。
「珍しい武器だな。オラわくわくしてきたぞ」
「どこの野菜人ですかっ!」
さあ、いきますよっ!
そして、私と魔人の死闘が始まりました。
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