第八話
さて、このロリコンリッチを討伐しないといけません。
リッチの魔法は強大です。Sランクに属しているものの、その力は生前の能力にかなり左右されます。
そして時を経るごとに徐々に強くなっていく習性があります。
何となくずるいですよねー。いえ、吸血鬼も年を取るごとに強くなっていきますが、私はダンピールですからそこまで影響はありません。
影響があったとしても、ただか十五年では誤差の範囲でしょうしね。
さて、何か打つ手はありますかね。
と、その時ふと自分の左手に精霊を結んでいる事に気がつきました。
私がリッチと相対しているときもずっと静かでしたから、すっかり忘れていました。
私はリッチへの視線をはずさないように、彼を視界へと入れました。
どうやら彼は熱心にある一点を見つめている模様です。
私の革のミニスカートから覗くふとももを。
「とりあえず精霊あたっくーー!」
手に結びつけていたエロシルフを、素早く外してリッチへと投げつけました。
「さあエロシルフさん、逝ってください!」
(ちょっ?! まってまってよ!)
何か聞こえた気がしますが、そんな瑣末なことはどうでもいいですね。
ぽーんと飛ばされたエロシルフは、なんだかんだ言いつつ風を操っている様子です。
「ぬっ?」
リッチは、さっきまでドアを指していた指をすぐさま複雑に動かし始めました。
さすがロリコンでもSランクです。
私には到底真似できない速度で、空に呪文を描いています。
その間、私もボケっとしているわけには行きませんっ。
エロシルフさんの尊い犠牲を無駄にもしないために、魔法を使いましょう!
「アオイが契約する、火の六階梯、永遠なる業火」
火の最上級魔法、永遠(とわ)なる業火です。
この業火は一度火が付けば、それを全て燃やし尽くす呪いの火です。
火に強いとされるAランクの魔物ワイバーンですら、この火に焼かれれば肉の欠片すら残りません。
ドラゴンには無理ですがね。だってあいつら火そのものがきかないんですから。
しかし相手は火に弱いアンデッドの親玉とも言うべき存在です。
私が使える最強の魔法をくらいやがれーー!
私の放った火の魔法とエロシルフが生み出した暴風が、リッチを襲います!
凄まじい爆風と、その威力を包み込むように暴風が圧縮しました。
今思いましたが、こんな狭い部屋で使う魔法ではありませんでしたね。
エロシルフの暴風が、永遠なる業火の爆風を押さえなければこちらにも被害が出ていたかも知れません。
まあ結果良しとしますか。
(やったか?!)
ああっ?! そのセリフは決して言ってはいけないのにっ!
暴風の力を利用してこちらへ舞い戻ってきたエロシルフを叩き落としてやりました。
(ひどいっ! 僕何かした!?)
「はい、とんでもないフラグを立ててしまいました」
(ふ、ふらぐ?)
その瞬間、リッチの居た場所から凄まじい魔力を感じました。
私の爆風が、掃除機に吸い取られるかのように中心へと吸い込まれ消えていっています。
むー、あの魔法は私が使える中で一番強力なんですけどねー。
魔法に関して言えばリッチは超一流と聞いてはいましたが、まさか第六階梯の魔法すら通用しないとは思ってもいませんでしたよ。
爆風が全て吸い取られると、やはりというべきかリッチは平然と立っていました。
唯一、目の窪みにある青白い炎がさっきと比べて強くなっています。
うん、これは本気でやばいですね。
さあどうしましょうか。
リッチが一歩、前へと足を出します。
それに呼応するように、私の足が一歩後ずさりしました。
意識していないのに、勝手に足が動いてしまいました。
リッチの放つ圧倒的な迫力に負けています。
これはまずい、ちょーまずいっ。
一度撤退して応援を呼ぶべきですね。
問題はちゃんと逃がしてくれるか……。
「そこの年増っ!」
……は? だ、誰が年増ですか! 私はまだ十五歳ですっ!
「見た目だけは十一歳のくせに年増などというダンピールは我輩の忌むべき敵である。滅びるが良い、下等な種族よ」
そういうが早いかリッチは再び、今度は両手を使って空に呪文を描き始めました。
こちらの魔法は効き目がありません。
既にリッチは呪文を唱えています。今更逃げても背中を撃たれるだけでしょう。
そして、いくら私がダンピールの不死性を持っているとはいえ、リッチの放つ強力な魔法を食らえば身体ごと消滅する可能性があります。
そうなれば、流石に復活するのは不可能でしょう。
となれば、
リッチは強力な魔法を使いますが、私だって強力な身体能力があるんです。
私が本気を出せば人間の目の動きでは捉えきれないくらいの速度は出せます。
そしてリッチは魔法は強力ですけど、身体能力は人間よりも遥かに劣るんです。
床を蹴って一気に相手の懐にもぐりこんだ私。
リッチから見れば瞬間移動したかに見えたでしょう。
ただし、彼の目は笑っていました。
それはリッチには物理攻撃が殆ど効かないからです。
魔力のこもった武器、あるいは魔法以外ダメージを負わないのです。
そして私は、ただの鉄で出来ている短剣しか持っていません。
だからこそ、そこに隙が生まれるんです。
私は右拳に魔力を籠めました。
魔力を籠めることにより、魔法の武器と同等の力を発揮する事が出来るのです。
さあいきますよっ!
私のこの手が光って唸る! ロリコンを撲滅せよと輝き叫ぶ!
「シャイニング右ストレート!」
……すみません、前世ではGの世代だったんです。
森に引きこもっているうち、ついこんな技を身に着けてしまいました。
私の輝くアイアンクローならぬ右ストレートがリッチの顔面へと突き刺さりました。
そして更に爆発。
その威力でリッチが壁へと激突します。その衝撃で岩の壁に大きな窪みが生まれました。
そして骨の身体が跳ねて床へと落ちました。
「お、おおおぉぉぉ。我輩の顔が!?」
まだ生きていますかっ。
あれ私の全力の一撃でしたのに、さすが物理攻撃耐性を持つリッチですね。
しかしリッチは立ち上がると、自分の顔を手で押さえるようにしていました。
良く見ると頭蓋骨にヒビが入っています。
そしてヒビがどんどん広がって、骨の欠片がぼろぼろと崩れるようにして落ちていっています。
これはちゃんす!
追い討ちでとどめですっ!
私の赤い目の中心に冷気が集まっていきます。
吸血鬼の最大の必殺技ですっ!
「目からぜったいれいどビームっ!」
リッチの体にビームが当たった瞬間、リッチを巻き込んで周囲が一瞬にして凍りつきました。
いちげきひっさつ!
吸血鬼は火属性の攻撃よりも、氷属性のほうが得意なんですよ?
流れている川の水を全てを凍らせるほどにね。
こうして私は無事リッチを討伐しました。
また攫われた少女ですが、全員無事でした。
なぜ全員無事だったのか不思議に思っていたのですが、少女の一人がとある証言をしてくれたので、何となくその理由がわかりました。
その証言とは……。
「あの怖い骸骨おじいさん、暇があればずっとあたしたちを見ていたんです。こわかった~」
……つまりYESロリータ、NOタッチ?
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