第45話 遅れてきた転校生
2年2組の担任は田中先生というベテランの小母ちゃん先生だ。月見が丘小学校には訳ありの生徒が通っているので、それに理解のある先生が集まっている。ぽんぽこ狸の田畑校長は、転校生を田中先生が教室に連れて行くのを心配そうに見送った。
「やっかいな転校生やなぁ……」
ぽんぽこ腹鼓を打つが、ペポン! と、なんとなく湿った音だ。普通の転校生は新学期にやってくる。ゴールデンウィーク前という中途半端な時期に転校してきたのには、ややこいしい訳があるからだ。
「皆さん、おはようございます! 今日は新しいお友だちが増えました」
教室に田中先生が見知らぬ男の子を連れてきた途端、普段は元気よく号令をかける珠子ちゃんは驚いて忘れてしまったが、気をとりなおして朝の挨拶をする。教室に新しい机があったので、転校生がくるのかと騒いでいたのが、あの男の子だとは知らなかった。
「先生、おはようございます!」
元気な声があがり、転校生の男の子はここなら楽しく勉強できそうだと笑う。
「犬飼守です! 宜しくお願いします」
何人かは、犬飼動物病院の孫や! と隣の子と話をする。
「珠子ちゃん、守くんのお世話をしてあげてね」
級長の珠子ちゃんは、犬を連れてないなら守くんの世話ぐらいへいっちゃらだと引き受けた。人間の子どもにも慣れてきたのだ。
「守くん、私は米倉珠子。わからんことがあったら何でも聞いてな」
席は離れていたが、休憩時間に声をかけに行く。守くんは、あの凄いジャンプをした女の子だと気づいた。
「珠子ちゃんは、何かスポーツしているの?」
格好悪い出会いを忘れて欲しいと珠子ちゃんは顔を赤くする。
「何もしてないよ! 大きな犬に驚いたからや。それより、昼休みに学校を案内しようか? それとも男の子にして貰う方がええ?」
転校生にあれこれ質問しようと、男子が集まっている。珠子ちゃんは級長だけど、無理に案内はしたくない。それに、守くんは人間の子どもだとは思うのだが、何故か近づきたくないと感じる。犬を飼っているからかな? と珠子ちゃんは首を傾げる。
「守くん! 俺が案内したるわ!」
お調子者の河童の九助なんかに案内は任せられないと思ったが、他の生徒も一緒なら大丈夫だろうと珠子ちゃんは頷いた。
「珠子ちゃん……」
守は、可愛い珠子ちゃんに案内して貰いたかったが、九助くんが張り切っているので断れない。
「なぁ、何で守くんの案内をせーへんの?」
小雪ちゃんは、珠子ちゃんが守くんを避けたような気がした。
「何でやろ? 側に居たらあかん気がしたんや。犬を飼っているからかも……犬嫌いを治さなあかんわ!」
猫娘の珠子ちゃんが犬嫌いを治せるかなぁと小雪ちゃんは笑った。
「私も夏を好きにならんとあかんなぁ! かき氷は夏が美味しいんやから!」
雪女の小雪ちゃんは、1年生の夏はほとんど保健室で過ごしたのだ。今年は頑張ろうと拳を握りしめた。
守くんは九助や他の男の子達に学校を案内して貰ってから、2組にも馴染んでいった。それと、人間の子ども達から訳ありの生徒が通っているのも教えて貰う。
「そうか……珠子ちゃんは猫娘なんだ……」
それで自分とは最小限にしか話さないのだと、守くんはしょんぼりする。守くんは人間の子どもだけど、少しややこしい事情があるのだ。前の学校を辞めたのもそれが原因だった。
「守? 何か学校であったの?」
お母さんは、前の学校での事件を思い出して、心配そうに声をかけた。
「お母さんは心配しなくて良いよ! この学校は楽しそうだから。クロと散歩してくるね」
守くんのお父さんは、心配そうに見送るお母さんの肩に手をかけた。
「守なら大丈夫だよ! 月見が丘小学校なら、守ものびのび勉強できるさ」
妖怪学級があるぐらいだからとお父さんは笑うが、お母さんはやはり心配だ。
「クロを拾って来なければ……普通の男の子として暮らせたのに……」
お父さんは、お母さんの心配は理解できたが、クロとの絆は切ることはできないと肩を竦める。
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