第17話 霙屋のかき氷

 登校日の帰り道で、珠子ちゃん達が霙屋にかき氷を食べに行こうと話したが、豆花ちゃんの習い事の都合で、なかなか行く日が決まらなかった。夏休みにピアノ発表会があるので、それが終わってからとお母ちゃんに言われたからだ。


「ピアノの発表会、見に来てくれて、ありがとう」

 豆花ちゃんは、珠子ちゃんと緑ちゃん、そして何時も店の手伝いが忙しい小雪ちゃんまでピアノの発表会に来てくれたのが、とても嬉しかった。三人で小さな花束もプレゼントして貰い、自分の部屋に飾っている。


 夏はかき氷の本番だ。霙屋の前には行列ができるほど繁盛しているが、開店前に入れて貰った。だから、店内には三人しかいないので、ゆっくりとメニューを見て選べる。


「小雪も一緒に食べてもええよ。毎日、よく手伝ってくれたから」

 雪女の小雪ちゃんは、かき氷が大好物なので喜んだ。3食かき氷でも良いぐらいだ。

「ほなら、お母ちゃん、みぞれ!」

 透明のシロップだけを掛けたみぞれは、氷の食感が一番よくわかる通が注文するかき氷なのだ。

「なんか、小雪ちゃんは大人やなぁ。でも、やっぱり私はミルク! おばちゃん、ミルクをたっぷりかけてね」

 猫娘の珠子ちゃんは、ミルクが大好きだ。小雪ちゃんのお母ちゃんは、かき氷を半分器に入れたら、練乳をたっぷりと真ん中に入れてあげた。普通のかき氷なら、溶けてしまうが、雪女の作るかき氷はたっぷりと練乳をかけてもふわぁとしている。その上に山ほどかき氷を乗せて、練乳を雪山みたいに掛けた。


「わぁ! 美味しそうやねぇ! 私はイチゴミルクにしよう!」

 おしゃれな緑ちゃんは、かき氷も可愛いイチゴミルクを選ぶ。

「豆花ちゃんは何にするの?」真剣にメニューを眺めている豆花ちゃんに、小雪ちゃんは尋ねる。

「やっぱり、宇治金時にするわ!」

 家で和菓子を食べているから、ミルクとかイチゴとかにしようとメニューを何度も見ていたが、やはり小豆洗いの豆花ちゃんは餡子が好きなのだ。


 四人でシャカシャカとかき氷を食べる。

「あっ、つ~んときた!」

 珠子ちゃん達三人は、急いで食べすぎて、頭が痛くなったと笑うが、小雪ちゃんは何の事かわからない。

「いっぺんに食べてみたら、つ~んとくるかなぁ? お客さんも時々つ~んときたと騒いではるねん」

 真冬の雪山でも平気な雪女がかき氷でつ~んとするわけがないと、小雪ちゃんのお母ちゃんは、口いっぱいに頬張っているのを見て笑った。氷の配達をしているお父ちゃんも、月見が丘小学校に通って、友だちもできたのでホッとしている。


 雪女と雪男の夫婦から産まれた小雪ちゃんは、夏の暑さに弱い。小学校に通わせるのは無理ではないかと、夫婦で何度も話し合って入学を決めたのだ。一学期の後半は、保健室で休んだりと心配したが、こうして友だちと仲良くかき氷を食べている姿を見ると、夫婦は自然とにまにましてくるのだ。


「そや、今度の盆踊りは小雪ちゃんも来れるやろ?」

 同じ商店街の豆花ちゃんが尋ねるが、小雪ちゃんは首を傾げる。夜でもヒートアイランド現象で暑いのだ。

「私は、おニューの浴衣を作って貰ったんやで!」

 呉服屋の緑ちゃんは、着飾るのが大好きだ。盆踊りには髪も可愛く結って貰うと話している。

「無理せんでもええけど、ちょこっと覗いても楽しいよ。銀次郎くんは笛を吹くし、大介くんは太鼓を叩くんやて!」

 他のクラスメイトとも会いたいなぁと小雪ちゃんは悩む。

「行ってきたらええ! しんどうなったら、迎えに行ってあげるから」

 大きな透明の氷を担いだお父ちゃんに言われて、小雪ちゃんは頷く。本当は行きたかった。でも、途中で気分が悪くなったりしたら、他の子に迷惑をかけると遠慮していたのだ。

「やったぁ! 皆で盆踊りや!」

 珠子ちゃんも一緒に行きたいなと思っていたのだが、小雪ちゃんが暑いのは苦手なのはよく知ってるから、無理強いはしたくなかったのだ。

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