青い春をかける少女

七瀬夏扉@ななせなつひ

01 青瀬春

 私の名前は青瀬春あおせはる。14歳。


 どこにでもいる普通の女の子、とは思われたくないと思っている――

中学三年生の受験生。

 

 趣味は読書と音楽。好きな作家はたくさんいすぎて選べません。

 それと音楽は聴くのも好きだけど、演奏するほうが好きなタイプ。ちなみに楽器はサックスとギター、それにピアノを少々。吹奏楽部所属でした。最近、中学校の友達と小さなジャズ・バンドを始めました。

 

 バンド名は“南方郵便機なんぽうゆうびんき”。

 

 私の大好きな作家、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリから恐れ多くもお借りしてしまったバンド名ですが、私以外のメンバーからは、かなり不評。けっこう無理を言って、せいいっぱいお願いをして、ようやくこのバンド名で納得してもらえました。

 

 今度、喫茶店“夜間飛行やかんひこう”にて、私たちの初ライブがあるので是非聴きにいらしてください。

 少し恥ずかしいですけど、せいいっぱい演奏します。


 さて、中学三年生の夏。受験戦争真っただ中のこんな時期に、それも受験戦争が最も激しくなると恐れられている夏休みを目前にして、バンドを始めて初ライブなんて――と、おっしゃられる方もいらっしゃるかもしれませんが、それがまさしく問題なのです。


 私、受験生という立場をもてあましているのです。

 まわりのみんなが、おもに大人たちが「進路進路」、「将来将来」、「未来未来」と口を揃えて言うのですが――

 

 私は、受験ってそんなに大切なものなのかなって、そんなにせいいっぱい頑張る必要があるのかなって、そこそこの高校に進学すれば、それでいいんじゃないのかって、思ってしまうんです。

 つまり、まわりの大人たちが大合唱する受験というものが、私にはただの空念仏にしか聞こえなくて、いまいち実感というものが湧かないのです。


 私は将来、なにになるのかな?


 普通に高校に進学して、普通に大学に通って、普通の会社に就職して、普通な誰かと結婚して、子供を産んで、育てるのかな?

 

 ぜんぜん実感が湧きません。

 

 明日の自分のこともよく分からない私なのに、半年後、一年後、さらには将来の自分のことを想像するんてできるのかな?


 それって、返ってきたばかりのテスト用紙でつくった紙飛行機を青空に向かって飛ばして、その紙飛行機がどこに行きつくのかを想像するぐらい、実感が湧きません。

 

 それに私は、もっと何か特別なことが起こってほしいって思うんです。

 この凪いだ青空が、とつぜんラムネの炭酸みたいにしゅわしゅわと弾けてしまうように素敵なことが、私の目の前で起こってほしいと思っているんです。

 

 そう、月に向かって飛んで行ってしまえるような、そんな素敵なことが――


 ああ、私はどうすればいいのでしょう?


 青瀬春、人生最大の悩み到来です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る