エピローグ

「まさか、竜彦が教師にか。世の中何が起こるかわからないっと言ったがまさかほんとに起こるとわな」

 校長室にて校長が紅茶をすすりながら言った。

「私自身、ここ半年、ようやく気持ちの整理が出来たんです。それで、あいつがやりたかったことをひとまずやろうと」

「なるほどね、それで竜彦自身がやりたいことは?」

 しばらくの間沈黙が続いた後、竜彦はソファーから立ち上がり窓の外を見つめてこう呟いた。

「世界征服!これしかないでしょ」

「おまえらしいな」

「へへ、スイマセンが今日は予定があるので」

「そうか。いいだろ、行っておいで」

「はい」

 竜彦はそういうと廊下で待っていた加奈と瞳と合流した。

「まったく、あいつが教師か。しっかしなんだ。竜彦、すがすがしいくらいに立派になりやがって」


 通学路の途中にある慰霊碑の前に三人は立っていた。あゆみが姿を消してから早半年が過ぎた。加奈も瞳もすっかり高校生になり、新しい環境に慣れてきたところである。

「不思議ね、3人でここに来ることになるなんて」

「そうね。加奈、実は私、ここに来るの初めてなの」

「そうなんだ。竜彦さんは?」

「高校卒業してからは初めてかな」

「そうなんだ」

 3人は慰霊碑の前で手を合わせた。ここに来たのは、なんと言うかけじめみたいなものである。三人がこれからうまくいきますようにという祈りを込めて。

「ところで加奈、竜彦お兄ちゃんとは上手くいってるの?」

「瞳、こんな所で何言い出すの!」

「何って、気になるでしょ。二人がどうなったのか?」

 あれから、色々あり加奈は竜彦と付き合うことになった。加奈の母は高校入学早々に彼氏が出来たことに発狂寸前の所までいっていたが、何故か父の方が何も言わずに応援してくれた。普通なら逆のはずなのに・・・。

「瞳だってどうなの?クラス委員の安田君にラブレターもらってたくせに」

「あれは、その、お友達になってくださいって書いていただけで、その、やましいことは何も」

『ホントに?』

「へぇ?加奈、今何かいった」

「なにも。でも確かに今聞こえたよね」

「なんだい?俺には聞こえなかったが」

『二人とも、こっちこっち』

 加奈と瞳は辺りを見回したが瞳には何も見えていなかった。ただ、加奈だけがその声の主を見つけることが出来た。

「あの、竜彦さん。ちょっと瞳と二人っきりになりたいんで待っててくれます?」

「分かった。そこで待ってるからいっておいで」

 そういうと竜彦は少し離れた所で待機した。加奈はそれを確認すると瞳をつれて慰霊碑の裏側へと赴いた。

「いったいここで何してるの!あゆみおねえちゃん」

「うそ!加奈、あゆみおねえちゃんいるの?」

 瞳がびっくりした表情を浮かべている。加奈は目の前にいる幽霊を指差して「ここにいる」とジェスチャーした。

 そこには、あゆみが普通に立っていた。あゆみは慰霊碑に手をかざすとこっちをみてしゃべりだした。。

『へへへ、二人とも入学おめでとう』

 あゆみが慰霊碑に手をかざすとどういうわけか頭の中に声が聞こえてくる。

「おめでとうじゃないわ!今まで姿見せなかって、それに何?頭の中に声が聞こえるんですけど?」

『ふふふ、私の新しい能力。その名もテレキネキス、いわゆるテレパシーよ。こいつを習得するために半年間、山ごもりしてたってわけ』

「山ごもりって、お姉ちゃん何やってるのよ」

瞳は呆れかえっていた。

『あら、がんばって瞳にも聞こえるようにしたんだけど、なんだろう?これ、何故かここでしか出来ないのよ』

「ここでって、お姉ちゃん他でもこれやろうとしたの?」

『うん、こっそり隠れて声かけてみたんだけど、ぜんぜん聞こえてないみたいだったから、けど、私の声、この慰霊碑に手をかざしたら聞こえるみたい。てなわけ出っ子でやったら会話できるから明日からよろしくね』

 あゆみはいつもと変わらずあっけらかんとした表情をしていた。瞳は瞳でミエナイあゆみを見つめて感慨深い表情を浮かべている。

―――はぁ、先が思いやられるわ―――

『加奈、今、なんか言った?』

「別に」

『そうそう、しばらくの間、二人のデートとかも見させてもらうからね』

「ちょっとお姉ちゃん!!」

『へへへぇー』

 加奈には見えていた。小さい子がいたずらする時と同じ顔をしたあゆみの笑顔を。

「やれやれ、また賑やかなことになりそうだね」

 加奈はチラッと竜彦を確認してからあゆみの顔を確認した。

『というわけで、これからしばらく、またこっちに来るから二人とも相手よろしく』

「あゆみお姉ちゃん、いい加減成仏したら?」

 あゆみはその言葉を聞いてさらに笑顔でピースをした。

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