三人の女神と下着について

 いつもの部屋で、いつもの四人。


 今日も平和に一日を終えた――と思った直後、タニヤが俺達を強引にソファーへと誘導してきた。


 理由はわからないまま、とりあえず大人しくそれに従う俺達三人。


 ちなみに真ん中にティアラが座って、両脇に護衛二人という配置だ。

 俺の隣からは花の蜜のような甘い匂いが漂ってくる。


 うん、一日が終わりに近付いても、彼女は完璧に可愛いくて良い匂いだ。


 とタニヤがいきなり、天井に向かって笑顔を向けた。


 ……え? な、何だ?


 思わず俺もそちらに目を向けるが、そこには見慣れた天井があるだけで特別な物は何もない。


「さて、皆様お待たせしました」

「おい、どこに向かって話し掛けてんだ」


「うるさいわね。カメラ目線というやつよ」

「か、カメ……?」


 たまにこいつは電波を受信して変なことを言う時があるのだが、どうやら今日もそのたぐいらしい。


 こうなるとツッコむのも面倒臭いので、俺はとりあえず流すことにした。

 タニヤは俺達の方を振り返ると、奴にしては珍しく真面目な顔で告げる。


「今からこの国でまつっている、三人の女神についてお話をするわよ」

「突然どうしたんだ。ていうかそんな常識すぎることを何で今さら――」


「君が『ティアラ可愛いKAWAIIカワイイ!』ばかり言っててその辺のことを全然説明してくれないんだから、仕方ないじゃない!」

「スンマセンっした!?」


 どうして俺が責められているのかはわからんが、逆らうと面倒そうなので半ばヤケクソ気味に謝ってみた。


 っつーか本人のいる前でそんな事言わないでくれ。恥ずかしいじゃねーか!


 横目でチラリとティアラを見ると、案の定真っ赤になって俯いてしまっている。

 ……可愛い。


「というわけで、今回の話の原因となった『可愛い』という単語は、終わるまで禁止にするから。言うだけでなく考えるのも禁止」


 えっ!? いきなり何だよそのルール!? 考えるのも禁止って厳しすぎるだろ!?


「ちなみに三人の女神って、別に私達のことではないからね」

「そんな勘違い誰がするんだよ? ティアラはともかく、お前らは女神って雰囲気は微塵もねぇだろ――」


 ……うん、恐ろしく冷たい目線が四つ。

 今俺の前に水入りのコップを置いたら、瞬時に中身は凍ってしまうことだろう。


「色ボケ馬鹿男はとりあえずほっとくことにして。ではまず三人の女神について、姫様お願いします」


 何その言い方酷い。

 泣いちゃうぞ。大人の男の子だって泣いちゃう時は泣いちゃうんだぞ。


「う、うん。えっと、この国で祀っている三人の女神というのは『光の女神』『美の女神』そして『堅牢の女神』のことだよね」


「そうそう。この国の特色を表しているのよね。ちなみに参考までに西隣の国で祀っている女神を、はい、アレク」


「西隣? 確か『水の女神』『慈愛の女神』『刃の女神』だったか?」


「正解! まぁこんな感じで、世界各国で三人の女神を祀っているわけなのです」


 タニヤはまたまた天に向かってそう言った。

 本当に誰に対して説明しているんだ。頭大丈夫だろうか、こいつ。


「物語に大きく関わってくるわけでもないんだけどね。知っていると得はしないけどちょっとだけ楽しめるかもしれない、という要素の三人の女神についてでした。ちなみに『美の女神』はマティウス君の芸術センスが明らかになるあのお話で名前が登場していまーす」


 思い出させないでくれ……。ちょっとトラウマになってんだよアレ……。


「続いての話題は下着についてよ。結構な頻度で登場する単語よね。この単語が頻繁に登場するってどうよって感じだけど」


「元々この世界に存在していたのは、下の方の下着だけだったと言われているな」


 アレクが顎に手をやり、無表情のまま淡々とそう告げた。


「そう。でも私たちが生まれる遥か前、別の国に異世界から女の人が降ってきたらしいわ。その時に彼女が身に付けていたブラジャーを見て『これは何だ?』ってなって。試しに借りた人が着け心地を絶賛したことで、私も私も! と大変な騒ぎになったらしいわ」


「それで『女性達の為に是非この国でもこれを作ろう』ということで、すぐに作られることになったんだよね」


「さすが姫様。その通りです。それ以降、完成したブラジャーの着け心地具合の噂が噂を呼び、世界各国に爆発的に広まっていったのよね」


 へー。知らなかった。そんな経緯があったのか。


 でもティアラがワンピースを着ている時は、上の下着は着けていないようなふごおおぉぉっ!?


 ちょおおおおっ!? 目があっ! 目がぁっ!

 アレクの奴いきなり目潰ししてきやがったぞ痛ってええぇぇッッ!


 両目を襲う強烈な痛みに、たまらず俺は床を転げ回る。


「な、何すんだよ!?」


 脳裏に残るアレクの無表情に向かって俺は声を張り上げ抗議する。


「いや、お前が露骨にイヤらしい目を姫様に向けていたからつい」

「つい、で目潰しすんな!」


「えー。マティウス君、もう少し自重しなさいよ。たとえ彼氏でも時と場合によってはセクハラで訴えられたりすることもあるのよ」

「…………」


 何だよその言い方。俺は別にそんなイヤらしいことを考えようとしていたわけでは…………あるのですみませんでしタ。


 少し回復した視力でティアラを見ると、またしても苺のような顔色に変わっていた。相変わらずかわ――。


 ――っといかんいかん。今その単語は禁止されているんだった。


 よし、それでは仕切り直しということで――。


 少し回復した視力でティアラを見ると、またしても苺のような顔色に変わっていた。非常にぷりちーげぶぅっ!?

 今度はタニヤの靴の裏が俺の顔面にめり込む。


「暴力反対! 暴力ヨクナイ!」

「何でそんなにカタコトなのよ。ちなみに気持ち悪い単語に置き換えるのも禁止だったということで、今のはその罰です」


「そんなの聞いてねーし! っつーか俺の心を勝手に読むな!」

「というわけで、三人の女神と下着についてでしたー」

「無視すんな!」


 タニヤは天井に向かってヒラヒラと手を振った後、くるりとこちらに振り返った。


「さて。今から『ドキッ!? 可愛い子だらけのキャッキャウフフなガールズ☆トーク』を始めるので、部外者さんは出て行ってください」


 異議アリ! 可愛い子だらけってところに異議アリ! 可愛いのは桃色の髪の子だけですッ!

 ていうかお前、可愛いって単語禁止じゃなかったのかよ!?


 心の中でそうツッコみつつ、俺はすごすごと部屋を去るのだった……。

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