喉と心の痛み
彩純
私と彼女の出逢い
私、
そんな私に共学は無理だと判断されたのか、親は私に私立の女子高に入るよう薦めてくれた。私もそれに頷き、まあまあ頭の良い高校に進む事になった。友人が少ないせいで勉強ばかりしていたから成績は問題なかった
「立花さん、立花さん!」
「は、はいっ!」
問題は面接だった、今まで人とまともに会話する事なく過ごしてきた私にとって面接官と一対一で話す事が恐ろしいものだったのだ
親や姉、数少ない友人達も練習に付き合ってくれていたが、顔を知っている人と見知らぬ他人。全く違うかった、泣きそう
「…立花さんは話すのが苦手なんですか?」
「うあっ、そ、そうなん、です…」
「まあ、苦手でも学園生活は送れますが…。あぁ、貴女は成績も良いみたいですね。こんなに良い成績の人なら面接が苦手でも入れるでしょう」
「あっ、ほ、本当ですか…?」
「えぇ、後は入試のテストの結果次第ですね。頑張ってください」
「あっ、ありがとうございます!」
「はい、出て大丈夫ですよ」
「あ、りがとうございまし、た!」
部屋から出ると冷たい空気が身体を包んだけれど、部屋の空気が暖か過ぎたと感じた私にはちょうど良かった。深呼吸をして、待機室に向かった。歩いているとスリッパのパタパタという音にも反応して涙が出そうになる。これくらいは我慢しないと…、そう思って口を引き締め歩く
「…っ」
やっぱり怖い、もう涙が浮かんできていて前が見えにくい。少し落ち着かせようと思い、壁にもたれかかる。目を閉じて息を深く吸う、そして息を吐く。これを繰り返していると徐々に落ち着いてきて、後は一気に部屋まで戻ろうと思って目を開けると目の前には知らない女の子がこちらを覗いていました
「ひっ、あっ…」
知らない人が目の前に居たという事とこちらを覗かれているという恐怖に引っ込んでいた涙が帰ってきた
「え!?ちょ、ご、ごめん。体調悪いのかと思って…あああ泣かないで…」
「うっ、えっ…ぐずっ、ううう…」
「驚かせてごめん…!ほ、ほら!ハンカチ!これ使って!私次面接なんだ、少し待っていてくれたら一緒に待機部屋に戻れるから。ね?」
初めて会った人にそこまでしてもらう訳にもいかない、と首を横に振ったけれど彼女は納得がいっていないようで困った顔をしながら頭を撫でようと手を上げた
「っ…!」
「あ、ごめん。怖かった?大丈夫、大丈夫だよ」
そう言って静かに頭に手を置いてゆっくりと撫でていく。その手がとても優しくていつの間にか涙は止まっていて代わりに睡魔がやってきていた
「お、泣き止んだかな?大丈夫そうなら戻りな。もし無理そうだったら待っててね」
「あり、がとうございます…」
「どういたしまして、それじゃあね」
彼女はスッと立ち上がるとまた私の頭を軽く撫でて去っていった。見送ってから思い出した、名前聞いてない…!
「どっ、どうしよう…!待ってれば来てくれるって言ってたけど…」
面接時間は十分程、そんなに長くはないから待てなくはない。待とう、それでお名前を聞いてお礼を言って…。そう考えていると何だか楽しい気分になってきた。その場で座って彼女を待つ
腕時計を見るとまだ二分しか経っていない、早く来ないだろうか…
「…あと、三分…」
「あっ!立花さん!こんな所に居たのね、探したよー」
「ひっ!?」
「あっ、ごめんごめん。もう、待っても来ないから探しに来たんだよ。ほら、帰ろう」
「う、あ、…ご、めん…」
「大丈夫、ほら。手繋いで」
この子は同じ中学で何故か私に話しかけてくる変な人だ、私と同じこの学校を受けるからと更に話しかけてくれるようになった。変な人だけど良い人だ
帰ろうと言われたけれど、あの人に何も聞けないままになってしまうと思ったけれど言えなかった。私の手を握っている手が痛いぐらいに握っているから
「もう、立花さんが居なかったら暇なんだよ」
「ごめんなさい…?」
「そこはありがとう、でしょ?あはは、立花さんは可愛いなぁ」
「…可愛く、ないです」
この人は変な人で良い人だけどちょっと目が可笑しいんだと思う、家族にだって言われたことないのに…
私が帰ったあと、角から出てきた彼女が傷ついた顔をしていたことは私には分からなかった。そしてその彼女は直ぐに笑顔に変えて自分の待機室に帰って行った事も知らない
そして私を連れて帰ったこの子がそれを知っていた事も私は知らなかった
喉と心の痛み 彩純 @ika_na_go
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