お葬式

俺は今、自分の葬儀に参列している。



新婚で幸せの絶頂だった俺に突然襲った悲劇。


交通事故だった。


俺は高速道路で後ろからトラックに追突され、即死だった。


痛みを感じる暇もないほどの衝撃で俺は魂を弾き出されたのだ。


大破した車、修羅場となった事故現場。


しばらくして俺らしき体が自動車の中から運び出される。


俺はあまりのショックに吐しゃする物も無いのにえづいた。


信じられなかった。


でも、こうして自分の葬儀に出て、俺の遺影と棺おけを目の前にすると


「ああ、俺本当に死んじゃったんだ。」


という実感がじわじわと沸いてきた。


皆が悲しみに暮れている。


特に妻は、死にそうなくらい憔悴している。


両親も号泣し、葬儀場にはあちらこちらから泣き声、鼻をすする音が響く。


あ、あれは俺にパワハラしていたクソ部長。


ホント憎憎しい面だな。少しは痩せろよ。まるでブルドッグだぜ。


俺は部長の耳元でささやいてやったが聞こえるはずがないな。


意外と気分がいい。


あ、あれはヅラ係長。


おっと、おぐしがズレてますよ。直してあげたいのはヤマヤマだけど。


周りの会社の人間が係長の頭をチラチラ見てる。


ヤバイ、やめろよ。だめだよぉ、そんなに見ちゃ。


俺はゲラゲラ笑った。


同期のやつらだ。


みんな泣いている。と思ったが、一人泣いてねえや。


やたら俺をライバル視してたあいつか。


ほんと、いけ好かない野郎だぜ。


ざまあみろくらいにしか思っていないだろう。一応、嫌いだけど表向きだけ


葬儀に参列しました、ってところだな。


いやー、俺もお前なんかに来て欲しくなんてないわー。


嫌なら帰ってくれ。



俺は恐る恐る、最前列まで進み、自分の棺おけを見た。


まぁ、事故当時よりつくろってあるんだけど、いい男が台無しだ。


俺は、うっとまた棺おけに吐しゃしそうになった。



人の死なんて、本当にあっけないもんだ。



妻が棺おけにすがり付いて泣いている。


俺は貰い泣きした。


俺だって新婚早々死にたくなんてなかった。


お前と一生添い遂げるつもりだったんだ。


こんなに悲しませてごめんね。


幸せにするって、約束したのに。


子供は一姫二太郎、二人作る予定だった。


子供が小学生になるころには家を建てて、


ささやかな庭に花を植えたり、


子供が拾ってきた犬を、仕方ないなぁと飼うことを許したり、


子供の成長を見守り、一生君の笑顔を守りたかった。



俺も自分の棺にすがり付き号泣した。



もっと生きたい!


こんな悔いを残して死にたくなんてなかった。


俺はお前ともっともっと同じ時間を過ごすはずだった。


ずっとお前と一緒の時間を過ごしたい。


死ぬのなんて嫌だ!




棺にすがり付いて泣いている妻の肩を、俺の弟が抱いている。


おい、ちょっと。離れろよ。


俺の妻だぞ!


どさくさに紛れて、何触っちゃってんの?お前。


やめろよ、俺の名前呼んでんじゃん。くっつくなって。


離れろよ、バカ。



俺が弟に嫉妬してヤキモキしていると、後ろから肩を叩かれた。


誰?じいさん。


ていうか、魂の俺の肩なんて叩ける奴いないのに。


「お取り込み中申し訳ありませんが、そろそろお時間なので。」


ジジイのお迎えかよ。


「嫌だ、俺は死にたくないんだよ!このままじゃ死んでも死にきれねえよ。


この世に未練がありまくりだよ。なんとかならないの?」


じいさんは困り顔で


「無茶言わないでください。」


と言った。俺は号泣しながら懇願した。


「お願いだよ。俺は新婚なんだよ?もっと妻と同じ時間を過ごしたかった。


あいつと離れるなんて嫌だよ!幽霊になってでも、あいつの側に居たいんだ!


あいつを守りたいんだよ。」


じいさんは試案顔になった。


「そう言われましても。」


俺はさんざん一緒に行くことを拒んだ。


「仕方ありませんね。」


「じゃあ、逝かなくてもいいんだな?」


じいさんは曖昧な笑顔を俺に向けた。そして、じいさんは俺の前で合掌をした。


俺が足元から分子単位に分散していく。


おい、じいさん、返事を聞かせろよ。俺の意思はまるで無視かよ。


本当にこんな不条理があっていいのかよ。


俺の意識も分散して行った。




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く、苦しい。


死んだ時はこんなに苦しくなかったのに


あの世へ逝く時ってこんなに苦しいものなのかよ。


なんだよ、この細いトンネルは。体が引きちぎられそうだ。


息もできないほど狭いトンネルからようやく解放された。


瞬間、俺は「おぎゃあ」と叫んでいた。



「おめでとうございます。元気な男の子ですよ。」


そういう声が聞こえた。


俺は誰かに抱えられ体を綺麗に洗われている。


そしてぼんやりとした視界にとても見覚えのある女性の顔が現れた。


俺の妻だ。


そして、横から嬉しそうに笑う男の顔。


俺の弟。


「よくがんばったな、麻美。はじめまして、パパだぞー。」


弟が言った。


クソじじい。中途半端な情けをかけやがって。


こんなのは地獄だろ。

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