コンビニの左

「オッス、久しぶり。」

それは夜中、友人からの突然の電話だった。

俺が引っ越してからだから、たぶん半年振り。引っ越す前のアパートはタクヤの家と近かったので結構、遊びに来てたりしたのだけど、やはり遠くなると疎遠にはなってくる。今俺は、賃貸マンションに住んでいるのだ。ここからのほうが、職場に近いし、何せ隣にコンビニがあったりと、なかなか便利な立地条件なのだ。


「どうした?こんな夜遅くに。」

「スマン、こんな遅くに悪いと思ったんだけどさ。俺、今日飲んでてさ。終電逃しちゃったんだ。申し訳ないんだけどさ、お前んちに泊めてくんない?」

「やれやれ、しょうがないやつだな。いいよ。あ、お前、場所わかる?」

「うーん、だいたいは。実は俺、ここの地理にあんま詳しくないんだわ。夜だしさ。」

「今どこだよ。」

「えーっとね、駅前から北に向かって歩いてる。なんかランドマーク的な物はある?」

「うーん、一番近くにある高い建物。あ、大きな総合病院があったな。確か、太田総合病院。まずはそこを目指して。」

「えーっと、あ、あれね!はいはい!じゃ、一旦切るよ。総合病院に着いたらまた電話する。」

そう言うとタクヤは電話を切った。相変わらずマイペースなやつだな。俺は苦笑いした。マイペースで図々しいヤツだけど、何故か憎めないんだよな。しばらくして、またタクヤから電話があった。

「総合病院に着いた。今度はどっちに行けばいい?」

「じゃあその先の交差点を右に曲がって。そうしたら、正面にコンビニが見えてくるから。そのコンビニの左のマンションが俺んち。505号室。」

「了解!それとさあ、図々しいついでにシャワーも浴びていい?」

「はいはい、わかったよ、好きにしろ。」

「やったー。なんかさ、飲みすぎて体べったべたで気色悪いの。」

「ホント、酒もほどほどにしろよー。時間忘れて飲みすぎてんじゃねえよw。」

「あ、コンビニ見えてきた。なんか買ってくよ。何か欲しいもんある?」

「あーじゃあ、喉かわいたから飲み物。」

「了解!」

ピンポーン。いらっしゃいませー。コンビニに入ったようだ。通話は続いている。

「何がいい?」

「んーと、じゃあ炭酸がいいな。ジンジャエールある?」

「おう、ジンジャエールな。あと適当におつまみ買ってく。」

「おいおい、まだ飲む気かよ。大丈夫なのか?」

「へーきへーき。明日は休みだしー。そうだ、明日一緒にどっか遊び行かね?お前も休みだろ?」

「お、いいねー。じゃあ、計画は部屋でな。」

ありがとうございましたー。タクヤは会計を終えたようだ。

「えーと、コンビニの左のマンションの505号室な。」

そう言いながら、タクヤがエレベーターに乗る気配がする。

「そそ、コンビニの左のマンションな。」

「よし、5階ついたー。ピンポーン。」

タクヤがおどけて口で言った。

あれ?おかしい。俺の部屋のすぐ外に来ているはずなのに、電話の中からしか声がしない。

そのとたん、電話から激しい音がした。

ガタン。うわぁ!タクヤの叫び声。

「タクヤ?どした?」

俺は心配になり、タクヤに話しかけた。

「・・・あーごめん。携帯落としたんだ、今。」

「なんだ、そうなのか。」

「スマン、俺、マンション間違えたみたいだわ。どこだっけ?」

「はあ?だからコンビニの左の505だって言ったろ。」

「あ、俺から見て左だと思ったわ。」

「バカだなー。お前。」

*******************************


505号室の玄関には血まみれのタクヤの死体が転がっている。

その横には見知らぬ女の死体。


「じゃ、今から行くから。」

そして、見知らぬ男は、血まみれのタクヤの物だった携帯に向かってそう言うと、コンビニの左のマンションを目指した。

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