ツイ民
僕は激務を終えて、家に帰ると、シャワーを浴び、コンビニで買って来たお弁当を電子レンジでチンして、冷蔵庫からキンキンに冷えたビールを取り出して、プルタブを開けて一口煽ると、パソコンの電源を入れた。
チンという音とともに、弁当を取り出し、テーブルの上に置く。
独身男の侘び食だ。最近はテレビは何を見ても面白くない。
インターネット上なら、自分の好みの映画や、好きなミュージシャンのPVなど、何でも見れる。
こんな時代だから、テレビというコンテンツに面白みをあまり感じないのかもしれない。
僕は、お弁当をつつきながら、ビールをあおり、ツイッターの自分のアカウントを開いた。
「今年の夏は糞田舎に星を見に行きたい」
そう書き込んだ。
できればかわいい女の子とね。
彼女と別れて、もう随分になるな。
@koga238 地元s山が意外と穴場。星に手が届くよ。
そう返してきたのは、職場の同僚、よもつだ。
そっか、今日は僕は残業だったけど、彼女は定時で帰ってたんだっけ。羨ましい。
@yomo2_hirasaka 26のとき付き合ってた彼女につれられていった!一番階の展望台まで行ったけど物凄い綺麗だった懐かしい...
そうだ。あれ以来僕には彼女がいない。
@koga238 パノラマで見れる。人も少ない。
とよもつ。
@yomo2_hirasaka あそこでもこわい
@koga238 怖いいい話あるの?
とよもつ。
@yomo2_hirasaka あるよ。
と僕。
よもつは、怖い話好きだ。自身も、ヘタクソなホラー小説を書いて投稿しているらしい。
僕は悪戯心が首をもたげた。
@yomo2_hirasaka あそこの山の途中に仮設トイレがあるんだけど、落書きとかしてあってすっごい怖いの。ある夜デートの途中、彼女がトイレに行きたいって言うからお互い嫌だけどそこしかないからそのトイレに行ったの。
@yomo2_hirasaka 虫の音しかしない静かな夏の夜。彼女がトイレに行ったきりいつまでたってもかえってこなかったから流石に見に行ったのね。そしたらさ、ドアあいてて彼女いなかったの。このトイレがさなんか一面黒いし床はベトベトするし汚いから余計恐怖を煽る。
(返信がなくなったな。すでに寝てしまったか、よもつ。まあいいや、面白いから話を続けよう。)
@yomo2_hirasaka それで仕方ないから電話したの。そしたらすぐ電話出たと思ったら用事ができたから先に帰るって。その時はなんか声がおかしいなと思ったんだけど、イライラしてその日は一人で下山したんだよ。
@yomo2_hirasaka 次の日「どういうこと?」ってメールしたんだけど、いつもと違ってこいつ返信遅いの。夜、寝入った頃に返信来たの。なんかおかしいなと思ってたんだけど。いつもなら5秒くらいで返信来るのに。
@yomo2_hirasaka それからお互い会うことなくメールだけのやり取りで一週間過ぎたんだ。一週間が過ぎたある日デート次どうする?って僕が言ったら、「好きな人ができたから〇〇とはもう会えない」って急に冷たい態度を見せた。
@yomo2_hirasaka なんだよこいついきなりと思って電話しようと思ったら案の定着拒。頭にきた僕はそれ以来どうでもいいやと思って放っておいた。で翌日さ、知らない番号から電話がかかってきたの。誰かなと思ったら彼女のお母さんだった。
@yomo2_hirasaka 彼女は実家暮らしだったんだけど、お母さんによれば僕氏とデートに出た1週間前から全然帰ってこない!メールしたら僕氏の家にしばらく泊まってるから帰らないとのこと。さすがにどういうこと?って趣旨のお怒りの電話だった。
@yomo2_hirasaka そしてもちろんここには、彼女はいない。泊まってなんていない。でもなんでそんな嘘を。別の男の家に泊まっている口実か。そんなゲスな考えしか浮かばなかった。
@yomo2_hirasaka その時彼女のお母さんが言ってた言葉が脳裏に焼き付いてはなれない。「メールが明らかにおかしい!」それを何度も言ってた。たしかにぼくもそれには同意だ。いつもはメールが返ってくるのが異常に速いのに半日以上はかかってしまう。そして何よりなんかメール自体がおかしい。普段使わない言葉遣いで返信が返ってくるから。
@yomo2_hirasaka ふと思ったんだ。メールをしていた彼女ほんとに本人なのか?普通だとそんな考えは思い浮かばないだろう。急に恐怖に駆られた僕はあのトイレに向かった。
@yomo2_hirasaka なぜかわからないけどあのトイレに行けば彼女が見つかるかもしれないと思って夢中だったんだよ。それでトイレに付いた。あの時は暗かったからよくわからなかったけど、昼間ならなにか手がかりがあるかもしれない!そう思ったんだ。
@yomo2_hirasaka でいざ例のトイレに行ってみたのさ。彼女やっぱりトイレにまだいたんだよ!!!トイレ中血まみれでさ、あの時黒いと思ったのは血だったんだよ。
@yomo2_hirasaka それで恐る恐るボットン便器の中を覗いたら見るも無残な変わり果てた彼女がそこにはいた。切り刻まれて押し込まれて、誰か判別すらできないような状態だった。でも僕はわかった。それが彼女だったてことは。
@yomo2_hirasaka それから警察とかなんとか大変だった。僕はその後、精神を病んで入院した。
@yomo2_hirasaka なんでかわからないけどさ。ここからは誰も出してくれないんだ。そしてみんなは僕のことを殺人鬼だとか気が狂ってるとかいうんだけど。ぼくは至って平気さ。だって僕は彼女を殺していない。
だって、彼女を殺したのは僕じゃない。お前なんだから。そうだろう?
@yomo2_hirasaka ゾクゾクした?
やっぱり、完全に寝てるな、よもつ。僕も飯を食ったし、明日も早いし。
寝るか。
そのあくる日、よもつは、無断欠勤をした。
そのあくる日も、その次の日も。
彼女にいくら電話しても、出ないし、とうとうそのうちに、携帯の充電が切れてしまったらしい。
さすがに、おかしいと思ったので、僕と店長とで、よもつのアパートへ向かった。
管理人さんに理由を述べて、鍵をあけてもらったが、部屋にはよもつはおらず、3日分の新聞が無理やりねじこまれていた。
よもつの実家の親御さんにも連絡をし、帰っていないかと訊ねたが実家には帰ってはいないらしい。
そこで、明らかに異変を感じたご両親によって、捜索願が出されたのだ。
そして、その翌日、よもつは思わぬところで、見つかった。
S山の、簡易トイレで無惨な遺体となって見つかったのだ。
その遺体はバラバラに切り刻まれ、ボットン便所の便器に押し込まれていたのだ。
そしてその日の夜、僕の部屋を警察が訪れた。
任意での同行を求められ、今、僕は警察に聴取を受けている。
「あなた、4日前の夜9時ごろ、どちらにおられましたか?」
僕が疑われている?まさか。
「家にいました。」
「それを証明できる人は?」
「いません。でも、確かに、その時間は家にいたんです。
刑事さん、まさか、僕を疑っているんですか?」
刑事は黙って腕組みをした。
「よもつさんが最近、親しい友人に、ストーカー被害に遭っているとこぼしていましてね。」
「それが、僕だって言うんですか?ありえない。職場の仲間に聞いてもらえればわかります。」
「職場のほうでも、お話は聞きました。あなた、かなりよもつさんと仲が良かったそうですね。
それで、あなたは一方的な恋愛感情を持った。違いますか?」
「ありえません。よもつさんは、ただの職場の同僚です。そりゃあ、仲は悪いほうではなかったですが、そんなんじゃありませんよ!」
冗談じゃない。僕がよもつを殺すわけがないじゃないか。動機が無い!
そうだ。よもつからちらっと僕も聞いたことがある。元彼がしつこくてウザいと。
「そうだ、よもつさんから、元彼の話を聞いたことがあります。元彼が復縁を迫っていると。
刑事さん、そちらのほうが僕より怪しいんじゃないですか?」
「その彼にも聞いたのですが、そんな事実は一切無いとのことです。彼女の携帯の履歴を見ても、彼からのメールも電話も一切無かったし、逆に彼が、相談を受けていたそうですよ。同じ職場に、しつこい男がいて困ると。まったく付き合う気がないのにしつこいと。仕事上、仕方なく職場では仲良くしていると聞いてるそうですよ。」
「そんなバカな。それが僕だって言うんですか?そんな事実はありません。そいつは嘘をついています!」
僕は興奮して、声を荒げた。
「でも、あなた、ツイッターに書いてたじゃないですか。」
まさか、あの嘘怪談のことを言っているのか?
「あ、あれは、冗談ですよ。フィクションです。だいいち、自分から犯行を告白するわけがないでしょう?」
信じられない。あんなものを警察が真に受けるなんて。
刑事は、溜息をついて、ゆっくりとした口調で問いかける。
「いいですか?彼女の携帯から、あなたの指紋が出ているんです。失礼ながら、こっそりあなたの私物から指紋を採取させていただきました。」
指紋?そんなバカな。
ああ、そういえば。一度だけ、彼女の携帯を触ったことがある。
面白い画像を見つけたと言って、僕に見せてきた時だ。
「それは、彼女が僕に、面白い画像があるから見てと手渡されたことがあるからですよ。そんなこと、日常にいくらでもあることでしょう?」
「何故、彼女はあの簡易トイレで見つかったんでしょうね?」
「知りませんよ!そんなことは!だから、ツイッターで犯行を告白するなんてありえないでしょう?」
「告白ではなく、予告だとしたら?最近はよくあることです。」
何を言っても信じてもらえない。
犯行予告だなんて、バカげてる!
僕はやってない!
よもつを殺してなんていないんだ!
あの話はフィクションなんだよ。
信じて!
信じて!
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