第27話
「早く来すぎてしまいましたわねぇ……もぐもぐ」
ベンチに座りながら、スライムゼリーの黒蜜きなこを口に入れますの。
時間はただいま午後19時丁度。約束の時間まであと一時間もありますわ。
「それにしても、シャノンにおねだりされたから買いましたけど、すっごく美味しいですわねこれ」
ぷるぷるもちもちの透明な切り刻んだスライムの上に、きなこと黒蜜をかけただけのシンプルなモンスター料理みたいなのですが。
わらびもちのような見た目なので特に違和感なく食べれますわ。むしろ、食感的にはあちらより上かもしれません。
「ママ、ママー! もっと食べたいですぅ~」
あら。さっき大きなのを三つあげたのに、もう平らげてしまったんですの?
もう……食いしん坊さんですわね。
「はいはい。そんなに慌てなくても大丈夫ですわ」
葉っぱのお皿に最後の二つを乗せると、飛びまわって喜ぶシャノン。
可愛らしいですわね……ふふっ、このままのんびり待つとしますか。
あ、そうでしたわ! 今のうちに装備とかお弁当を買っておかねーとですの。
「シャノン、ちょっとお買い物してきますから、ここで良い子にして待っていてくださいまし」
「はーい! ママ、気をつけてですぅ~! 変な人についていっちゃダメですよぅ?」
「……こちらのセリフですの」
ええっと、とりあえず武器を買わなきゃいけませんわね。
古めかしい武器と防具屋さんに入ると、元気のいい女の子が出てきましたわ。
その子は、わたくしを上から下まで舐め回すように見て、
「やっほー! へいへい、可愛い前髪ぱっつんお嬢さんよぉ~。しぇけなべいべぇな体してるねぇ、どんなお買い物だぁい? 言っとくけど、あちしは防具屋のマリィだぜぇい」
シャケな体……?
なんかチャラい子ですわね……親の顔が見てみたいですわ。
茶髪に三つ編み、メガネという風貌に似合わない言動にちょっとドン引いていますと、
「こらっ! まーたお客さんが減っちゃうでしょ。あ、すみません。私は武器屋のミリィです。この子は妹なんですが……ちょっと今大変な状況でして」
「大変な状況って、いったい何かあったんですの?」
訊ねてみると、なんとこの妹さん、
それも年季の入った混乱薬みたいで、効果がかれこれもう一週間も続いちゃってるみたいですわ。
「この街ではお酒代わりに飲む人が多くて、本当はお父さんのものだったんですが……。見ての通りあの子はまだ十にも満たない子。効き目がとても凄くて……困り果てています」
うう。なんだか可哀想ですわね。
「
「あいにくこの
「……他に方法はありませんの?」
「この街を出た先にミノタウロスの集落があるんです。そのモンスターもコンフュポーションが大好物らしいのですが、酔い覚まし用にアンチコンフュも持っているようなのです」
やけに人間染みたモンスターですわね……。
「なら、やっつけてくればもしかしたらドロップするかもしれませんわね。そうでなくとも集落を探せば見つかりそうですわ」
「え……! でもあのミノタウロスは強いですよ。討伐推奨レベル13~とか……」
言いたいことはよーく分かりますの。
そりゃ、こんな服しか着てない冒険者に討伐して来いなんて言えませんわよね。
でも!
「おあいにく様ですの。わたくし、こう見えても結構やるんですわよ。お友達が来るまでの間、一時間の間にすぐに取ってきて差し上げますの」
と。わたくしが言った瞬間ですわ、
☆ No.7 クエスト【ミノタウロスの集落からアンチコンフュを奪取せよ!】――開始!
あらまぁ、これクエストだったんですのね。
あまりに自然に会話が進んだから全然そんな気がしなかったんですけど……MROおそるべしですの!
「助かります! お礼はたくさんさせてもらいますっ!」
「クールだねぇ……まったく。性格までしぇけなべいべぇなお嬢ちゃんだぜぇ」
「……と、とにかく。武器を見せて頂きたいんですの」
「はいっ、もちろんです!」
★雷のロングソード……在庫切れ
☆ショートソード……攻撃+10 回避+10 致命+30 金額980マニラ
★大地のビートアックス……攻撃250 回避+5 致命+10 金額130000マニラ
☆ハンドアックス……攻撃+30 回避-20 致命-10 金額600マニラ
ううむ、剣と斧の品揃えはイマイチですわね。
とりあえず、お金はたんまりありますから最初から強い武器を買っちゃいますの。
13万Mの出費は痛いですが……めぼしい斧はこれだけですから仕方ねーですの。
まあ、付与もかかってるし、結構良い買い物をしたのかもしれませんわ。
「ありがとうございます! あの……無理はしないでくださいね?」
「任せてくださいまし、ですのっ!」
ミリィさんに見送られながら買い物を済ませたわたくしは、次に道具屋さんへ向かいました。
買ったのはポーション5つと、
よしっ、ではもう時間もありませんし早速行っちゃいましょう。
「シャノンーっ、ちょっくらクエストに行きますわよ」
ベンチに戻ってみたのですが……あら?
「どうしたんですの、一個余ってるじゃありませんの」
木の枝が刺さったスライムゼリーがひとかけら残っていましたわ。
「もうお腹いっぱいなんですの?」
訊ねてみたのですが、シャノンは笑顔で首を振って、
「違うの。ママにとっておいたの。半分こするですぅ! はい、あーんですよぅ?」
「……シャノンってば。なんてお優しい子なのでしょう」
んしょんしょと、懸命に木の枝を両手で持ってわたくしにゼリーをくださるシャノン。
それを「あーん、ですわ~」と頂きながら、ついついわたくし微笑んでしまいましたの。
「よーしっ、元気いっぱいですの! ミノタウロスめ、待っていやがれですわぁ~!!」
ビートアックスを掲げて、わたくし首都のど真ん中で叫んじゃいましたわ。
――ふふっ、元
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