第4話

 むいの手を引っ張って中に入った途端、凄まじい音量にわたくしびっくりしてしまいましたわ。


「な、なんですのこの盛り上がりは……」

「んーとね。今日はBEO2が終わるからって店内でイベントをやってるんだよ」

「そ、そうですの」


 このゲームのゲの字も知らないむいからBEO2の話が出るなんて。

 わたくしが呆けていると、逆に手を引っ張られて、


「えへへ歌雨ちゃんこっちこっちー!」

「ああ、ちょっと、むいっ!」


 連れてこられたのは大きな筐体がずらりと並ぶ空間でした。

 レースゲームの筐体かしら?


「ほら、上のモニター見て見て」

「あら。もしかしてBEO2のゲームセンターバージョンですの?」 


 あれはウォーリアーとソーサラーですわ。一対一で戦ってるということはシングル戦なのでしょう。

 このたくさん並ぶ筐体機の中で二つほどライトアップされているものがありました。


「あの中に入ってる方がもしかして……」

「うん! 中に入ってログインパスワードを入力すれば家庭用BEO2のデータをゲームセンターでも使えるんだよ。あの赤い色の筐体機に入ってるのが今ウォーリアーさんを使ってる人かな」

「……あなた、どうしてそこまでBEO2に詳しいんですの?」


 訊ねたのですが、一際大きい歓声に打ち消されてしまいました。


「今度はなんですの!?」

「歌雨ちゃん……あの筐体機、見て」


 むいが指を向けた筐体機の横に一人の気の強そうな少女が立っていました。

 さらさらの長い金髪は左側で結っており、(サイドテールって言いましたっけ?)青い瞳はとても冷たい瞳でしたの。

 でも、すっごく美人な方ですの。ウチの制服――ナガジョの方かしら?

 その方は腕を組みながらつまらなそうにモニターを見上げて、


「ふんっ。どいつもこいつも……」


 やれやれと肩をすくめて筐体機の中に入っていきましたの。

 なんだかどこかで見覚えがあるような、ないような……。


「店内決勝がそろそろ始まるよ、歌雨ちゃん」


 何かを訴えかけるようにわたくしを見るむいに、どうしたらいいものかと思っていましたら、モニターに決勝戦の二人が現れましたの。

 一人は男アサシン……いえ、ナイトウォーカーかしら。

 もう一人はガンスリンガーの女の子……あっ!


『さあさあ、いよいよ注目の決勝戦です! ナイトウォーカーを操るのは常連さんのヤマトさんです! オフライン専門みたいですが、ここ一年は無敵無敗の店内の希望の星です!』


ランク外 ヤマト

『ナイトウォーカー』 LV.99

HP 2103/2103

SP 350/350

MP 0/0

STR 80

DEF 51

AGI 99

MAG 0

DEX 32

LUK 20


 対して、とアナウンサーの声はガンスリンガー紹介へと移りました。


『お相手はなんとビックリ! わざわざアンダーハウスまで足を運んでくださいました、フィフスサーバーの第2位にして絶対のアイドル! ミヤカさんです、いや、ミヤカ様でーすっ!』


 その途端、うぉおおおという野太い殿方の声が店内に響き渡りました。


フィフスサーバー 第2位 ミヤカ

『ガンスリンガー』 LV.82

HP 780/780

SP 250/250

MP 30/30

STR 80

DEF 30

AGI 68

MAG 10

DEX 99

LUK 20


 ま、まさか、あの美人さんが第2位の中の人だったとは……。

 ごくりと喉を湿らしたわたくしはモニターに釘付けになってしまいましたの。


◇◇◇


「……歌雨ちゃーん、おーいっ」

「はっ!?」

「ボーっとしてたけど大丈夫?」


 いつの間にか戦いは終わっていたようですの。

 それもそのはず、たった数秒足らずで決着がついてしまったんですもの、そりゃ呆けてしまいますわ!


「ミヤカ様かっこよかったなぁ。俺、握手してもらおうかな」

「やめとけやめとけ。出待ち禁止、挨拶も禁止ってルールで特別に参加してくれたんだぞ。もし機嫌を損ねるようなことをしてみろ、二度とこんなゲーセンになんか来てくんねーぜ」

「うっ……。それはすげー困るわ。間近で見れるだけ有り難いって思わなきゃな」


 感想を口々に呟きながらまばらに帰っていく観客たちを見て、むいは目をキラキラ輝かせましたの。


「ミヤカ様大人気だねーっ! それにしても、ガンスリンガーってあんなに強いクラスだったんだ。不遇のクラスって聞いたんだけどなぁ」

「……そう、ですわね」


 確かにクラス自体は下から数えたほうが早いくらいですわ。そもそも対人戦においてガンスリを選択する方はほぼ皆無。

 何故なら火力は誰でも出来るお手軽スナイパーに負けますし、防御力は全クラスで一番下、スキルも癖の強いものばかり。

 相当のプレイヤースキルがあればそれなりに強いのでしょうが、でしたら最初から強クラスを選択すればいいだけのこと。


「趣味クラスって馬鹿にされてるくらいなのに、優勝しちゃうなんてやっぱりミヤカ様は特別なのかな。どんなクラスでも自在に使えちゃうんだもん」


 なんて更に目を輝かせてぴょんぴょんと飛び跳ねてるむいに、


「……あんたバグってんのぉ? あんなの全然使いこなせたうちに入らないんだけど。強いのは武器よ、武器」


 そう言って筐体機から降りてきたのは第2位でしたの。

 その子は首を鳴らしながら、


「まーたあたしの後をつけてきたのね。いい加減しつこいわよ、空宮さん」


 ムスッとした表情でむいを睨みつけましたわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る