中央道:東京方面:未明




 その時。

 二人が完全に言葉を失いかけた、その時。


 視界の隅を黒い、とてつもなく速い物体が掠めていく。


 艶のある革ツナギが。


 流麗な黒い強化プラスティックが。


 赤いロゴが光を弾く。


 ライダーの姿勢がとびきり低いバイク。レース用のマシンと同じフォルムを持つ、レーサーレプリカ型。


(えっ)


 現実か、それとも幻か。

 緒方には見極めることができなかった。


 それはまさしく。

 有華の双子の弟であり、そして緒方の親友だった男の。


(啓……)


 啓太の愛馬。当時一世を風靡したイタリア製、漆黒のアプリリア。

 在りし日の——懐かしき後ろ姿。


(啓なのか?)


 一瞬の残像を残して黒豹は飛び去った。

 姿を消した。


 幻だったのだ。

 けれど。

 

 緒方は、大きく目を見開く。


 聞こえる。

 聞こえたのだ。

 耳の奥で何かが鳴った。

 それは言葉。


 どこかそっけない、でもそれでいて力強く、優しい響き。


——いけるよ、いける。だってアネキは





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