白石達也 未の中刻
暑い。夏は暑いと相場で決まっているのだから仕方ないのだが、どうもこうも暑いとこの暑さを何とかしようとしたくなる。どうにかしようとしてどうにかなるようなものではないんだが、それでも抗うっていうのが人間って生き物だ。
室内にいるのであれば文明の利器に頼ろう。エアコン、扇風機、冷蔵庫。どれも体を冷やしてくれる。素晴らしい。
冷たい飲み物はついつい飲みすぎてしまうが、旨さにはかなわない。アイスはいつまでも食べていたい気分になる。あくまで気分なのでそんなことしたら確実に腹壊すぜ☆
だが外出中はどうだろう。アイスなんて買ったら勝手に溶けてしまう。さっさと食べないといけない。飲み物は初め冷たし中ぬるぬるぬるい。ぬるくなったら妙においしくない。おいしいはずなのに温度が味覚を狂わせてしまうのだ、ほんとに厄介極まりないと思わないか。
ではどうしたらいいのか。
〉いろはすを飲め
いろはす。日本国民ならば皆が知っているであろうあの有名な水だ。
いろ・はす
い・ろはす
いろは・す
どこで区切れば正しいのかどんな意味なのかは全く持って知らんがこの水は夏に最適だということは知っている。なぜならぬるくても不味くない。さらに冷たいものを取りすぎた胃にやさしい。なによりも水分補給と言ったら水だ。
スポーツドリンクだの経口補水液だのお茶だのジュースだの。たわけ。
水を飲め。
水分と言ったら水だ。他の飲料は何かしら余計なものが入っている。スポドリは濁って明らかだし、ジュースはカラフルでお茶はお茶だ。
ミネラルウオーターでいいじゃないかという声も聞こえてきそうだが、ばかをいうでない。
ひらがな四文字のブランド感は凄まじいだろうそうだろう?
持っているだけで格好よくクールに決まる気がしてくるだろう? そうだろう? 横文字よりも素晴らしいということを教えてやる。
ぼくらの
けいおん
みなみけ
よつばと
らきすた
とらどら
えむえむ
ぷよぷよ
のんのん
ごちうさ
かんこれ
・・・もう止めよう。後半とか略称でしかないしひらがなじゃないしアニメとか漫画とかゲームとかばっかりになってしまった。
一部脱線したが、四文字のすばらしさは分かってもらえただろう。ひらがな四文字は希少価値でありステータスであるので、やはり〝いろはす〟は偉大なのだ。
あと北海道にいるのであれば買うべき絶対はハスカップ味だ。北海道限定と書かれているからここでしか買えないのだろう。うん、いろはす史上最強だといろはすマスターの俺が自負しているのだから間違いない。ハスカップしかない。これは酸っぱいのではなく、非常に爽やかな香りと清涼感が通り抜ける爽やかなのだ。語彙では伝えきれないので知りたければ一度試してみる他にないだろう。
俺は〝いろはす〟のすばらしさを噛みしめて実感しながら自販機のボタンを押した。ガコンという音と共に一夏の幸せが転がってきたのだった。
拾った足元の幸せは爽やかで涼やかじゃないか。
取り出し口から取り出そうと屈むとポケットが震えた。
知らない知らない僕は何も知らない。
突然掛かってきた電話を口ずさんで無視しながら、俺は今日もい・ろ・は・す・を飲む。
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