ネグレクト・マーダレス

警告

プロローグ

夢を見た。



昔の、幼い自分の夢だ。


その衝動に駆られる様になったのは、一体いつの頃からだったろうか。


覚えている限りの記憶では、確かあれは、三歳か四歳の頃だ。

 


鈍色のベランダの柵にソレはいた──



複数の脚、手はまるで鎌をもたげた様な形。


名前の由来も、恐らくはそこから来ているのであろう。鮮やかな、その部分だけが絵の具に彩られた様な美しい緑の蟷螂(かまきり)。


丸い硝子みたいな瞳がこちらを伺っている。


ジッとただ僕は、そいつとしばらく見つめ合っていた。

 

蟷螂の事は図書館にあった図鑑で知っていた。


彼等は、同類である虫を補食するという。


強いモノが弱いモノを吸収する。


この世界にはごまんとあるそれは、弱肉強食とそう言われる自然の摂理なのだろう。

 


でも、僕は違う気がした。


そうだ! 僕は違う!!


僕は弱い、力も無い、けれど僕は……。 


僕の手は蟷螂を掴んだ、ゆっくりとその手に力を入れていく。


中で必死にもがくソレが、抵抗するたび少し手の中に痛みを感じた。


もがけもがけもがけもがけもがけもがけモガケ……。


体液が溢れ、形を成していたソレがバラバラになっていく。


僕は知らないうちに、蟷螂を握り潰していた。


一気に、僕の体に高揚感が突き抜ける。


なんて、なんて命とは儚いのだろう。


それを必死になって守ろうとする生存本能という抵抗をはねのけ、握り潰す事の快感は他にはきっと無いだろう。

 

ただ、無性に命というモノを奪いたい、そんな欲求につい駆られてしまう。


僕は、奪いたい。


それは空腹を満たす為でもなく、自身の存在意義の為でもない。

 

ただ、奪いたいんだ。



ナニもかもを……。

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