第7話 マスクマンと賢者の意思!の巻

メキシコから帰って1週間

就職情報誌をめくりながら

僕は、あの夜の奇跡を思い出していた。

ミシェル・マリアーノのことを話しても

みんな酔い過ぎていたのか信じてくれなかった。

あれは音楽の神様が、

最後に見せてくれた夢だったのかと

だんだん僕も思うようになった。




履歴書を書きながら

安アパートでテキーラの瓶を開ける。

29歳、元ミュージシャン。

そんな経歴の男を

正社員で雇ってくれそうな会社はなかった。

電話だけで10社から断られていた。

壁に飾ったマスクが、そんな僕を笑っているように見えた。



息抜きにベースに触ろうとしても

旅行の前に売り払ったから、部屋には無かった。

畳に寝転がり天井を見上げ、溜息をこぼす。

「音楽続けてーよ」と叫びあったけれど、

メキシコから帰ってきたら、

待っていたのは無職という現実だった。

メンバー全員、仕事探しに明け暮れていた。



そんな時に一本の電話が入った。

それは僕らがよく練習で使ってる

音楽スタジオの女社長からだった。

「ねぇ聞いたわよ、事務所クビになったんでしょ。

 うちさ、CM音楽とか作る会社もやってるから

 リョータくん働いてみない?

 給料はそんなに出せないけど」

昔だったら、そんな話なんて断っていたけど

今は音楽に関われる仕事だったら何でも良かった。




「マリエさん、是非お願いします。

 俺、なんでもやりますんで」

そして次の日からスタジオの3階にある会社に通い

発注通りの曲を書き上げていった。

音楽素人のクライアントのおじさんに

「なんか、ここでギターが欲しいんだよね」

なんて言われても、何も言わず書き直した。

理不尽な理由でボツを食らっても

徹夜で納期に間に合わせた。



一度は諦めた後だっただけに

少しでも音楽にたずさわれるのが嬉しかった。

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