異世界迷宮にはゴミスキルが多すぎる!

Ni

第1章

プロローグ


 1人の少年が生まれ落ちた。


 清廉潔白で天真爛漫。穢れ無き運命の愛し子。


 幸せを誰かに分け与えるように、この世界の全てが幸福で満たされるように。


 善業を心掛けていた彼は、人生で初めての失敗を経験した。


 ―――そのたった一度の失敗は、全てを台無しにした。


「―――なあ、カイトはさ。どんな自分になりたい?」







「……なにこれ?」


 見渡すかぎり薄暗い闇が広がる洞窟の中で寝ぼけ眼をこすりながら、少年、速水はやみカイトはそう呟く。

 その場でうんと伸びをして、寝起き特有のどこかぼーっとした、覚醒していない頭で自分に起こったことを考える。

 

 連休明けの月曜日。平凡な男子高校生である自分はいつものようにアニメの見過ぎによる夜更かし。からの遅刻のコンボを決めて、担任からこっぴどく叱られた後、これまたいつものように睡眠学習に勤しんでいたはずだ。

 決して、どことも知れない洞窟で雑魚寝した覚えはない。


「……となると、これは我が担任かつ英語教師の田中先生の陰謀かっ!おのれ卑劣な手を……!

 ……1人でふざけてても虚しいだけだな」


 とうとう自分の授業態度が腹に据えかねたあの女教師によって学園から追放されてしまったか……くそう、俺だって一応良心の呵責とかあったのに…悪いのは月曜の1時間目に英語の授業をするそっちなのに!

 途中から逆ギレぎみに自分がこんなところにいる理由を考えていたカイトだったが、直ぐに馬鹿らしくなってやめてしまう。


「さて、真面目に考えるとやっぱりここは夢の中、とか?やけに感触がリアルだけど……」


 あえてふざけて考えた陰謀論の他に思い浮かべたもので一番可能性が高いのは、ここが夢の中で未だに自分は授業中にぐっすり眠りこけているというものだった。……単にそれ以外に思い浮かべたものがふざけた陰謀論と大差ないものだった、というだけの消去法だ。

 光源がまったく見当たらないのにそこそこ視界が機能しているのもこれで説明が取れる。多分、自分の頭が溜め込んだオタク知識をいかしてそれっぽいものを作り出しているだけだろう。ほら、ダンジョンRPGで松明片手に戦う主人公とかあんまり見たくないし。


 そう結論づけたカイトは数少ない友人に倣い、二度寝でも決め込もうかと考えて腰を下ろして横になろうとし、思い直したように立ち上がる。


「……さすがに二度寝は勿体ないか。下らない妄想はしない主義だけど、ここが夢の中というのなら話は別だ。……いや夢の中で寝たらどうなるかってのにはすごく興味があるけどさ」


 カイトは普段、自分を主人公にした妄想だけは絶対にしない。

 画面の向こうの主人公を知っているが故に自分には相応しくないと一歩引いてしまうのだ。

 ―――出来もしないことを考えても虚しいだけ。後々、後悔するだけ。そのことをよく知っている。

 自分で何とかできる範囲を遙かに超えたものをどうして望むのやら。周りの少年とは違いカイトの心は現実的で冷めていた。


 とはいえ、ここは夢の中。自分だけの世界というならば自分が主人公でも別に構うまい。少なくとも妄想みたいに誰かが自分に影響され、その人生を変えてしまうなんてことはない。

 ―――失敗も成功も自分だけが背負うというのなら気楽なものだ。


 夢の規模が地味なのもいい。この感じだと、宝探しとか洞窟からの脱出とかそんなだろう。実に自分らしいスケールの小ささで逆に微笑ましい。

 もしこれが異世界で勇者をやるとかのファンタジーっぽい夢だったりした時には「お前普段から妄想はしないって言っておきながら……言っておきながらっ……!」と夢の中で悶絶するハメになっただろう。


「さてと、そうと決まったからにはまずは荷物から調べるのが基本だよな。もしかしたら何か使えるものが入っているかもしれないし」


 そう言ってカイトは傍らに転がっている、先ほどまで枕代わりになっていたリュックの中を漁り始める。

 結果、出てきたのは筆箱と白紙のノートと電子辞典。残金1367円が入った財布と菓子パンが数個入ったコンビニのビニール袋。明らかに冒険に来るような装備ではない。……学校にカイトが来た時と同じ中身だった。


「……後はポケットに入れたケータイだけか」


 若干嫌な予感を覚えつつも身につけているケータイを取り出そうと制服の胸の内にあるポケットに手を入れて、そこでケータイの他に硬質なカード状の何かがあることに気づく。


「……コンビニのポイントカード、財布にしまい忘れたか?」


 カイトはそのカードを取り出し見る。


「……前言撤回だ。俺の脳みそめ、きっちり2次元知識に染まってやがる……!」


 表面が白色で右上に青い水晶のようなものが埋め込まれているそのカードはコンビニのポイントカードなどでは無く。

 そこには速水カイトと言う自分の名前の他にやらだとか言う普段の生活では見慣れない単語が並べられていた。




 速水カイト 17歳 男

◆レベル◆ 1

◆スキル◆ 

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る