惑星降下
第13話 相談
俺が宇宙船での生活を始めて、既に一ヶ月ほどの時間が経っていた。
この一ヶ月で、宇宙船内の生活というものに大分慣れてきたと思う。ただ、慣れるまでの間に色々と困ったこともあった。
例えば、時間の感覚が彼女達と微妙にズレていたりして生活習慣を合わせるのに苦労したり、部屋に備え付けられている生活するための機械の操作に手間取ったり、宇宙船という密閉された空間に居ると感じる息苦しさ、そのストレスに慣れるまで時間がかかったり。
けれど、日々過ごす毎に宇宙船内という環境に順応していって、一ヶ月経った今では特に問題なく生活できるようになっていた。
短い期間で色々と問題なく過ごせるようになって、自分の順応性の高さに驚く。それと、これだけ早く慣れたのは船員の助けがあったからだと思う。
特に、副船長のステインさんがとても気にかけてくれていて、普段の生活として料理や部屋の掃除、体調管理など補助してくれて、生活に慣れるまで色々と手助けてくれたりしたおかげが早く慣れることが出来たのだろう。
宇宙船での生活に慣れるように頑張るのと平行して、未知の技術についても徐々に学んでいった。
未知の知識を学習するのに、ジェペンス号のメカニックであるカマグル・ライラさんに付きっきりで教えてもらっていた。
このライラさんとは、俺が医務室から出るにあたって個室を割り当ててもらい移動したその日の夜に、部屋の隅っこの床から頭を出してきたあの女性だ。
あの時は突然部屋の隅の床が飛び上がって、その床の下から顔だけ出してきたのでびっくりさせられたのを覚えている。そして床から顔を出してきた女性は、俺と少しだけ言葉を交わすと、止める間もなくすぐに床に引っ込んで何処かへ行ってしまった。
その事があって、変わった女性だなという印象を抱いていた人だった。
そのライラさんは様々な分野についての知識が豊富で、メカニックを務めているだけあって科学技術の事についての知見が特に深かった。
そんな彼女に宇宙船内の機械の仕組みから使い方について教えてもらい、更には現代の宇宙で一般常識となっているような基礎技術や理論についての講義もしてくれた。
彼女の教え方は非常に分かりやすく、知的好奇心を次々に刺激されるためワクワクする気持ちで学びながら、非常に有意義な時間を過ごすことが出来た。
ただ時々、講義をそっちのけで突然何処かへ走って行ってしまったり、自分の世界に入って呟きながら集中してしまうと返事もしてくれなくなったりと、突飛な行動に出る人だった。
そんな彼女とも、この一ヶ月で一緒に過ごしてだいぶ親しくなれたと思う。
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そんな風にして、あっという間に一ヶ月が過ぎてしまったある日の事。
朝、目が覚めた時に船長のミラさんから通信が入って、話し合いたい事が有るとのことでブリッジへ来るようにという呼び出しを受けた。
目覚めたばかりだったので、五分程で部屋を出るために着替えなどの支度をしてから、朝食も食べずにブリッジへと向かった。
一ヶ月過ごしている間に船内の構造は大体把握していたので、案内も必要なくなって一人で向かう事に。
自分の部屋からブリッジまでの最短距離を迷わず進んでいく。
ジュペンス号のブリッジへ到着すると、俺を呼び出したミラさんはもちろん、副船長のステインさんが一緒に居た。そして、メカニックのライラさんも二人と一緒に待っていたようで、ブリッジへ入ってきた俺の方を向いていた。
「すみません、お待たせしてしまいました」
「いえいえ、コチラが突然呼び出したんです。問題ないですよ」
扉から三人に急いで近づいていき、遅くなって待たせてしまったという事を謝った。けれどミラさんは、特に不満な表情もせずに優しく許してくれた。そして、ブリッジへ呼んだ理由を話してくれた。
「実は、この宇宙船は補給を行うために、惑星エテリという所に向かう計画をしているんです。それで、到着次第ユウさんは宇宙船から降りてエテリの街を見学してみませんか?」
「え? 補給に行くんですか?」
実は、ジュペンス号は船内で食糧や水を生産出来て自給自足が出来るらしい。更に、その食糧を生産できるシステムに問題が起きても、一年分もの物資が緊急用に積んであるので、その一年の間にシステムを修理するなり自分たちの惑星に帰還するなりして、補給が必要ないと聞いている。
それが突然にも補給に行くという話を聞いて、疑問を持った。
詳しく話を聞いてみると、ライラさんが現在片手間で開発しているという機械を完成させるために必要な部品が、宇宙船に積んでいた物では足りなくなってしまったらしい。その部品を調達するために、商業が盛んな星であるという惑星エテリに向かうとのこと。
「目的はライラが必要としている機械の部品だけれど、ついでに念のための食糧や薬品を調達しようと思って。それに、生活に必要な道具も揃えることが出来るから、もし良かったらユウさんも星に降りて見て街を回ってみない?」
エテリという名のその星には、普通に人も住んでいるらしくて俺がその星に降りても安全だと言ってくれた。けれど、今まで地球以外の星に行ったことのない俺が、知らない星に降りることについて心理的に何か問題が有るならば、降りなくても大丈夫とミラさんに言われ、宇宙船から降りるかどうか判断を求められる。
俺は、地球以外の星に降りる事に対しては特に抵抗はなくて、むしろ地球以外の星に行ってみたいと考えていたので、大歓迎だと思い宇宙船から降りて街を見てみたいです、と即答した。
地球以外で初めて降り立つ事になる星。
宇宙に出てから、展望スペースで星を外から見ることは有ったけれど、今までは星に降りる機会も無く見ているだけだった。降りてみたいと考えては居たけれど、俺の要望を彼女たちに伝えると仕事の邪魔になるだろうと考えて、何も言わずに黙っていた。けれど、今回は彼女たちの都合のついでに降りれることになったので、問題は無いだろう。
俺の故郷の星である地球と、今から向かう惑星エテリという星に違いはあるだろうか。どういった違いがあるだろうか、既に色々と想像して心躍っていた。
「ユウさん、これから向かうエテリという星の事をまとめた資料です」
ステインさんが側に近寄ってきて、端末機を渡してくれた。俺の喜びが顔に出ていたのか、彼女は少し微笑んでいた。
「ありがとうございます」
恥ずかしくなって、渡された端末機に表示されている資料に目を向ける。
「それじゃあ、エテリに降りた後の行動を確認し合おう」
俺の惑星エテリ行きが決定して、三人の話し合いに参加することになった。
惑星エテリが有る宙域、その付近にある複数の惑星から様々な品物が集まってくるらしくて、その星に行けば大体の物が手に入るという。そして、その惑星エテリへ補給をするために向かい、三日後に無事に到着したのだった。
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