第08話 副船長とメカニック

 ミラさんに案内されて、今後生活していくために割り当てられた部屋へとやって来た。案内が終わると、ミラさんは直ぐに部屋を後にして、俺一人だけが残された。


 これから暫く過ごしていく事なる部屋か、と内心で思いながら内装を一通り眺めてみる。部屋の目の前で広さのあまり入るのに躊躇い、部屋に入ってしまった今も広すぎて落ち着かない。


 さて、何からするべきだろうか。部屋の中で困っていると、突然部屋中に機械音が響き渡った。ビィービィービィーと甲高い音がサイレンのように鳴り出して、え?と慌てる。今はまだ部屋の中の物である、家具や生活用品等の物に一切触っていないはず。何の音だ!?とぐるりと見回すが、今も鳴っている機械音の原因が分からないで居た。


 すると、先ほど部屋へと入った扉の方、俺の背後から凛とした耳に馴染みのない声が聞こえてきた。


「ユウ様。コチラです」

「え?」

 声のする方向に耳を傾けて身体を180度回転させて後ろを向くと、出入り口である扉の右側に目が向いた。ソコに有るディスプレイが点いていて、女性の顔が映っていた。


「画面の右にあるコンソール、ソコにある一番大きなボタンを押してもらえますか。それで、扉が開きますので」

「あっ、ちょっと待って下さい」


 ディスプレイに映る女性の指示通りに、コンソールの中で一番大きく見えるボタンを押す。すると、扉がスライドして開いた。


「開けていただき、ありがとうございます。ミラ様が先ほどコチラにユウ様を案内したようですが、色々と部屋の中の説明が不十分で困っているかもしれないと思い、説明をしに来ました。部屋に入ってもよろしいですか?」

「え? あぁ、どうぞ入って下さい」

 訪ねてきてくれた女性の話を聞いて、部屋の中へ招き入れる。見覚えのない女性だったので、宇宙船に乗っている五人のうち、まだ顔合わせの済んでいない二人の女性、副船長のステイン・エフォースさんか、メカニックのライラ・カマグルさんのどちらかだろうと考えた。


 目の前の女性をさり気なくを装って観察する。身長が目測で140cmぐらいだろうと低く見えて、青っぽい色をしたショートヘアだった。彼女は眼光鋭く、真面目そうな表情。ミラさんから聞いていた情報と目の前に居る女性の特徴を見て判断した限りだと、副船長のエフォースさんだろうかと予想した。


 そんな風に彼女が誰だろうかと考えて見ているのがバレたのか、慇懃な挨拶をされる。

「はじめまして、ユウ様。私は、この船の副船長を務めています”ステイン・エフォース”と申します」

 言い終わると、彼女は俺に向かって深々と頭を下げる。彼女たちにも、頭を下げてあいさつするような、お辞儀の文化が有るのだろうか。


 俺は慌てて彼女に頭を上げさせる。

「あの、こちらこそよろしくお願いします。知っていると思いますが、渡辺有と申します。それで、説明に来てくれたってことですが……」

「はい、ミラ様は直ぐにブリッジへと戻って来たので、説明が不十分かもしれないと様子を見に来ました。部屋の中で呆然とされていたので、説明が必要だと考え連絡を入れました。では、部屋の中の装置から説明していきますね」

「ありがとうございます、よろしくお願いします」

 俺が部屋の中で立ち尽くしてた所を見かねて、説明しに来てくれたらしい。


 丁寧な言葉遣いで、ステインさんは部屋の中を一つ一つ説明してくれた。しっかりと彼女の話を聞いて理解していく。



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「部屋の説明は以上ですが、何か質問はありますか?」

 たっぷり一時間ぐらいかけて、部屋の内装や機器、ベッドやバスルームについて説明を受けた。機器の使い方は分からなかったので聞けて良かったし、ベッドやバスルームについては使い方に俺の知っているものと大差なくて、生活していく分には問題無さそうだった。


「いえ、質問はありません。これから生活していくのに問題無さそうです」

「そうですか。何か疑問に思ったことや不都合が有ったら遠慮無く言って下さい。では、私は仕事に戻ります」

 ミラさんに続いて、ステインさんからも親切な言葉をかけてくれた。かなり気にかけてもらっている事を肌で感じた。そして、仕事に戻ると言うステインさんを見送る。




 部屋の説明をしてくれたステインさんが部屋から出て行って、再び部屋の中に静寂が戻ってくる。部屋の中は無駄に広いので、より寂しい感じがして静けさが強調された。


「今日は、もう寝てしまおうか」

 自分の身体が疲れていると言うことを自覚して、部屋に備え付けてあるベッドに横たわる。


 そういえば、このベッドも何時でも寝具を清潔に保つように自動でクリーニングする機能が付いていると説明された。自動で清潔になる、という言葉通り新品のように綺麗なシーツ。その上に寝転がるのは気持ちが良かった。


 数分か、数十分か意識がぼんやりとしていた頃。また、部屋の中にガタガタッと何かの音が聞こえた。


「今度は誰だ?」

 ベッドから立ち上がって、直ぐに外の廊下につながる扉へと近づきながら目を向ける。しかし、扉横のディスプレイには何も映っていない。

 誰か部屋に訪ねてきたのだろうかと、通路に繋がる扉へ向かったのだけれど違っていたようだ。再びガタガタッという音と、何かが外される音がした。


「あれ?」

「え?」

 部屋の隅の地面、ソコからニョキッと黄色い頭が床から上がって出てきた。その黄色い頭は、俺を見るなり理解できない、という顔をして声を出した。黄色い頭というか、見知らぬ女性だった。


「この部屋使ってるの? ってか、君はユウさん?」

「はい、私の名前は渡辺優です。貴方は、メカニックのライラ・カマグルさんですか?」

 見知らぬ女性だったので、宇宙船の中で出会っていなかった残りの一人であるメカニックの人だろうかと予想を付けて問う。


「うん、初めまして。私の事はライラって呼んで」

 ニッコリと笑顔を浮かべるライラさん。メカニックと聞いていたけれど、人懐っこい感じの笑顔を浮かべていて、俺のイメージしていた人とは違っていた。


「そっか、今日からこの部屋はユウさんが使うんだっけ。じゃあ、私は別の所を探す事にするよ。バイバイ!」

「え? あっ、ちょっと!」

 そう言うなりライラさんは頭を地面に引っ込めて、頭の上に挙げていた床を元の位置に戻す。繋目も見えなくなった床を再び開くことは出来無さそうで、突然現れて突然去っていた彼女を追いかけるのは無理そうだった。


「はぁ、疲れた。もう今日は休もう」


 船の中で出会っていなかった二人に出会い、これで乗船員の五人全員と顔合わせを済ませることが出来た俺は、ベッドに寝転がり眠ることにした。

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