神に捧げるレクイエム

水沢洸

第一部 世界最高峰の学園

プロローグ


 それは、遠い昔のおく



 とある場所。



 とある部屋。



 その、中心。



「あなたは、力が欲しい?」


 少女が言う。


 わくてきに。


 ためすように。


 その場にそぐわぬれいな金色の髪を輝かせ、ぼくに言う。


「……いらない。こんな力、欲しくない!」


 僕はそう答えた。


 それに、少女が笑った。


ちがうよ、そうじゃない」


 僕は少女の意図がわからず、彼女のえた。



 綺麗な眼だ。



 でも、不思議な眼だ。



 常に色を変え続ける、この世界では、ありえない眼。



 僕はその眼をしっかりと見つめ、少女の言葉を待つ。


 少女は相変わらずうっすらと笑みを浮かべ、僕を見ていた。


「アタシが聞いたのは、アイツ等の言う力じゃない」


 そう言いながら、少女はまわりに目をやる。


 そこには、顔を見られないためか、フードをぶかかぶった奴等がいた。


 そいつらは例外なく倒れ伏し、その身体からだから流れる血で、地面をに染め上げている。


 少女はそいつらを冷たくろすと、再び僕に目を向けた。


「アイツ等の言う、誰かを傷つけ、こわすための力じゃなく、大切なものをまもり、救うための力よ?」


「…………」


 僕は無言でうつむく。


 それに少女が、不安げにまゆをひそめた。


「あら? もしかして、いやだった?」


「嫌じゃ、ない……」


 僕はとっさに否定する。


 そしてそれは本心だ。


 嫌なわけがない。 


 もしも、もしもそんな力が手に入るなら……


「そう……。よかったぁ、けいなことしちゃったかと思ったわ」


 少女はあんした様子で息を吐く。


 だが、対照的に僕は暗い。


 わかっているからだ。


 そんな力を手にしたところで、僕は――



「護る相手がいない? それとも、あなたの色は、受け入れられない?」



「え!?」


 僕は驚愕きょうがくに眼を見開いた。


「ふふ、ぼし? それにその反応だと、両方かな?」


 少女は相変わらず、蠱惑的な笑みを浮かべている。


 少女とは到底思えない、ひど妖艶ようえんな笑み。


 それがまっすぐに、僕を、見つめ……



「じゃあ、アタシがなってあげる」



「…………え?」



 僕は思わず、ほうけた声を出した。



 そんな僕に、少女はんで含めるように、言う。



「アタシが、あなたの護る相手になってあげる」



「なにを……」



 なにを言っている?



 なにを鹿なことを?




 僕は、なんて言おうとしたんだろう。




 なにかを言うつもりだった。




 でも、なにも言えなかった。




 僕がなにかを言おうとしたとき、少女は、



「アタシは、あなたを否定しない」



 なんてことを。



「あなたを全部、受け入れる」



 なんていう、ことを……



 いままでとは違う、やさしい笑みを浮かべて、言ってきたから。




 だから僕は、なにも言えずに見つめていた。



 だから僕は、思わずそれにれてしまった。



 少女はそんな僕に、そっと手を差し伸べて、



「だから、アタシの手、取ってくれる?」



 なんてことを。



「アタシと一緒いっしょに、来てくれる?」



 なんていう、ことを。



 今度はどこか、不安げに、言ってきて……




「…………」




 だから、僕は――






 こんな僕を、否定しないと言ってくれた、この子のために。






 こんな僕の、すべてを受け入れると言ってくれた、この子のためなら。






 そう思って、手を、伸ばした……










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