第12話 NPCの村
「さぁ、来たよー。着いたねー。安心、安全、安らぎのNPCの村。ここなら変なスイッチも入らないし、大丈夫だよね。やったね。やっとお姫様の情報収集できるね」
「何、それ?」
「あーー、ビカム君は知らないのかー。まあ、そうかもね。ノンプレイヤーキャラっていってね、ひとつの言葉しか喋らないから。ねっ、ねっ、ねっ、安心でしょ。神様は、特に安心だよ」
「ふーん。つまんねぇー」
「つまんなくないからね。これが勇者の進む道、ビカム君のお仕事だから。こうして苦労して、情報集めをしないとダメだからね。今までは、遊びすぎたり、猫耳すぎたり、聖母すぎたり、大変だったよね。なんちゃってだよね」
「くだらねー。寝ていいよね」
「ダメ、ダメ、ダメだよ。寝るのはなしね。それに、つまらなくないって。そんなことないって、おもしろいから。ほら、ほら、見てて、触ると喋るよ」
「こんにちは。コッテ村へ、ようこそ」
「ほらほら、これこれ。このお姉さん、これしか喋らないから。あとは足踏みしてるだけ。これがNPCだからね。ねっ、おもしろいでしょ。よーく覚えておいてね。このNPCの誰かが、お姫様の情報を教えてくれるからね」
「キャッ。ポワン♡」
「ちょっと、ちょっと、何してんの!? こらっ、ビカム! スカートまくりなんて、今どき、子どもでもやらないよ。そんな勇者いないよ。しかもNPCを驚かせて。って、何、このNPC。ポワン♡とか、なしでしょ?」
「うん。尻尾なかったよ」
「そうだねー。あるわけないよねー。そのお姉さん猫耳でも犬耳でもないよねー。普通の人だよね。それにしても、NPCまで落とそうとする『恋のキューピット』半端ないね。凄すぎだね。もう危ないから中に入るよ」
「尻尾ないしなー」
「もう、尻尾はいいの。さっさと来なさい! じゃ、この家に入って家の人に聞いてみようか。ねっ、なんかドキドキするでしょ! 冒険だねー、男の子だねー って、ちょっと、勝手にずかずか入って、何してんのかなー。おーい!」
「もぐもぐ。おいしいっ」
「シチュー食べてるねー。ほんとおいしそうに食べてるねー。神様もお腹ぺこぺこだし、もらっちゃおうかなー。いいよねー、少しくらい。神様、あれ以来1日1食だしね」
「へー。ダイエットしてるんだ。おいしいよ。もぐもぐ」
「ダイエット? それは、ちょーーーっと違うかなー。ダイエットする必要はないんだよねー。でもねー、いろいろあってねー。まあ原因は、全部ビカムっていうぐうたら勇者のせいなんだけどねっ!」
「えーーひどいね。そのビカムって野郎! もぐもぐ」
「そそそ。ひどいんだよ。って、おまえじゃ! なーにバックレてくれちゃってるのかなー。そんでもって、そんな話なんて、どうでもいいって顔して、バクバク食ってて……。しょーもな!」
「あーーー。パワハラ野郎だ! もぐもぐ」
「パワハラじゃないよ。そんなことしてません。神様は理想の上司だからね。うんうん。いつもみんなに尊敬されて、感謝されているから。それに野郎って何、ねっ、ねっ、ねっ、ねーーー」
「ひどいね。マタハラ野郎だったんだ。もぐもぐ」
「おーい。それって意味を分かって言ってんのかなー。お前がいうな。略して『おまいう』だよー。微妙に意味違うけど。ほんと君には、それを言える立場も、資格も、性別も、まるでないからね!」
「あーー、おいしかった」
「完食したねー。普通は、神様もどうぞ、とか、少し残ってますよ、とかだと思うんだけどねーーー。鍋がカランっていうほど、何も残ってないね」
「じゃ、ま、そういうことで。お昼寝だねー」
「本当に君は自由奔放ちゃんだねー。って、あれ! なんか鍋の底が焦げていて何かの文字が……。なになに、『お姫様は、この先の洞窟に囚われている』って、何これー。何で鍋の底に、こんな重要なメッセージがあるの?」
「働いたねー、僕。じゃお休みー」
「全然と言っていいほど働いてないけどね。シチュー食いまくっただけだからね。それでも、なーんか知らんけど、物語が進んでいくんだねー。神様、ちょっとびっくりだよ」
「さすが、勇者ビカム!」
「出たねー、自画自賛! 本当にそう思っているのかどうかは知らないけど、まあ、お腹いっぱいで、少しはやる気が出てきたのかな? それなら、いいことだねー」
「あとは任せた。ビカムの子よ!」
「あーー、全然違った。違うほうにやる気いっちゃってたよ。だからね、それはなしって言ったでしょ。そういのはないから、君が魔王を倒すんだよ。いいね。じゃ、遊んでないで、ほら、行くよ!」
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