[休止中、改稿予定]アナザーワールド

すらいむ

第0話 プロローグ

【アナザーワールド】

 数年前にあるホームページに突如登場した現実世界を舞台にしたケータイ及びスマホで遊べるゲームアプリ。


 登録方法は氏名や住所、電話番号、換金したお金を振り込む為の口座番号等の個人情報に始まり、他にもスポーツや武道経験があるか等のアンケートに答えねばならず、更に専用アプリによる指紋及び網膜認証を行い、体の状態までも調べ登録を求められる。


 又、一人で複数アカウントを作成は出来なくは無いが何のメリットもない。


 仮に複数作成した場合、先に登録していたアカウントは強制的に削除されてしまい、既にクリアしていたミッションについては報酬が削除された状態で始めからやり直さねばならなくなる。


 最初は登録する為の手間の多さと、その胡散臭さから個人情報収集用の怪しいアプリとみなされ、ほとんどプレイされる事はなかった。


 しかし、どこにでもそういう物、いわゆるクソゲーらしき物に自ら突っ込んでいく変人はいるもので、換金率の良さとほとんどの言語で遊べる事をその変人達がSNSで発信。結果として、瞬く間に世界トップのダウンロード数を誇る迄になった。

 ちなみにゲームのジャンルは換金型のMMORPGに当たる。


 どれくらい貰えるのかというと、例えば一ヶ月毎日欠かさずログインするだけで月一万円は報酬額として保証されており、トップ集団にもなると年収一千万円越えはざらになる。


 そのため、定職に就かずにこのゲームで生計を建てる猛者も今では世界中で当たり前の光景となった。




 日頃からごく普通のペースでプレイしている俺でさえ毎月六桁近く稼げる為、アナザーワールドこのゲームが無い生活なんて最早考えられない、というか考えたくない。


 だからこそ瞬く間に世界中の人々にとってなくてはならない物になっていった。



 その反面、運営している会社の利益が出ているのか。 


 又、どれだけ少なく見積もっても、年単位で数十兆円という、先進国の国家予算並の金額を払う能力が何処にあるのか等は情報社会の現在において尚一切判明しておらず、謎の企業としてテレビやネットで日夜物議を呼んでいる。



 また、この換金率の良さから労働者、特に学生やバイト、派遣等の比較的若く安い人材の働く数が大幅に減少し、日本のみならず世界中で労働力不足、労働者の意欲減退が問題視される程に発展。



 日本や先進国はAIやロボット等で単純労働をある程度代用出来る状態だからまだマシだ。


 そのほかの、主に発展途上国といわれる国々では特に深刻だ。というのも、働いて稼ぐ金額よりそのゲームをしていた方が月々の収入は遥かに高くなるのだから。


 まぁ、そんな状況だとよっぽと労働が好きな人以外、誰も働かなくなるのは当然といえば当然なのだろう。





 そんな折、運営からこれまでにない規模の大型イベントが発表された。

 概要は以下の通り。


【プレイヤー数五十億人突破記念イベント開催のお知らせ】



[プレイヤーの皆様、いつもアナザーワールドを楽しんでいただき誠に有り難う御座います]


[日頃の御愛顧に感謝し、プレイヤーの皆様をアナザーワールドの世界へ御招待致します]


[アナザーワールドゲーム内で出されるサブミッションをクリアすると、現実に戻った際にクリア特典を褒賞金としてお支払い致します]


[どうか心行くまでお楽しみください]


[【開催期間】

○月×日0:00~]



「やっと、やっと、この日が来たのか」


 閑静な住宅街の一角に建てられた二階にある自室で、俺はベットでうつ伏せになりながら、その知らせを食い入るように見ていた。






 両親が三年前の交通事故で他界してから姉と二人、何とか生活している。


 葬儀の後、親戚から共に暮らさないか。と誘われたが、両親が親族と仲がよろしくないのを知っており、残された財産が結構な額存在している事を教えられていた姉は、親族達が財産目当てで誘っているのではないか? と危惧しその話を断り俺と二人で生活していくと決めた。


 とはいえ、やはり子供だけでは生活するのは難しく、最初は炊事や洗濯等色々と失敗続きであった。


 それでも、やり続ければ自然と身に付く物で、姉は家事全般完璧になり、俺も同年代と比べると料理は作れる程度にはなったといっていい。




 ただ両親がいた時と比べ、姉が過保護になった感が否めない。


 登下校は必ず一緒にしないといけないし、出掛ける時は何処に行くのか、誰と行くのか、帰宅時間はいつになるのかも知らせないと満足に外出させてもらえないのだ。


 それを面倒と感じ、ある休みの日、一度だけ知らせもせず勝手に遊びへ行ったのだが、帰宅途中にスマホを見ると着信履歴が軽く三桁を越えるという、それはそれは恐ろしい事になっていた。


 そして帰宅後、数時間正座のまま説教される事になった。


 他にも色々あるのだが、当然これらの事を周囲に隠せる筈も無く、近所ではとても仲の良い素晴らしい姉弟、というある意味とてもありがたい評価をされていた。


 金銭面においても、最初は遺産を切り崩して生活していたが、このゲームアナザーワールドがサービス開始されてからは大分楽になり、二人分の収入だとほとんど遺産を使わなくても十分に人並みの生活をしていけるようになった。



 現在は姉が剣術の稽古で多少収入は減っているが、どうにでもなる範囲だろう。

 ちなみに、姉は剣術の才能があるらしく、その道場だと逸材として期待されているらしい。

 俺はどうにもそういう習い事の類が苦手で続いた事がサッパリ無いのだが、どうやらそういう所は似ていないようだ。

 



「――んーッ、と」


 一つ大きく伸びをし、愛用している大きめの少しくたびれたクッションにもたれ掛かりながら、再びイベントページが表示されているスマホ画面へ目を戻す。



 告知自体は何ヵ月も前からされ、約ひと月前に始まり二週間前に終了した前哨イベントでは、クリアすれば百万円にもなる換金専用といっていい限定アイテムを入手する事が出来た。


 前哨イベントでこれなんだ。

 今回のメインイベントも当然あれ以上の収入を期待していいだろう。どれだけ貰えるのか今からワクワクしてくる。



 しかし、今回は遂にゲームの世界に行けるのか。

 近年のVR技術の進歩は目覚ましいが、恐らくその類では無いのだろう。

 この書き方だとまるで意識と体のどちらか、或いはその両方をその世界に連れて行くような、そんな感じがする。

 そんな事が出来るのはそれこそゲームや漫画の世界の事だけだとばかり思っていたが、まさか現実に起こる事になろうとは。


 しかし、どうやって行くのだろうか?

 そういう専用の機械とかも必要とは記載されていないが。

 まぁ今までも、期間内に現実の特定の場所へ行ったら○万円(達成出来たかはGPSと現地の写真撮影等で判断)とか、一定時間○○を続けたら○万円とか、突拍子のない事をしてきた運営だからな。

 今回のも何かしらの方法はあるのだろう。

 とても想像する事は出来ないが、今までの事を考えると不思議な説得力というか信頼感? がある。



 っと、舐め回すようにイベント画面見てたらもう数分後にはイベント開始の時間になってた。

 にしたって、なにも夜中スタートじゃなくてもいいのにな。もうちょっと時間を考えて欲しかった。明日俺は休みだから夜更かししても問題ないけど、仕事とか部活とかの人も居るだろうに。

 


 えーと、向こうへ行ったら先ずは状況を確認して、隣室でもう寝ているであろう姉さんと合流する事を優先しよう。

 流石に未知の世界で一人勝手に動き回るのは危なそうだし。


 まぁ、日本サーバーでは拠点の数自体、主要都市の場所くらいしか無いし、最初の場所分けも今までのGPSによる物だと考えたら向こうでも同じ拠点スタートだろうがな。



 これから起こる一大イベントに胸を膨らませ夢想しているといつの間にか日付が変わってた様で、その瞬間、俺の意識はスマホに吸い込まれていった。

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