第一章

RUN!

 RUN!


 VR


 プログラム1が、当初計画していたストーリーはこうだ。


 主人公・九鴉クロウは地下都市に絶望している。

 そんな彼が唯一、希望となるものを見出す。

 それがツバサ。

 だが、彼女は処刑されそうになり――


 と、ここで九鴉が颯爽と登場し、救い出す。ここまでは完璧だったはずだ。

 九鴉一人だったら、問題なかったのだ。

 だが、五人も現れた。

 しかも、その五人というのが一人残らずクセ者揃いで――


[そもそも、九鴉ってのがよく分からないんだけど。あいつ、絶望してたの?]

 プログラム1と2の間に、3が割り込む。

 プログラム2がツッコミを入れる。

[それは冒頭からそうだったろ]

[冒頭?]

[ノザキ邸を襲撃したときからだよ]

[……?]

[あーもう、分からないかな。あそこで、何故バードスターが出たかというと!]

[いやいや、そこまで説明しなくてもさ]

 プログラム1が慌てて割り込んで止めた。

[だが、こいつは何も分かっておらん! ストーリーの裏にあるものを読み解こうと思わないのか!?]

[えぇ、行間を読むってやつ? いや、読んでるつもりなんだけどな。こう、まじまじと][――っ!!]

 まぁまぁ、とプログラム1が2と3をなだめる。

(だが、彼みたいなのは一人や二人じゃないな。九鴉に共感できない者がいるのも確かだ)

 プログラム1は密かに、アクセス解析を使い、テレビ番組を見た観客がどういう反応をしたのかを探る。


(……ふむ、あいつは人殺しが嫌だっていう割にはあっさりと人殺すよね、か)


 そこが、九鴉に共感しない理由らしい。

 いや、それは早い段階から提示してるはずだが。

 しかし、とプログラム1は思考する。

(悪くない展開か? 丁度、九鴉がどういう人物なのか。見直す機会だ)

 人の本質は、追いつめられたときにこそ光る。

 プログラム1は人間のように体があったら、きっとほくそ笑んでいただろう。

[だって、九鴉ってようは俺TUEEEEEでしょ。人類史でちょっとだけ流行った]

[だーかーら! 違うんだって、あいつは]

 2と3がまだ言い合っているが、プログラム1は無視して作業に入る。

(丁度いいさ。問題となる人物は他にもいるが、まずは九鴉が何者かを探る話にして――それから)


 025


 五番街。

 白い建物が規則ただしく並び、ゴミや汚れが多い地下都市では異質な存在だ。

 外観は白亜の建物ばかりで、まるで一面雪景色のよう。もしくは、幻想的な雲の楽園。

 人類史でいうなら、白い地中海風の建物といえようか。

 設備としても、常に団員による清掃や、防災点検、治安維持のための巡回も行っているため、安全面から見ても申し分のない街である。


 だがしかし、現在この街の中央では。

 まだ、年若い少年少女が処刑されそうであった。


 ローマ・コロッセオを外壁だけ真似た円環の壁が覆う。

 中央に、三階建てぐらいはある高さの処刑台。

 その下に、ちょこんと教祖が拡声器を持って叫ぶ。

 が二人、サーベルを持って縄で縛られた少年と少女を殺そうとしていた。

 それを、大勢の観衆達が見つめていた。


//[system_on][revise_check]

プログラム1:[しまった。兵士じゃなく、騎士だった]

プログラム2:[おい、気をつけろ。普通だったら一大事だぞ]

プログラム1:[申し訳ない。訂正、訂正]

//[system_on][/revise_check]


 二人のが、彼らを処刑するはずだった。


 026


 観衆はしばし呆然としていたが、次第にとんでもないことが起きてるのに気づき、ざわつき始める。


 ――騎士は今、宙を飛んでいる。


 サーベルで少女を殺そうとしたときだ。

 サーベルは何者かによって弾かれ、その後、銃声がして刀身が折れる。黒ずくめの少年が現れ、騎士を一人投げ飛ばす。「何事か!」と慌てたもう一人は、大男が現れて殴り飛ばされた。次に、小柄な機械族と、金髪の少年が駆け上がり。

 最後に、褐色肌の男がワイヤーで処刑台を上ってきた。


「何だ、貴様等は」教祖は拡声器も忘れて地声で発していた。


「……君達は?」ツバサ――処刑されそうだった少女はたずねる。

 処刑台の上に突如現れた五人は、彼女を守るように円で囲んだ。

「他はどうか知らないけど、僕は守るために来た」

 五人の内の一人、黒ずくめの少年は答えた。

 彼の名は九鴉。

 三番街を代表する族、『ファイブ』のメンバーであり、最高戦力ナンバーズの一員でもある。


 027


 楽園教にある武力集団は、大きく分けて三つ。

 一つ目は、『教団警察きょうだんけいさつ』。

 主に五番街内部の治安維持を担当し、厳しい目で団員(主に下等団員)を、もしくは外部からの侵入者を取り締まる。

 二つ目は、『騎士団きしだん』。


「何て、罰当たりな奴らだ」ある男は、憤っていた。「……重罪だぞ」


 背丈は並より少し高く、彼のけわしい表情はそこら辺のチンピラを黙らせるほどだ。目つきが悪く、いつも睨んでるかのよう。前頭部はやや髪がうすく、全体的に見ると寂しい、足りない、がんばれ、と言いたくなる頭。

 彼の名は、ダンネル・ローツ。

 由緒正しき二等団員であり、三十代半ばにして騎士団の団長を務める猛者である。


            <kishidan>騎士団</きしだん>

         楽園教の最高武力とされている武力集団。

      教団内部の治安維持を担当する『教団警察』とは違い、

   外部に対する治安維持。地下都市全体の平和までが彼らの守護対象だ。

   彼らの能力は高く、上等団員の中でも選りすぐりの者だけが入団できる。

               <word>●</word>


 ダンネルは、この中央広場で警備にあたっていた。

 本来なら彼ら――騎士団の存在が抑止力になり、事件の片鱗すら起きないはずだった。起きたとしても、常日頃の訓練により万全の準備を期していたはずだ。

 それなのに、彼は一連の事件を黙って見過ごしてしまった。

 複眼のように連なる彼のプライドが激しく傷ついた。

(……頭に妙な光景が入ったからだ)

 下等団員には理解できない香水くさい情熱が燃える。

「許さん、許さんぞ!」

 処刑台に残った教祖様は、ダンネルの怒りを代弁するかのように叫んでいる。

 周りはざわつく。

 ダンネルのことは目に入ってないし、耳も傾けていないが。


 028


 最初にクチを開いた九鴉は、長身だが顔立ちがキレイすぎて、どうしても頼りなく見えてしまうとこがある。

 だが、一瞬ふわりと見せる表情は、サブリミナル効果のように拭いがたい恐怖感を与える。

 ナイフの切っ先のように、0と1しかない表情。

 そして、その印象はけして間違えではない。

「私もそうだ」メガネをかけた褐色肌の男がしゃべる。「守るために来た。この子をな」

 と、ツバサに視線をやった。

 彼の首には、黄色い布が巻かれてる。

「は?」九鴉は突然声色を変えた。「アンタが人助け? 信用ならないな」

「知ってるような口ぶりだな」褐色肌の男は聞く。「私に何か恨みでもあるのか。大体、お前が誰かも分からないのだが――」

 九鴉は動く。

 男も反応するが、九鴉がフェイントを入れるとついていけず易々と背後を取られ手首をねじられ、床に叩きつけられる。

「やめて!」ツバサは叫ぶ。「……あ、あぁぁ、きみの苦しみは分かるけど」

 彼女は動機を知ってるかのように話す。

 しかし、九鴉は止めない。怒り心頭でそれどころじゃない。

「三番街の族、『ファイブ』の九鴉だ」九鴉は手首を強くにぎりしめながら言う。「お前等に何もかも奪われた、な」

 その瞬間、Vを知ってる者は絶句した。

 三番街の族『V』。

 これまで、ある族に占領され続けてきた三番街だが、最近はある新興勢力によって奪い返されている。三番街の族『V』は、その奪い返した新興勢力のことだ。

「――なる、ほど」男は顔面を強く押し付けながらも、納得したかのような表情だ。

 褐色肌の男、彼の名はDORAGONドラゴン

 四番街の族『キバ』の副リーダーであり、参謀役。

 そして、九鴉の住んでいた三番街を襲い、長らく占領していた張本人でもある。

「何故ここに来た。また何か企んでるのか。楽園教に対抗するため、この子を利用しようとしてるのか、貴様」

「やめてください、その人は違うんです、九鴉さん」さっきからツバサは、二人のことを詳しく知ってるかのように話に割り込んでくる。

「答えろよDORAGON!」


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 と、突如大男が雄叫びを上げる。


 029


「何だ何だ!?」      

                      「怪物の声か」

   「うわぁっ!」                   

                           「耳がっ!」

       「ぎやあああああああああっ!」

 観衆は耳をつんざく絶叫を聞き、鼓膜に強い衝撃を受ける。

 ある者は耳をふさぎながらうずくまり、中には泣いている者も。

 白亜の建物すら震撼し、騎士団の者も数名が打ち震えた。

 だが逆に、耳もふさぎもせずず凝視している者もいた。

「何をやってるか、総員配置につけ!」騎士団団長のダンネルだ。


 030


 大男は右腕を上げて、そのまま九鴉達に殴りかかった。

 ガラスが割れるような破裂音が響き、DORAGONだけが吹き飛ぶ――が、その身は何故か空中で停止していた。


「き、貴様っ……何をして」DORAGONは現状が理解できないながらも、己の傷を確かめる。「……あ?」

 そして、周りを見て何事か確かめようとする。

「……っ」九鴉はというと、すばやくその場から離れ、大男と距離を取っていた。


 大男は、オレンジ色の布きれを腰に巻いたとても原始的な格好だ。全身の筋肉は鎧のように固く、大木のように太い。全身にみなぎる生命力が鮮明で、処刑台を見上げる観衆でさえ言葉を失うほどだった。

「何故さっさど殺さないダ!」

 彼は声を張り上げた。

「は?」自分に聞いたのか、と九鴉は疑問符を浮かべる。

「お前に聞いでるダ。この根暗!」九鴉の目が鋭くなる。「せっかく戦って、トドメというときにクチばかり開いで殺そうどしない。戦士として失格ダ!」

 いや、失格と言われても。

 しかも戦士って。

 九鴉はがんばって言葉を咀嚼してみるも、やっぱりわけが分からないとあきらめた。

「意味が分からない。……ったく、これだから六番街は」思わずつぶやいた。

「なっ!? 今、六番街をバガにしたダカ!?」大男はまた拳を振り上げる。「オラならまだしも、故郷を侮辱すると怒るド! 六番街が最強の戦士、陸王丸りくおうまるの拳を受けるダッ!」

 大声を張る割には、九鴉にとってはゆっくりな動きだった。

 彼は難なく腰のうしろから戦闘用ナイフを取り出し、拳を避けたのちに斬り殺そうと――ナイフが弾かれる。

「――っ!?」

「んだっ!?」

 大男の拳も途中で止まった。

 拳が、見えない壁にぶつかったかのように弾かれたのだ。


 ――なにヲヤッテル、おおばかどもガ。


 小柄な機械族は、空間に文字を表示させていた。


<check>◆</check>

機械族はいつも口頭で話さない。

</check>◆<check>

                             <check>◆</check>

                  何故か、機械を使って文字を表示させる。

                             </check>◆<check>


 さらに付け加えると、左手の中指を突き出してFUCKという文字まで表示している。

「……何、それ?」英語は少ししか知らない九鴉は首をかしげる。

「???????」英語を全く知らない大男――陸王丸は疑問符ばかり。

「おい、こらガキ。全員が馬鹿だと思うなよ、Fuck you, asshole(死ね、アホ野郎)」

 DORAGONが処刑台の上にもどる。

「貴様等、わたしの話を聞け!」教祖がまだ何か言っている。今度は拡声器まで使っているが。

 DORAGONは小柄な機械族とにらみ合う。

「私を助けたのはお前か? そのことに関しては感謝する。だが、お前が言ったのは」


 ばかヲばかトいッテ、なにがわるイ?


 DORAGONのクチが怒りで震える。

「機械族……得たいの知れない集団だとは思っていたが、やはりどことなく排他主義だな」

 今だけじゃなく、過去にも経験したかのように話すDORAGON。

「僕は馬鹿じゃないぞ」九鴉も九鴉で怒っている。DORAGONはもちろんのこと、陸王丸と小柄な機械族に対しても怒っていた。

「オラだっで――こりゃ、まずはこっちを済ませなきゃならねーナ」


 ホントばかバッカ。コノママジャこうげきサレルダケナノニ。


 小柄な機械族は親指を下に向けながら言った。

「だっだら、ふざけだ言葉を浮かべんじゃネェ!」どう馬鹿にされたか分かってないが、とりあえずムカツク陸王丸。

「私だって喧嘩するために来たつもりじゃないが。だからといって常に寛大ではない」クールを装ってるようで、内心は激情に包まれてるDORAGON。

「……僕も信用できない奴と組むつもりはない」九鴉はナイフを構える。

「やめてよ!」ツバサは叫んだ。「キ、キミ達は何しに来たの!? 守るためにって言っておきながら喧嘩して!」

 喧嘩というより、殺し合いだ。

「………(がくがくっ)」

 金髪の少年。青いパーカーを着て、細い袋を持った彼だけは隅っこで震えていた。


 031


 騎士団団長、ダンネルは眉間にしわを寄せて処刑台を眺めていた。

「何を遊んでおる……」

 処刑台に現れた五名は円を囲んでいがみあっている。何しに来たんだ。処刑を止めるために来たのではないのか。


「わたしの話を聞けぇっ!」


 何より許し難いのは、楽園教のシンボルでもある教祖を無視していることだ。

 ダンネルの拠り所である楽園教自体を馬鹿にされてるようで、心底腹が立った。

「下等団員にも告げよ。すぐに警戒Cのサイレンを鳴らす。乱入者を許すな」


 032


「………」ツバサと同じように処刑されそうだった少年――ダイチは現状が理解できていなかった。

(あの人――Vの人だったんだ。いや、それだけじゃない。あの四番街のDORAGONもいるし、六番街の戦士もいる。さらに、機械族。あの金髪の少年はどこからか分からないが……すごいメンツじゃないか)

 地下都市で名高い族が勢揃い。

 本来なら、拳を向かい合うのは変なことではない。

 そもそも、こんな場所に一同が集まるのがおかしいのだから。

(どいつもこいつも、ただ者じゃない。六番街は屈強の戦士ばかり、機械族は未知の力を持ってるし。牙の参謀役は言わずもがな。そして、三番街の族は敵を殺してバラバラにして街に撒くという残虐非道の集団)

 ダイチはガチガチッと恐怖で歯を鳴らす。


「私はそこの九鴉に謝罪するつもりはない。どうせ、謝ったところで許されるものではないし、私も後悔してるわけじゃない」その言葉に九鴉のこめかみがピクッと動く。「だが、ここで素直に死ぬわけにもいかない。せめて、まずはその子を助けてからにしないか」

「その前に、オメェはオラが殺すダ」陸王丸が割って入る。「そもそも、オメェ! 昼間に戦った奴らじゃねーガ!」

「……あ」九鴉はクチを大きく開けた。「もしかして、あのときの」

 ツバサが巻き添えを喰らって死にそうだった、あの事件。

 そう、あそこで暴れていたのはこの陸王丸だ。

(――っ!?)ダイチは途端、恐怖でふるえる。

「あなたが」ツバサは目をしばたたかせる。

「……あのときも、お前は私に「集団でいるとは卑怯な奴ダ」とつっかかって来たな」

 それを聞いて、一同が「「「「「「は?」」」」」」となる。

「当たり前ダ! 集団でしか戦えないなんて、戦士の誇りもネェ!」

 いや、それって族の存在そのものを否定してるし。

 そもそも、戦士の誇りというのがよく分からない。

「というか、ちょっと、喧嘩してる場合じゃ!」ダイチが慌てだした。辺りがざわついて、物騒な掛け声も聞こえてくる。


「何をしてる。早くこやつらを捕らえろ! 殺せ、殺せぇ!」教祖は血気盛んだ。

 ダイチだけがそれに反応して怖がっている。


「知らねーダ。そもそも、そこの根暗がはじめだことだ」陸王丸は拳を打ち付ける。

「……きみはどうでもよかったんだけど、そうはいかなくなったらしいね」九鴉は目がぎらつく。

「説得すればとも一瞬考えたが、無駄なようだな」DORAGONは肩をすくめる。

 ばかバッカ、小柄な機械族はため息をついた。


「もう、みんなやめてください!」

 ツバサの想いが見当違いの方に届いたかのように、処刑台に向かって攻撃が放たれた。


 033


 小柄な機械族以外にも、この中央広場にいる機械族がいた。

「………」

 辺りには、白いタンクトップの老人や、親子連れの者――とバリエーション豊かだが、機械族は一貫して緑一色。緑のフード付きロングコートと顔にガスマスクだ。

 処刑台にいる小柄とは体格だけが違う、そこにいるのは大柄な機械族。

 観衆の中に紛れて、一連の事件を凝視していた。

 大柄のうしろには部下らしい者もいる。

 三人――おそらくは、三人とも女性の機械族だ。

 シルエットは細く、背丈もそこまで高くはなく、胸もふくらんでいる。

「………」

 この機械族らがクチを開くことは、まずありえない。ガスマスクを取ることもしない。

 だから、何を考えているのか分からないし、知る手段もない。

 だが、その光景を黙って凝視していた。


 処刑台を、竜巻が襲った。


 034


 四鹿は教会のてっぺんから、それを眺めていた。

「………」

 魂が抜けてるかのようだが、それでも九鴉の危機を見つめていた。


 処刑台に放たれた直線上の竜巻――騎士団団長ダンネルが放ったそれは、うなりを上げて回転し、大砲のようにうがたれた。観衆も大勢巻き込み、中には余波だけで死んだ者もいた。

「騎士団、戦闘用意!」

 それを見て処刑台の上で悲しむ者もいたが――それだけじゃない。陸王丸は雄叫びを上げて処刑台から跳んだ。


「ウダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 彼は右腕を突き出し、竜巻を己の暴風で押しもどす。


 035


 竜巻は同じ威力によって相殺され――弾かれた風が辺りに流れ、観衆が悲鳴を上げた。

 細かな風は弾丸というより刃物で、手足が切り裂かれるもの、頭が割れた者、彼らの悲鳴が風の音とともに響く。

「あぁぁぁっ――」それを見ていたツバサは嗚咽を上げた。

 感情が、一斉に伝わる。

「……何だ、この感情は」それをDORAGONは神妙そうに見つめた。「もしかして、これがお前の能力なのか?」

 彼の脳内には、自分のものとは思えない悲哀の念が渦巻いていた。


 処刑台の隅で金髪の少年は泣いていた。

「うぅ……(何でボクがこんなとこに。こんなはずじゃ――)」

 ただ、あの空を見て体が動いただけなのに。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 陸王丸の絶叫と竜巻の衝撃が拡散し、周囲に流星群のように降り注ぐ。

 処刑台もあおりを食らう。柱が数本壊れたようでガタッ――とバランスが崩れ、次に柱の全てがひき裂かれ、落下する。

「……おい、そこの機械族とビビリ」DORAGONは落下しながらも、小柄な機械族と金髪の少年に聞く。「お前等の名は?」


 119204号。


 と、機械族は空間に表示させた。それを見てDORAGONは「そうか、色々と言いたいことはあるがよろしくな、119204号」と語る。


                                 <check>◆</check>

機械族は、全員(~号)とまるで機械のような名前である。

</check>◆<check>

                             <check>◆</check>

          どういう意図かは不明だが、何らかの信念があるのだろう。

                             </check>◆<check>


「……ぁ……その……」隅にいる少年は答えずらそうにするが。

「ちゃんどしゃべロ! それでも戦士ガッ!?」陸王丸が不満の声を上げた。無駄に耳がよいようだ。

「……え、そ……その……」

「名前は、『イナズマ』ですね?」彼をフォローするかのように、ツバサが話に割り込む。

 だがそれは、誰も知らない情報のはずだ。金髪の少年、『イナズマ』は目を見開く仰天する。

「……すいません。頭に、入ってきましたので」ツバサは申しわけなさそうに頭を下げた。

「うわあああああああああああああああああっ!」ダイチは一人、恐怖で絶叫していた。

 ある意味、この中じゃ一番マトモだ。


 DORAGONは渋い表情をした。

「お前の能力は――」ダイチを無視してツバサの能力を考えていた。

 と、あまり時間はない。全員、落下してる最中だ。

「おい、そこの根暗」「殺すぞ?」

 九鴉は即答。

「殺したいときに殺せ。それだけのことをした。自覚はしてる。……だが、今はホントに勘弁してくれ。でなきゃ、この少女を逃がすこともできない」

 DORAGONは九鴉を見て言う。

「アンタを信用しろと?」九鴉は訝しげに聞いた。「ここに来たのだって、牙のためじゃないのか」

「違う」即座に否定した。「ここに来たのは、あの空に釣られてだ」

 その言葉に、九鴉は沈黙した。

「………」納得したわけじゃない。だが、その言葉を否定できるワケでもない。

 何故なら、彼も同じ理由で来たからだ。

「「………」」

 どうやら、他の二人も同じ理由だそうだ。

「それぞれ族も思想も違うが、これだけは一致してるな」

 DORAGONのつぶやきに、否定の声は聞こえない――

「オラはちげぇ! お前等などと馴れ合わないド!」何しに来たんだよ……と、一同はため息をついた。「オラはオラで勝手にやる! 勝手に生き延びろ!」

「そうさせてもらう」DORAGONは呆れながら返した。


(こいつら――今落ちてるんだってのに!)ちなみにダイチはというと、落下の恐怖で死にそうだ。


「………」ツバサは助けてもらったのに、困惑していた。

 何なの、この人達。

 さっきまで殺し合う気マンマンだったのに、急に戦いを止めて協調し出した。

 いくら地下都市が殺伐としてるとはいえ、変化の適応がありすぎる。


 だが、現実はツバサの心境などどうでもいい。

 処刑台が崩れる。


 036


「……へっ、楽しそうにしてんじゃねぇーかよ」


 処刑台から遠く離れた場所で、五狼は一連のを眺めていた。

 白亜の建物になじめない黒ずくめの格好。黒のダウンジャケットに、Vの文字が描かれた黒いTシャツを着ている。下は迷彩のカーゴパンツ。

「九鴉も、やりたいことをやってる。じゃあ、オレ様も――だろ?」

 彼は口角をつり上げた。


 037


 五人は、それぞれバラバラに散った。


 Doooooooooooooooooooooooooooooo――


 サイレンは警戒C。

 下等団員だけじゃなく、上等団員などエリートも大量に投下される戦いの合図。


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