Ep.33 衝撃〜Shock〜
「あれ、なんかもう始まってない?」
「あー、ホントっすね。まだ本題には入ってないみたいっすけど」
カメラマンや記者などでごった返す人混みの影からステージの方を見ようと、「緩い服装で声の大きい少年」と「同じく声が大きくテンションの高い少女」の場違いな二人が顔を覗かせる。
ちなみに言っておくと、「二人」はカイとノエルである。
「めっちゃ見づらくないっすか? 前の方行きます?」
「確かに見づらいねぇ……よし、ちょっと肩車して」
「……さすがに年上を肩車は無理っす」
潰れて死んじゃうっすよ、と本気で断りを入れるカイ。
とはいえ、肩車したくらいで本当に圧死したりはしないだろうが。
「ま、良いか。ちょっと離れてで構わないかい?」
「自分、若干近視気味なんすけど……まあ、見えなくはないんで大丈夫っす」
少し人混みから離れ、背伸びしながら眼を細める二人。
そこそこ遠いとはいえ、思ったよりは見える。司会が眼鏡をかけているのも分かる程だ。
「あの箱、何なんすかね? 手持ち武器にしちゃ大きいっすよね」
「設置型ミサイル発射機とかじゃないかねぇ。まあ、そんなのが通じるとは思えないけど」
サテライトにミサイル型の兵器は通じない。せいぜいロケットランチャーで近距離から撃てば当たるが、設置型はだいたい全弾撃ち落とされた挙句に発射機本体ごと吹き飛ばされて終わりだ。
そもそもの事を言えば、対サテライト戦で手持ち武器以外を使う機会などほぼない。
「やっぱさすがにミサイルはもうないっすよ。多分、搭乗型兵器じゃないっすか?」
「あ、そっか。その可能性もあるねぇ」
なるほどなるほど、とノエルが相槌をうつ。
――搭乗型兵器。それは機械化歩兵部隊の主兵装であり、男性がサテライトと戦う上で必須の装備だ。誰にでも分かるように言うとするならば、「パワードスーツ」とでも言えば良いのだろう。
文字通り、
もっとも、現状で完成系とされている訳ではないとはいえ、今以上の性能を求める必要はない。最低限の攻撃を防ぐことさえ出来れば構わない物、いわば「鎧」として使えれば何でも良いのだ。
「まあ、あのスーツなんてこれ以上強化してもどうしようもない気がするけど」
「いやいや、あれ意外と動きにくいっすから――っと、なんかやり始めたっすね」
カイに言われ、ノエルがステージの方を見る。
先ほどからステージ上に設置されていた巨大な箱のような物体は、いつの間にやらクレーンで持ち上げられ始めていた。
そして、その内部から――
* * * * *
箱が次第に地面から離れてその内部を見せ始めると、ステージ近くの人混みで歓声が上がった。
「あの形……まさか『ヘカトンケイル』か!?」
現れた「それ」を目にしたアルバートが、愕然とした顔で呟く。
ステージ上では、何やら重役が近くのマスコミに説明をしているようだ。
「ヘカトン…何?」
「『ヘカトンケイル』。自律機動型の対近接用戦闘車、簡単に言えば戦闘用ドロイドだ。元々、対人戦において自軍の人的被害を少なくするためのモンだったんだが……まさか、対サテライト兵器以外の計画がまだ動いてやがったとはな」
真顔で尋ねるウィルに対し、アルバートがドロイドと呼称したそれを指差しながら言う。
キャタピラーに支えられた胴体部分、そしてそこから伸びる何本ものアーム――その姿はまるで、工事用重機のようにも見える。
「でも、サテライトに対しての兵器さえ足りてない状況でそんなこと……っていうかそもそも、今回は対サテライト兵器の発表予定だったんじゃ?」
「……名目上は、な。一応どんな兵器だって名目さえ変えれば自由さ」
アルバートがウィルの言葉につけ加えるように続けた。
「だが、普通に考えてもサテライト相手に自律起動制御や遠隔操作での迎撃なんざ通用しねえ。だったら、何故作った? ……答えは簡単、『この戦いが終わった後の主力兵器』ってことだ」
「終わった後? まだ全然そんな見込みがあるようには思えないけど」
「ああ、近々大規模な作戦行動があるのは知ってると思うが……上の奴らはそこでこの戦いに方をつける気かもしれねえ」
ギリ、と歯を食い縛ってステージの方を見つめ続けるアルバート。
――悔しいのではない。ただ、残念なだけなのだ。人がまだ、人同士で戦うつもりでいることが。
「……もういい、用は済んだ」
「えっ、まだ壇上で喋ってるよ。 聞かないの?」
「一度公表したからには、もう隠すことも出来ねえ。なら、情報は後で手に入るハズだ」
くるり、と踵を返してその場から離れて行くアルバート。
ウィルと雪も、慌ててその後に続いて会場を後にしたのだった。
* * * * *
それから少し後、「用事がある」と言って別の場所へ行ってしまったアルバートと別れた雪たちは、アーリー達と合流し、宿泊のために軍の施設へ向かっていた。
――アーリーの運転する小型移動用車両ではなく、軍が用意した運転手付きの中型人員輸送車で。
「……そうか、あのアルバートがそんな事を」
「はい、本当かは分かりませんけど」
「いや、おそらく真実だ。ああ見えて責任ある立場の人間だからな。それにウィルも一緒だったのなら尚更だ。元身内にまで、嘘をつくような人間じゃないさ」
微妙な表情を浮かべながらアーリーが溜息をつく。
認めたくはないが、事実なのだ。とはいえ、捻くれ者であるのも確かだが。
「しかし、あの『ヘカトンケイル』か……聞いたことはあるが、かなり昔だ。どうしてそれが今?」
「さあ、私にはさっぱり」
雪が「お手上げです」というかのように両手を挙げ、頭を横に振る。
「あ、そういえばノエルさんに聞いたらどうです? 意外と何か知ってたりするかもしれませんよ」
「いや、何も知らんだろうな。何か知っているとしたらすぐにでも話に入ってくるはずだ」
「……確かに、それもそうですね。さっき話したときも、何も言ってきませんでしたし。『有名人探ししてたけど一人も見つからなかった』とは言ってきましたけどね」
そう言うと雪は、少し前から窓にもたれて寝入っているノエルの方に目を向けた。
――知らないことの話には入らないのに自分の知っていることはやたらと言いたがる。それがノエルの習性であり、特徴の一つでもある。今まで何度も話して分かったことだ。
「――これ以上知らない事について話し合っても無駄だろう。宿泊施設までくらい、少しは休め」
「はい、お言葉に甘えて……少し外でも見てます」
「ああ、そうするといい」
アーリーが微笑を浮かべるのを確認した雪は窓の外に目を向け、遠くの方を見つめた。
――いつもの出撃とは違う平穏な風景に、微妙な違和感を感じて。
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