Ep.15 夜戦、直前〜Before the Night Battle〜
アーリーたちが部屋に入ると、そこでは既にウィルとディーナが出撃準備を始めていた。
「状況は!?」
「
雪たちは驚愕した。イリスが先ほど言っていた事が的中したのだ。
「何に驚いてるの? 別に一体で出てきてもらったほうが楽じゃない?」
「いや、すまない。別のことでちょっとな……」
アーリーは、ウィル達にはイリスの事は黙っていることにした。単に偶然かもしれない。それに、今伝えたところで、サテライトが近づいてきている今の状況が変わるわけではない。
「ふうん、ならいいけど。で、今日は時間帯的に夜間戦闘みたいだけど、大丈夫?」
「夜戦か……
アーリーが独り言のように呟く。
夜間戦闘では、ただでさえ影のように黒いサテライトはほぼ視認できなくなる。それに、味方同士も位置が分かりにくくなるので、一人は補助照明を装備することが義務付けられている。ただ、レーダーや暗視スコープなど、一部の特殊兵装を持った部隊はその例からは外れるのだが。
「僕がやろうか? どうせ夜じゃ、近接戦闘はする機会少ないし」
「確かにそれもそうだな。流石にユキ達にやらせるわけにもいかないからな。よろしく頼んだ」
「大丈夫、僕に任せておいてよ」
ウィルは笑顔で親指をビッと立てた。この調子なら、任せておいて問題なさそうだ。
「ユキ、ノエル、お前たちは夜間戦闘経験はあるか?」
「いえ、ありませんね。というかここに来た時まで戦闘経験は無かったので」
「同じく無しー。私、夜は出撃してなかったからねぇ」
やはりか。アーリーは自分の想定が当たっていたことを確認し、二人の方に向き直った。
「普通に戦っていれば問題は無いが、一つだけ言っておかないといけないことがある」
「一つだけ?」
「ああ。『とにかく動け、止まったら死ぬ』……とでも言えばいいのだろうか」
サテライトは、夜間でもこちらの位置を普通に認識している。赤外線かサーモグラフィーかレーダーか、単に目がいいのかはまだ判明していない。だが、その事実は今までの夜間迎撃成功率からもわかっていることだ。夜間は、昼間と比べて極端に迎撃成功率が低下するのだ。
「止まったら死ぬ……すごい言葉ですね。私は割と普段から動いて戦いますけど、ノエルさん危ないんじゃないですか?」
「確かにあのロケットランチャー、動きながらじゃ当たりにくいからねぇ。まあ他の武装開発も考えておくかな」
ノエルがうーん、と唸って腕を組んだ。彼女の作る武器はいつもイロモノばかりなので、少しは普通に使いやすい物を作って欲しいものであるが、そんな気はノエル自身には毛頭ないようである。
「今日はとりあえず、近づかなければそう危険はないだろう。ノエルは私と中距離から補助射撃だ」
「えー、わかったけど、トドメは私だからね。勲章貰えるまであと数体なんだから」
ノエルがロケットランチャーに刻まれた討伐数を見せつけてくる。四十、いや四十五はあるだろうか。おそらく転属前の分も合わせてあるのだろう。確か、五十体討伐で勲章が貰えたはずだ。
「勲章なんかにこだわっていると、いつか寝首をかかれるぞ」
「私の寝首をかけるほど強い敵が来れば、だけどね」
なんという自信家だ。その自信はどこから来るのだろう。
アーリーは「その自信があれば充分かもしれんな」と呟くと、話をしようと雪の方に向き直った。
「そうだ、ユキ、イリスはどうする気だ? まさか連れて行くわけにもいかんだろう」
「それなら大丈夫ですよ。昨日、ハンナさんに偶然会ったので、イリスちゃんを出撃中面倒見て欲しいと言っておきましたから」
実は雪は昨日、イリスを部屋に運んでいく際、偶然にも、地下まで降りてきていたハンナに会っていた。確か、アーリーに連絡事項があったので、部屋に帰る途中だと言っていた。
「ふむ、いささか安心出来んが仕方ない。ところで、イリスは今どこだ?」
「あっちの壁にもたれてずっと真っ暗な画面見つめてますよ。あの子、放っておいても悪さはしなさそうですけどね」
「まあな。だが、先程の予言まがいの言葉のこともある。少しくらいは警戒しておく必要があるだろう」
それに、彼女は旧市街で暮らしていた。短い間だったとしても、特異な文化観を持っている可能性は否定できない。
「アーリー、こっちは準備できたよ。行こうか」
右手にクロウスライサー、左腕に小型探照灯を装備したウィルがアーリーの肩を叩いた。いつもより重い上に動きは制限されるが、こうしなければ敵が見えないので仕方がない。
「よし、それでは全員、輸送車に乗り込め。これより、我々第2分隊は、旧市街での夜戦へ向かう!」
アーリーは、くるりと全員の方へ向き直ると、大きな声で、そう言い放った。
* * * * *
五人がいなくなった部屋の中で、イリスはじっと暗いままの画面を見つめていた。
「あら、意外と静かなのね、イリスちゃん。はじめまして、ハンナ・ベルンシュタインよ。よろしくね」
イリスが声のした方を振り向く。そこには、華奢な体をした、優しそうな女性が立っていた。
「誰……?」
「そうね、昨日はあなた、寝ていたものね。でも大丈夫よ、安心して。私は、ユキさんに頼まれたの」
「ユキが……?」
こくり、とイリスが頷いた。とりあえず、今のところは納得したようだ。
「ところで、イリスちゃん? あなた、ユキさんを手伝いたいと思わない?」
「……どういうこと?」
「そうねぇ、あなたに、良いものをあげましょうか」
ハンナはそう言うと、腰のウエストポーチから、何かを取り出した。
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