22日目-ジョンリュン・移動中-
海運国家として名高いエスピリッツといえども少なからず森や山は存在する。
そんな数少ない山々に囲まれているベール卿の飛ばされた領地である目的地のジョンリュンは山道を通らないと絶対に着けない場所にあった。
「いやー、こんなところの護衛なんてつかないと思ってたからありがたいよー」
視界が悪く柵もない山道にも関わらず人の良さそうな農夫がトラックの窓から顔を出して荷台に乗る1人と2匹に声をかける。あまりの気軽さに新本は慌てたが当の農夫はこの道を通るのに慣れているからのか平然としていた。
「嬢ちゃん達は大丈夫か? さっきから何も喋ってないようだが」
「だ、大丈夫です」
大きな揺れに荷台にしがみついた新本が答えると農夫は車内に戻っていった。
事故の可能性が少しだけ減ったところで新本は前に座っている2匹を見た。
スライムは新本の視線に気づくと自然から目を外して首を傾げた。
白竜がパーティに入ってからというもの、スライムは人型の姿をとる時間の方が多くなっていた。自分の頭に乗ることが減り首を痛めることが少なくなった点では良いことなのだが、妙な寂しさを感じることとなっていた。
新本は曖昧に笑いながら手を振ってから白竜単体に視線を移した。
白竜は自身に風魔法をまとわせることで重量を無効化させていることをスライムから教えられた新本にはある懸念があった。
それは眠気と「MP」の枯渇だった。
自分と違って竜である彼女のMP保有量は大量であろう。しかし彼女が本来の姿に戻って寝ている姿も寝れる場所も新本は見てなかった。
彼女が新本達が寝てからこっそり部屋を出て人目につかない広い場所で寝ているのならば問題はないのだが新本よりも先に起きてきている現状を考えるとその可能性は薄い。寝ていたとしても新本よりも短い時間しか寝ていないこととなる。
それだけに新本としては彼女の体調、及び彼女が倒れた時に確実に出る周囲への影響が気がかりだった。
だが現在の彼女との微妙な関係性では安易に聞けるものではなかった。
ベール卿の息子の捜索に関して新本が乗り気だったのに対し、白竜は懐疑的だったのだ。
18になったとはいえ大貴族の息子が民間で働ける可能性は低く、僅かな身銭だけで長い時間過ごすことは難しいだろうというのがその根拠だった。
さらに言えばセカンドプランとして新本が暗殺依頼を受けたことも白竜の反感を買う要因となってしまった。
新本としては山中で彼が最悪の結果に陥っていた時に備えて受けたつもりだったのだが、それが白竜に「彼が生きてても死んでても構わない」と写ってしまったのかもしれないがそれに気づいた時にはすでに遅かった。
それから3日間、1人と1匹は移動中心の生活にもかかわらずほとんど会話らしい会話が出来ていなかった。
つまらなさそうに無表情でじっと何もない山肌を見つめる姿に新本は不意に白竜の脇をくすぐった。
「な、何すんじゃ貴様!」
白竜の拳骨が新本の頭にキレイに落ちる。その衝撃で新本の頭が荷台に叩きつけられ、車の上体が一種だけ浮いた。
「お、おい! どうしただ⁉︎」
新本が先ほど慌てたからか、農夫が律儀に車を停めて運転席から泡を食ったように出て来た。
「な、何でも、ない、大丈夫、戻って、いい」
スライムは手と頭を振って誤魔化そうとしたが荷台に頭をめり込ませている新本の姿がある時点で「何もなかった」わけがなく、農夫は気を失った新本が復活するまで車をその場に止める判断を下した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます