第30話

マッグーロ漁船プリンセス・アリシア号

「今日も大漁、大漁」

「おい、新入り。ちゃんと掃除しておけよ」

こんがりと日に焼けた筋肉質の男たちが船内へと戻っていく。


「……」

デッキブラシを片手に、セルディックが掃除をしていると

「いやー、新人はどこでも大変ですね」

他人事のように、ネロが語る。

「いちいち、うるせぇ……お前、魔法使いの塔に戻るとか言ってなかったか?」

「そのつもりでしたが、アリシア姫がセルディックさんがちゃんと仕事をしているか心配だと言うもので」

監視みたいなものです、と続ける。

ちなみにアリシアの方は、他国への視察に行って不在。

「あ、ネロさん。写真一枚いいですか?」

「マッグーロ片手にお願いします」

私が釣りました、と写真入り一番で販売される。

特にイケメンは奥様に大人気。

「お前、マッグーロ釣ってないだろ」

「仕方ありません。船長の頼みでもあります」

「詐欺だろ……」

セルディックが眉を寄せる。

「売り上げがアップすれば、勇者さんの借金返済も楽に進むでしょう」

「別に、この仕事に不満はねぇよ。周りに食料たくさんある」

セルディックは影に視線を向け

(悪魔にとったら、魔界の方が居心地いいだろうし)

「フォオオオン」

黒い鳥が、何かを落としていった。

ネロが空を見上げ

「やっと、到着したようです」

「にゃー」

黒い何かは、一回転して華麗に着地。

セルディックは目を大きく見開いて

「ベルゼブル!? お前、魔界に帰ったんじゃ……」

「にゃー」

ネロは頷くと

「八頭身の自分もイケてるけど、やっぱり子孫のこともう少し見てたい……そう言っています。マモン様が、気を回してくれたようですね」


セルディックはベルゼブルを抱き上げ

「じゃあ、もう少し付き合ってくれ」

「にゃー」

同意するように、ベルゼブルが鳴いた。


「あ、ちなみに契約料は別料金です」

ネロの言葉に

「別に契約はしなくていいだろ。オレは、マッグーロ漁船の見習い船員」

「……もし、仮にですよ」

「なんだよ急に?」

「仮の話として、魔王ディアボロスが復活したら……セルディックさんは、再び勇者として立ち上がりますか?」


改めてネロに聞かれたセルディックは肩を竦める。

「その時は、人間全員が勇者だよ。全員が勇者なら、オレが辞めても問題ないだろ」

「……うまく逃げたものですね」

ネロが苦笑すると

「これが、正しくない勇者のやめ方だよ」


「おい、新入り手が止まってるぞ」


「へーい、急いでやります」


ーーfin

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