43 「聖地巡礼? ああ、確か舞台になった場所を探訪することだっけ?」

『お、よく気づいたな』


 幸一は休憩室で電話をしていた相手は、お決まりの伊東志郎。


「やっぱり、なにか知っているんだな。一体、どういうことなんだ?」


『まぁ簡単に話すとな……。あの宇宙姉妹というアニメは、ウチが製作に関与しているんだけど、ウチの監督が遊び半分……というかツイートを見ているのなら知っていると思うけど、あの通り、インスピレーションを受けて、ああいった作品を創ったんだよ』


「それじゃ、野原さんがキャラクターを盗用した訳じゃないんだな」


『それは勿論。そうそう、放送中に野原から連絡があって、本当に驚いていたよ。事情は、その時に説明したけど。解って貰えたよ』


「そ……そうか。でも、なんて言うか、こういうのって良いのか?」


『良いか悪いかと言えば、ちょっと悪いわな。こういうのをパロディとか言うけど、まあパクリと言えばパクリだしな』


「問題にはならないのか?」


『そりゃ、美湯の著作権を管理している、オマエところの伊河市が訴えない限りは、大きな問題にはならないと思うよ。訴えないよな?』


「あ、なるほど……。訴えはしないけど……。野原さんの方は文句とかは無かったのか?」


『ああ。もう、とても喜びまくりだったわ。まあ、しがないイラストレーターのキャラクターを似せてくれたとはいえ、アニメに出して貰ったからな。一歩間違えれば、野原からも訴えられるかも知れないが、その辺りは俺が原始さん……あ、宇宙姉妹の監督さんだけど、その人に大丈夫だと話しておいたから、今回みたいなことをやっちゃったんだよ』


 志郎から今回の裏事情を知ることが出来て、幸一はひとまず落ち着くことが出来た。


『で、どうだ?』


「なにがだ?」


『今回の一件は、伊河市的に良い宣伝になったんじゃないのか?』


「良いも悪いも……。確かに、それ関係の問い合わせが数件あったけど……」


『そうか……。多分、もっと問い合わせが来るようになるじゃないのかな』


「なんでだ?」


『今回のパクリ騒動で、以前の美湯が発表された時よりも、色んな所に取り上げられているからな。それに幸か不幸か、謎の公開停止で、より話題になっているしな』


 公開停止になったことで、話題になる。変な気分だった。


「でも、伊東。ただ単に盛り上がっても……」


『悪い宣伝というのは、箸にも棒にも引っかからずに誰も知られないことだ。それに、原始さんは明確には言ってないけど、今回の話の舞台モデルは、伊河市だからな。そっち方面でも注目を浴びると思うぜ』


「伊河市が舞台?」


『ああ、よく映画とかテレビドのラマで撮影の舞台にしたりするだろう。それがアニメでも有ったりするんだよ』


「へー、そうなんだ。でも、ドラマとか映画と比べて、そんなに影響は無いだろう?」


『なに言ってるんだが。意外とバカには出来ないもんだぜ。さっそく、聖地巡礼している輩が写真をアップしてたな。結構な人が食いついているぜ』


「聖地巡礼? ああ、確か舞台になった場所を探訪することだっけ?」


『おっ、知っていたか』


「ああ。美湯の企画を考えていた時にな」


『なるほどね。まぁ、そんな訳でアニメのお陰で、良くも悪くも盛り上がっているんだ。高野、これはチャンスだぞ。この盛り上がりを上手く活用して、美湯を復活させろよ』


 志郎が言いたいことは解った。美湯への注目が集まっている。これは伊河市への注目にも繋がっている。そしてこれで美湯の公開を望む声が多くなれば、再公開の流れが見えてくる。


「ああ、解った……」


『頼むぞ。そして、期待しているからな。美湯と伊河市とアニメ業界の明るい未来はオマエの双肩にかかっているからな!』


「そ、それは……。だけど、一生懸命やってやるよ」


 志郎との会話が終わり、携帯電話を仕舞った。そして幸一は、駆け足で観光課に戻っていく。

 志郎のお陰では無いが、アニメという強い追い風を感じながら、何かしらの希望も感じていた。

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