25 「格安でって……大丈夫なんですか?」
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「デフォルメのキャラと擬人化のキャラクターを、どっちとも採用するんですか!」
驚きの声を上げたのは薫だった。
伊河市に戻った幸一は進捗会で、先日の東京での打ち合わせの際に発覚した問題の他に、デフォルメのキャラクターと擬人化のキャラクターの両方を採用したいと発案したのであった。
「ああ。野原さんとかと話しあって、どちらのキャラクターにメリットもあれば、デメリットもある。だったら、二つとも採用した方が、その問題は極力解決できると思ってね」
「な、なるほど……」
相槌を打つ平岡。ちなみに事前意見を訊いた時は、平岡は擬人化キャラクター。薫はデフォルトキャラクターを推薦していた。
二人にとって、どちらとも自分の希望が叶うので、特に不満は無かった。
「でも、両方描いて貰うということは、その分デザイン料がかかっちゃうじゃないですか?」
「そうだと思うけど、打開案として考えているのは、とりあえずイラストを十点描いて貰うことになっているじゃない。それを五点ずつに描いて貰おうかと思っているよ」
「五点ずつ…? ああ、両方のキャラクターを五点ずつ描いて貰うということですか。でも、それだと……」
薫が言おうとすることは解った。
「うん。使用出来る素材が少なくなってしまうけど、バラエティーの方を優先してみようかと。幅広い層……デフォルメのキャラクターが好きな人も擬人化の……いわゆる萌えキャラクターが好きな人も気に入って貰う率を高めようと思ってね」
一つのキャラクターに頼るのではなく、他のキャラクターの方にも力を注ぐ。
簡単に言えば、魔女っ子にマスコットキャラクターのセットと同じだ。キャラクター商売では、よくある手法の一つではある。
その手法を幸一が知っていたかというと、正確に言えば知らなかった。ただ―――
『私としては、どちらも演じてみたいです』
伊吹まどかの言葉で決めてしまったのは、もちろん薫たちには内緒である。
「確かに、高野先輩のアイディアは良いと思います。私は賛成です」
「う、うん。僕も賛成、かな」
薫と平岡の同意を貰った。これで、一つのハードルをクリアした。
「それじゃ、後はこれを野原さんに伝えて、交渉しないとな」
そして次の問題が持ち上がる。
「そういえば、声の収録……レコーディングスタジオの件はどうするんですか? これの利用料とか全く考慮していませんでしたけど……。今から捻出するのも厳しいですし……。そうだ、だったら、ウチラで録音します? 確か、備品でボイスレコーダーが有りましたよね。それを使えば安く……」
薫が思いついた案は、瞬時に平岡が噛み付く。
「何言ってるの。ちゃんとした設備のある所で声を収録しないと、声がこもったりして聞くに堪えないよ」
しかも、いつもよりハッキリとした口調で。
相変わらず自分の興味を持つ事に関わると、少し流暢になるのだと、薫と幸一は改めて平岡を素性を理解した。
幸一は、このことに関しても事前に志郎に相談していた。
「まぁ……。知り合い(志郎)からも似たような事を言っていたよ。プロの声優を使うのなら、プロの機材を使わないと、その良さを充分に発揮出来ないし、失礼だと」
「でも、予算の方が……。何とか、やり繰りくりしないといけないのかな……」
「いや、一応、予備予算の方で賄えるよ」
万が一に備えて予備の予算は確保している。だが、それほど大した金額では無い。
「え、本当ですか?」
「知人(志郎)が、非常に格安で利用出来るレコーディングスタジオを紹介してくれるって連絡が有ったんだ」
「格安でって……大丈夫なんですか?」
「大船に乗ったつもりでいてくれ、て言われたけどね。ただ、収録する場所は東京になるけど、そのぐらいの交通費だったら普通に借りた場合のスタジオ代と比べて、全然割安だけどね」
「そうなんですか、それは何よりで。高野先輩、良い知人をお持ちですね」
「……本当、頼りっぱなしだよ」
この時、幸一は志郎に対する信頼は非常に厚くなっていた。つい今年まで、志郎とは疎遠したというのに関わらず。これも美幸(妹)の声にそっくりの伊吹まどかと知り合えたお陰だと実感していた。
「キャラクターは、デフォルトキャラクターと擬人化の二体で……。あ、高野先輩。そういえば、このキャラクターの名前って、どうしますか?」
「あっ……。そうか、そういうものが必要だよな」
「ですよね。どうします? こっちで適当に付けちゃいます?」
「う~ん、そうだな……。でも、こういう場合って、よくあるのは公募だよな」
「そうですね。こういった、ご当地もののマスコットキャラクターのネーミングは、公募で決めるとかが多いですよね……」
「よしっ、公募しちゃうか。市報やサイトに応募の枠を作って貰えるようにお願いしようか」
こうして幸一たちは、現時点での問題点や未決定部分を洗い出しては、穴を埋めていった。その他にも、収録に必要な台詞をいつまで用意するか、誰が作成するか。少しずつ確実に着実に物事を進行していくのであった。
そして、擬人化キャラクターやデフォルメキャラクターと言うのに煩わしさを感じて、擬人化キャラクターは“萌えキャラ”。デフォルメキャラクターは“ゆるキャラ”と言うようにしたのであった。
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