13 『ご当地柄たっぷりのキャラクターを押し付けてもな、外から見ればなんかイマイチなんだよな』

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 幸一はトイレには行かずに、その近くにある職員用休憩室に足を運んでいた。携帯電話を取り出しながら、設置されているソファ―に腰をかけて、ある人物へと電話をかけた。


「あ、伊東。今、大丈夫か?」


『ああ。暇じゃないけど、大丈夫だぜ。どうしたんだ?』


 幸一のアドバイザーのようなことになってしまった伊東志郎に、今回の事情――版権の使用許可がダメだったことを話した。


『そうか……。やっぱり駄目だったか。当然と言えば、当然か。そう簡単には……。やっぱり権利関係は難しいな。昔よりは良くなっているとは言うけどな……』


「それで、どうしたら良いと思う?」


『となると、前言っていたご当地オリジナルキャラクターで行くしかないだろう』


「ご当地オリジナルキャラクターか……。

 それって、上手くいくのか? 後々で調べてみたら、そういったオリジナルキャラクターとかで町興しをやっているとかで、成功している……というか、盛り上がっている所は少ないよな」


『お、流石はそこら辺は調べているか。まぁな。

 だけど、盛り上がらないには、それなりの訳がある訳よ。

 ご当地もののキャラクターは、なんか的外れな感じは否めないからな。名も無いキャラデザで、ご当地柄たっぷりのキャラクターを押し付けてもな、外から見ればなんかイマイチなんだよな』


「だったら、どうするんだ?」


『だからこそ、有名な絵師に描いてもらんだよ』


「エシ?」


『キャラクターデザイナーとか、まぁキャラクターイラストなどの絵を描いている人の事を、絵師って云うんだよ。俺たちの業界では』


「そ、そうなのか? まぁ。で、その有名な絵師に描いて貰うのに、何が良いんだ?」


『例えばだ。ドラえもんとかのキャラクターの版権やその版権管理をしているのは、大抵は出版社だ。

 今回は、この出版社で拒否られているんだろう。でだ。そもそも、ドラえもんの作者は誰だか知っているだろう?』


「ああ、そのぐらいは。藤子・F・不二雄先生だろう」


『おっ、流石は世界の藤子先生だ。幸一すら知られているとは』


「ドラえもんは知っていて当然だろう。昔は、よくアニメを観ていたし。で、その藤子先生にどう関係あるんだ?」


『例えばの話しだからな。ドラえもんのキャラクターが使えないのなら、ドラえもんを生み出した藤子先生に直接キャラクターデザインを依頼するんだよ。ドラえもんみたいなキャラを』


「それって……」


『意味は解るだろう。ドラえもんを描いた藤子先生が伊河市のキャラクターを描く。知名度がある漫画家さんだったら、それだけの知名度が返ってくるわけだ』


「なるほど。すると、出版社の許可は取らなくても、ドラゴンボールの漫画家に、直にドラゴンボールみたいなキャラクターを描いて貰えば良いのか」


『そういうこと。出版社に拒否られても、作者自体に交渉すれば、どうにかなるというケースはあるからな。ただ、出版社によっては、そこら辺も契約とかで全面禁止しているところもあるから一概には言えないが……』


「いや。何か光明が見えたような気がするよ」


『そうか。まぁ、ただ……。そういった有名な漫画家さんに頼むとするとなると、それなりのデザイン料がかかるわけだ』


「つまり、それは?」


『有名な分だけ、依頼価格に反映されるんだよ。例えばこんな話しがある。某有名な漫画家に、アニメのキャラクターデザインを依頼したらしいけど、その依頼料はキャラ一体で百万円という話だしな』


「ひゃ、百万円!」


 幸一が想定した以上の額だった為に、思わず声を出してしまった。


『そこそこ有名な漫画家で、有名なアニメだったから、その位の額になったみたいだけど。これは極端な例だが。

 まぁ言いたいことは、有名な絵師や漫画家のキャラデザイン料は高額になるかも知れないということだ』


「そ、そうか……。そういった有名な絵師でも安くて、どのくらいになるのかな?」


『まぁ、そこ辺はピンキリだからな。とりあえず、マンガとかの原作が使用出来ないのなら、自分らで漫画家や絵師に頼んで描いて貰うことだな』


「なるほど、そうだな……。そうか解った。その方向で行くことで進めてみるよ」


『そうか。だったら、俺がお勧めする絵師をいくつか見繕ってやるよ。それじゃ、また何かあったら、遠慮無く訊いてきてくれよ』


「ああ、助かるよ。それじゃ」


 通話を切ると、幸一はこれから何をするべきか方針が見えたことで足取りは少し軽くなり、もう一つの用を済ませるためにトイレに入って行ったのだった。

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