◆第九章
*思う処
ベリルはもちろん、彼らの思惑をよく理解していて彼女の言葉にはほとんど応えなかった。
今までも同じような事が何度かあったんだろうなとダグラスは薄笑いでスーザンを見つめる。
ベリルの先を見通すことは難しく、多様性に富んだ動きはとても真似が出来ない。その戦闘センスをデータ化したがる人間は大勢いるだろう。なにせ依頼成功率が異様に高い。
よしんばデータ化出来たとして、ベリルならさらにそのうえを行くのではないだろうか。ベリルは常に自分には厳しく、己の可能性というものを追求し続けている。
あの動きを更新するなんていうのは、不可能に近いんじゃないかなと考える。人の命がかかった物事には、瞬時の決断が多く存在する。
彼らが欲しいのは、いかに相手を素早く殺めるかであって、誰かを救うためのものじゃない。いや、仲間を救うためのものだと言うかもしれない。
果たして、データ化されたベリルは誰かを殺め、誰かを救えるのだろうか? データ化が成された事がないから結果はわからないけれど、ベリル本人と同じように何かを成せるとは思えない。
──ダグラスはそんな事を考えながら、ヘッドセットの調整を続けていた。
三十分後、
「はぁ~、やっと終った」
ダグラスは十個ずつに小分けにしたヘッドセットを隣のシートに置き、車から出て疲れたようにあくびをし体を伸ばした。
「お疲れさん」
先に作業を終えていたベリルが笑って炭酸飲料を差し出す。それを嬉しそうに受け取り、勢いよく喉に流し込んだ。
炭酸の弾ける刺激が喉に痛いほどだが、疲れが飛んでいくようだった。
「プハーッ! すっきりした」
ぐいと手の甲で口を拭う。ベリルはそれを見やり、再び車に乗り込んだ。最後に残したダグラスと自分の分のヘッドセットを調整するためだ。
ベリルのヘッドセットは他と少し異なり、総指揮を行うためボタンの数が多い。ボタンの組み合わせによっても色々とあるようで、ダグラスには全てを把握出来なかった。
今回のヘッドセットにも三つのボタンが付いている。
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