拳王機伝アルカシード

榮織タスク

メモリー

――臨時起動。


……やれやれ、気持ちよく眠っていたのに叩き起こされるなんてね。

……やあ相棒。君が二人目のボクの所有者だね。


――ノイズ発生。


……ああ、何がなんだか分からないという顔だね。無理もない。

……何て言えばいいだろうね。この度は本当に残念な事だ。気を落とさないでくれたまえよ。


――ノイズ発生。


……まるで誰か亡くなったみたいな言い方だった? それは申し訳ない。とは言えこれは本心なんだけどね。

……君は今、君が居た世界からボクの居る世界へと強制的にお招きを受けている最中だ。


――ノイズ発生。


……いちいち言い方が回りくどい? それは失礼。前の所有者からもよく言われていたんだけれど。

……ボクの居る世界の連中は、困った事に何か困難な事態に遭遇そうぐうするとすぐに別の世界に救いを求めるという救いようのない文化があってだね。


――ノイズ発生。


……文化、そう、文化としか言いようがないよねこれは。何しろボクが作り出されてから、ボクの知る限り君たちの呼び出しで三度目だ。

……ボクを作り出したマスターもその筈だから、知る限り四度目くらいになるかな、あはは。


――ノイズ発生。


……ボクが何者かって? ボクは人工知能さ。君のような生身の人間ではなく、僕を作ったマスターによってかりそめの感情を与えられた機構システムのひとつに過ぎない。

……君の意識に干渉出来ているのは、ボクの本体と君との波長が感応したから。つまり相性が良かったんだね。


――ノイズ発生。


……君が元の世界に帰る手段をボクは知らない。そもそも毎回同じ世界から呼び出されているのかも定かではないね。

……手段はないと思った方が良いだろう。過去三回の呼ばれた彼らは、一人の例外もなくこの世界で死を迎えた。

……こればかりは同じ世界に住む者として心より申し訳なく思うよ。


――ノイズ発生。ノイズ発生。


……君が不運であった事は確かだけど、その気持ちを分かるとは言わないよ。ボクは君のような体験を今までに一度としてした事がないからね。

……だが、君はボクと繋がりが出来た。山ほどの不運のなか、これだけは幸運だったと断言してもいいだろう。


――ノイズ発生。


……そうだね。だが事は起きてしまった。投げられた石が投げられなかった事には決してならないし、君達が呼び出されてしまった事については最早くつがえらない。

……ひどい言い方をしてしまえば、もう戻れないのだから割り切ってこちらの世界で生活すると受け入れてしまった方がそれなりに前向きなのではないかな。


――ノイズ発生。


……落ち着いたかい。

……ボクは君にこちらの世界で生きたいように生きる手段を与える事が出来る。

……最後にボクが眠りについてから、どうやら思った以上に永い時間が経っているようだ。ボクの名前も伝わっていないかもね。


――ノイズ発生。


……ボクは自分では動き出す事が出来ないんだ。君はボクの名前を呼んでくれればいい。それだけでボクは君を新しいマスターとして登録する事が出来る。

……ボクは人工知能のアル。ああそうそう、呼ぶ時はボクの本体の名前を呼んでくれ。


――ノイズ発生。


……ありがとう。君に会えるのを楽しみにしているよ。それまでボクはもう一度短い眠りにつくとしよう。






――アルカシード、起動認証コード確認。

――起動シークエンス開始。前マスターの生命反応なし。認証コード入力者の感応者適性を検査……合格。

――サポートプログラム『アル』、リブート。マスター変更要請。承認。

――認証コード入力者を新規マスターに登録。

――システムチェック開始。長期凍結により、外装劣化発生。長期凍結により、エネルギー残量危険域。長期凍結により、機構再構築遅延。

――サポートプログラム『アル』より要請。マスターの生命活動に重大なリスク発生の予兆。

――要請承認。セーフモードでの起動を開始。機能が通常起動時の三パーセントに低下。

――『拳王機けんおうき』アルカシード凍結解除。


……さあ行こう、マスター。君に襲いかかるであろうあらゆる理不尽に立ち向かう為に。

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