エピソード13「二四五恒星系」

収録後に軍用車で軍用飛行場へ向かった。輸送機では陸軍工兵隊と同じ機体に詰め込まれた。

「あれ、あんたはドーマエ大佐か?」

工兵の一人が気が付いて小声で話しかけてきた。

「そうだよ。あんたらは挺身工兵隊か。」

「ああ。潜宙艦で輸送されて飛行場作るんだ。」

彼は笑った。ドーマエも笑い返した。

「ご苦労様です。完成次第主力艦隊も送り込みますので。」

ドーマエがいたわると彼は

「いや、まあ飯がちゃんと届けば問題ねえよ。」

といって笑った。ドーマエはその声を聞いて仮眠を取るともう輸送機はキンコー要塞上空に来ていた。その時兵士の一人が窓を指さした。

「お、おい、あれみろ!あれが俺達を運ぶ潜宙艦か?」

青緑の第二空間から五隻の中型潜宙艦が浮上してきた。第一次輸送隊では建築用機械兵三十体を中型潜宙艦で輸送した。続いては大型潜宙艦十隻に工兵隊が分乗、中型潜宙艦八隻に分解した重機を四機と護衛兼食料輸送の中型潜宙艦四隻が向かう予定だ。潜宙艦は中型と大型に別れており、中型は主に通商破壊作戦や偵察、機雷施設、特殊部隊の小規模隠密輸送に使われ、大型は艦隊決戦の際に別働隊として投入されたり一定以上の規模の極秘輸送作戦や他の中型潜宙艦への補給物質の運搬も行った。大型はそこまで建造数が多く無いため今回の作戦のために各地から掻き集められた。型番号は中型はイ〇〇、大型はカイダイ〇〇、略してカ〇〇と呼ばれている。端末に送られた情報によるとオーツカのイ250は護衛を担当するらしい。その間通常艦艇は巡洋艦と駆逐艦は哨戒で、空母と戦艦は訓練の予定だ。

「機関始動!」

イ250のエンジンでオサダ電子反応が始まる。

「よし、発進!」

ドック内が減圧されて宇宙空間への自動扉が開かれた。

宇宙空間へと出たイ250は輸送用の潜宙艦を誘導していく。

「よし、第二空間に潜航せよ!」

次元が変わり青緑の空間に飲み込まれた。

「熱源ソナーオン!特別弾発射管全門に新型を装填、減圧して外扉開け。」敵に備えててきぱきと指示を出す。

「ソナー異常なし、味方艦を捉えています。」

熱源ソナー手が伝えてくる。第一、第二の両空間で熱は探知できるのだ。それで陰電子レーダーは浮上時のみに使用し、熱源ソナーを潜航時に使用する潜宙艦に対し通常艦艇はレーダーとソナーの両方を常に使っている。

「全門発射用意完了!」

宙雷室から指揮所に連絡が来る。新型宙雷は今までと違って熱探知誘導による誘導弾である。今までの宙雷でも試みられたことがあったが味方艦や誘導弾を追っかけてしまう可能性があるため無誘導になった。けれど新しく新型機械により温度差による目標識別が可能になった為皇国では改めて導入されている。

「よし、警戒厳にせよ。」

艦内にはここが戦場であるという一種の緊張感が漂っている。

「目標までは片道四日程の航海だからな。休息もとりつつ待機しておけ。」

敵が警戒している可能性を考えて大きく迂回する航路を選択した。

昼飯のカレーを掻っ込むとオーツカは副長に指揮を任せて睡眠をとった。七時間ねると起きて副長と交代した。

「異常はあるか?」

オーツカがソナー手に確認した。

「いいえ、ありません。」

という返事が返ってきたのを聞いて艦長席に座ると航海日誌をタイプした。

「はあ。こんなに単調な任務だとな。」

そう呟く程に敵との出会いがない。作戦全体を考えれば極力接敵したくないがただ護衛というのもつまらない話である。何事もなく3日間が過ぎて恒星系に入り込んだ。

「ソナー手、問題は無いか。」

「付近に敵艦無し。」

「浮上よーい!」

輸送艦隊の安全を図るために迷い込んだフリをする。

「浮上用意よし!」

「浮上!」

空間に割れ目ができて青いスマートな艦影が現れた。

「陰電子レーダーオン!警戒せよ。」

「レーダー反応なし!」

「ようし、このまま目標星に向かえ。」

安全を確保したのを確認したイ250に続いて二隻を除く全てが浮上した。二隻は対潜宙艦警戒をしている。

「目標星の大気圏内に入りました。」

大気圏といっても事前の調査で二酸化炭素が95%を占めるといった人が生活できる環境ではない。

「速度を限界まで落せ。」

音速なみの速度で目的地となる建設現場を目指す。するとすぐに見つかった。事前のコンピューターによる指示で一体のロボットが地表に出ているからだ。

「よし、機関停止、逆噴射を使いながらゆっくりと降りろ。手空総員防護服着用し、食料を陸揚げしろ。」

イ250は地表に降り立った。ハッチが開かれて防護服を着た兵士が食糧を下ろし始める。オーツカも防護服を着用して地表を見渡した。地表には一切の者が露出しておらず地下工事が進んでいる。防護服を着た工兵が降りるとカイダイ型は第二空間に溶け込み、代わりに警戒していた中型潜宙艦が食糧を下ろしに浮上してきた。そして手を振る工兵隊を後に帰路についた。

「ふう、任務はあらかた片付いたが気を抜くな。帰投するまでが任務だぞ。」

オーツカは艦内に訓示した。それから一時間程たった時に敵が来襲した。

「ソナーに感あり。通常艦艇四隻程です。二時方向で潜望鏡距離です。」

「熱量から敵艦種の特定は可能か。」

オーツカの問にソナー手は素早く応える。

「フレッチャー型駆逐艦が一隻と後は低温です。軍艦じゃないと思います。」

「そうか、潜望鏡上げ!ソナー手、熱源を記録しておけ。」

「はっ!」

ソナー手がコンピューターに手をのばした時にオーツカは潜望鏡を覗きこんだ。

「三隻は輸送艦だな。積荷は分からんが。どこに向かっているんだ。とりあえず追跡するぞ。」

潜望鏡から目を離すと再び指示を下す。

「通信アンテナのみを第一空間に出し、司令部に連絡せよ。「我輸送艦隊ヲ発見ス、コレヲ追跡シテ敵ノ意図ヲ探ル。」以上。」

司令部からすぐに許可する電文が届くと転舵した。やがて皇国が死の星と認定して国民を移住させた星に輸送艦が入っていった。どうやらなにか企みがあるようだ。

「なるほど、両軍共に考えることは同じか。」

おそらく秘密航空基地の建設である。

「司令部に敵航空基地を発見した旨を打電してから帰投するぞ!」

たった一隻でここまでの戦果を上げることは珍しかった。ここを抑えられればキンコーの喉元に基地を作られる事になる。それを防ぐ意味でもここを見つけ出すことは有効だった。帰投するため転舵しようとしたタイミングで伝令が駆け込んできた。

「司令部から入電、「敵輸送船団ヲ攻撃セヨ」以上です。」

オーツカは部下の持つ紙をひったくって電文を確認した。

「敵駆逐艦熱量記録を特別弾に入力、完了しだい特別弾全門発射!」

「特別弾発射します!」

やがて第一空間に飛び出た特別弾が敵に回避を許さずに仕留めた。

「浮上!砲雷戦よーい!」

敵輸送船団の後方に浮上した。

「一番から二十番の誘導弾発射管、敵輸送艦をロックして発射!最後尾の輸送艦に両用砲で砲撃せよ。その後潜航する。」

敵輸送艦が光の矢に貫かれた時に情報を入力された誘導弾が発射された。

「急速潜航!」

空間の歪みに飲み込まれた。

「ソナー手、撃沈は確認できたか。」

オーツカの問に満足な答えが返ってきた。

「はっ!敵機関の熱は探知できません。撃沈した思われます。」

「よろしい、司令部に撃沈報告を出しておけ。」

オーツカの声に被さって部下の報告が来た。

「熱源探知、高音ですが小さく速い、おそらく航空機ではないかと。」

「そうか、司令部に追加報告「敵航空基地ハ完成シテオリ、至急同地ヘノ攻撃ノ要アリト認ム」以上。」

電文が送信されると通信アンテナも第二空間へと消えた。

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