エピソード11「連合艦隊結成」

第二方面艦隊はカナダの本星であるオタワ星のある宇宙空間への進出のために大規模増強に当たっていた。政府がカナダを対日大同盟から離脱させようと試みたのだ。第十方面艦隊から艦隊を引き抜く、第一方面艦隊を編入、新たに建造された艦艇も含めた再編で大幅に規模が拡大されて名称も連合艦隊となった。ドーマエも大佐に昇進し、第五方面艦隊からまわされたナガト級宇宙戦艦二番艦のムツの艦長に任命された。ムツは四〇糎陽電子砲連装六基一二門を主砲とし副砲兼高射砲としてケースメイト式高射砲を片舷八門、単装砲塔を上下甲板に四基ずつ、二〇ミリ機関砲を四連装一四基を上部甲板、下部甲板に四連装六基の計八〇門からなる陽電子装備、六四連装垂直発射管を艦橋前後と艦尾上部甲板に一基、下部に一基の四基と艦橋左右に迎撃誘導弾発射管を装備、艦首には八門の特別弾発射器を装備した。連合艦隊はムツとキイ、カワチ、シキシマのキイ型戦艦三隻を組んで第一戦隊とした。ムツは第一戦隊の旗艦でありかつ連合艦隊の旗艦にもなった。

「カナダの宇宙空間に移動するためには自然大回廊を抑える必要があるが近くの星の大体はカナダが開発している。ただし幾つかの恒星系は抑えられてない。例えば二四五恒星系と名付けたこの超新星爆発を起こした後の死んだ恒星系だがここに航空基地を展開したい。陸軍にも協力を仰いでいるが当該地域の制空権がない状態での工事となる。ここに航空基地を施設するのは困難だがもし完了すればカナダが抑えている自然大回廊付近の制空権を脅かせる。」

イノウエがインチョン要塞の会議室で開かれた連合艦隊最初のミーティングで次回の作戦について説明する。

「まず潜宙艦による建設ロボットの輸送、続いて分解した重機の輸送も行う。それによって地下居住区を確保したら兵士も送り込む。まずは居住に必要な整備を行い、そこから飛行場の地下格納庫、最後に滑走路やカタパルトなどの表面に出る装備を整える。完成するまでは潜宙艦が輸送を行うが完成し次第護衛船団で輸送を行う。その間に通常艦艇は敵の目を二四五恒星系からそらすために陽動作戦を行う予定だ。新造艦艇の訓練も行いたいが現在は余裕がない。具体的な陽動作戦の中身だが巡洋艦と駆逐艦による輸送船団の襲撃や艦載機の夜間空襲を中心に組み立てる。一番近いところにある竹星雲に駐屯している警備隊が司令部として動く。クレ星だと前線から遠いのでここ、インチョン宇宙要塞改めてキンコー要塞を連合艦隊の基地とする。」

キンコー要塞は韓国時代に比べて対空装備の拡充、飛行場の拡大、ドックの増設と新式の整備機械の設置、船舶建造ドックの施設を行って充分に主要艦隊の基地として使える要塞であった。白兵戦対策として複数の制御室やダミーを設けたりして乗っ取りも防げる仕組みだ。

「残りの艦艇は訓練を積んで練度を高めておけ。」

「了解!」

全員が敬礼した。

「では解散。」

イノウエの一言を合図に各艦の艦長が会議室を後にした。ドーマエも退出しようとしたがイノウエに呼び止められた。

「ドーマエ、第一についてどう思う。」

イノウエの唐突な質問に戸惑った。

「はあ、第一はたしかに訓練学校卒業の時は成績が良かったかもしれませんが今では方面艦隊の中で練度は最悪でしょう。」

第一方面艦隊は初めての実戦かもしれない。

「ああ、だろうな。第一は訓練させておく。そこで本題に入るが、国民への軍の広報活動の一環として国営テレビの番組で小学校を訪問して欲しい。いまやドーマエの名は有名でそれを知らぬ国民はいないくらいの有名人だからな。」

ドーマエはきょとんとした。

「え?それいつですか?」

声が裏返ったドーマエに対しイノウエは事務的にその質問に答えた。

「皇国標準時で来週の月曜日だ。」

ドーマエは右手首の端末を見た。

「それって、明後日ですよね?」

イノウエは笑って頷いた。

「いやいやいや、ちょっと待ってください元帥、なにをするのかとか聞かされてないんですけど。」

早口になるドーマエ。イノウエは端末で時刻を確認するとドーマエに向き直った。

「おぉ、撮影班がすでに来ている時間だった。司令官室まで来てくれ。」

イノウエは普段通りといった感じである。なにか嫌な予感がしたが押しとどめてイノウエについていく。その不安は自動ドアが開いた時に的中した。

「おー、ユーキ。久しぶりだな。」

その声を聞いてやっぱりそうか、と内心思いつつも笑顔を向ける。

「あ、タカシ叔父さん。」

父の弟にあたるタカシ叔父さんは国営テレビのディレクターだった。多少過保護だがいい叔父さんだと思っている。しかしいくらなんでも軍人としての仕事に親族が関わるのに多少抵抗があった。

「イノウエ司令ですね。今回はドーマエ大佐をお借りして広報番組を作ります。ほぼ一日お借りしますが大丈夫ですか?」

早口でまくし立てる。大丈夫というのは旗艦であるムツの事だ。

「いえいえ、いざとなったら私が艦長もしますから平気です。」

イノウエが笑って答えた。

「わかりました。では、こちらが当日のスケジュールになります。」

当日朝三時に旅客機で移動、朝八時に現地の小学校に到着、九時から十二時まで小学校で講演と質問時間、十二時から昼飯と念のための連絡をとってから一時にヤスクニ神社へ、参拝して視聴者へのメッセージを述べて終わりとなるらしい。その後は軍用機でとんぼ返りである。キンコー要塞を極力離れないための方針であった。

「わかりました。」

ドーマエは一通り目を通すと持参したクリアファイルにしまい込んだ。

「何を話すかとか考えておいて下さい。」

イノウエに向かって告げると撮影班は部屋を出ていった。

「と、いうことだ。」

イノウエが向き直った。

「司令、なんでこのような戦時にそんなことを。」

「戦時だからだ。国民が厭戦気分にならないような広報が大事である。それによって募金が得られるかもしれない。その募金で一機の航空機、一隻の軍艦、一人の将兵の養成が可能になるかもしれん。これは任務だからな。」

ドーマエもこう言われては任務を受けざるを得なかった。

「了解です。」

そう言ってイノウエの部屋から出ていった。

小学校訪問、ドーマエは任務をうまくこなせるのか?

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