神殺しの息子

ありすの鏡

第1話 少年の旅路

 あたり一面には入れば確実に人間は生きて生還できることのない深い森が広がっていた、そこに一つの人影がある。


 その影はどこか変わった雰囲気を纏っているのが目に見えて分かる、そして体の隅から隅に顔があり、それはどこか憎しみや怒りに満ちており一つ一つが若干ながらも表情が違うまるで悪霊のようだ。


 これを「堕ち神」と人は呼ぶ、まず堕ち神とは何かという話だ。


 死んだ人間の魂の怨念の部分が塊となりそれが人の形に姿を変え人間や動物を見つけ次第ざんさつ惨殺に追いやるサイコキラー


 堕ち神のその姿を見た人間は精神的に参ってしまう人間は数多くいると聞く。


 その堕ち神が少しずつ表情を変えているのが見て分かる、それは満面の

笑みに満ちておりそれはどこか優越感のある笑みでもあった。


 そこに人間がいた、いたって武器も持たないひ弱そうな青年

 

 それは自身の狩りの対象を見つけた時の反応だった。自分よりも弱い弱者をいたぶることのできる喜びなのか、ただ単に生き物を殺めたいだけなのかは堕ち神しか知らないことだろう。


 神は獲物を捕らえるために先制攻撃を行おうとしている、狙うは足、両足の骨を砕き動けないところを少しずつ殺さないように痛めつけていくのだろう


 そう、これは神の遊びなのだ。


 この個体の堕ち神は何度も人を襲い、殺し、もてあそんだことだろう、同じ堕ち神同士でも争いあったが一度も負けたことのないこの個体はまさに自分自身が生物の頂点に立つ存在だと信じてやまなかった。


 そしてまた今日も楽しい狩りの時間が始まる、そう確信していた。


 しかし神の攻撃は易々と避けられてしまう。


 それに驚きと怒りを覚えた堕ち神は周りに殺気をまき散らす、同じ堕ち神に攻撃を避けられたり防がれたりしたことは何度もあったが人間に避けられたのはこれが初めてだった、堕ち神は屈辱的に思えたのだろうか弄ぶのをやめ人間を殺すことに集中しだした、フェイントを仕掛けるものの狙うは胸と頭、その二か所だけであった。


 それを人間は知っていたのか胸と頭に迫る攻撃だけを避けていた、神はそれにイラつきを覚え動きが荒々しくなっていく、身振りが大きくなっていくまるで素人の喧嘩のようだ、頭に殴りかかるために大きく振りかぶったその時だった


 堕ち神の胸に人間の腕が生えた、堕ち神も人間同様に頭と心臓を潰されれば死ぬ、神の性質を持ちながらも所詮は生き物に過ぎないのだ


 腕が抜かれた空っぽの胸を感じながらこの個体は自分の死を実感した、自分だけ死ぬのはまっぴらごめんだ、道ずれを狙う形で追撃にでたが憎い人間の前に不可視の壁が現れた、それにより堕ち神の攻撃は防がれることになり一矢報いる攻撃は未然に終わり、堕ち神は膝をつき顔を地面につけた


 背後からまた声が聞こえる、その声に明確な殺意を覚えながら背後の生き物に向かって一つの波動を飛ばす・・がその波動も虚しく絶対不可視の壁により防がれるのだったの腕だが堕ち神は理解できなかった。

「動きに無駄がありすぎだよ」

  その声が聞こえるとともに堕ち神は意識を薄れていく・・・自身が生物の頂点だった人生も終わることに恐怖しながら視界がぼやける


 そうして目を閉じる寸前に一匹の狼がこちらに近づいてきたのが分かる・・・しかし堕ち神の意識はそこで止まってしまうのだった。







==


「ふぅ・・・右手縛りはめんどくさいね、いちいち攻撃を避けなきゃいけないし頭と胸の攻撃だけが来るってわかってても疲れるよ・・・」

『一撃で留められる力がありながら遊びをすぐ始めるその癖、治したほうがいいのではないか?そのうち死んでしまうぞ』

「分かってるって、お前は母さんかよ・・・っともうこんなに日が落ちてるのか、サクラ、戻るぞ」

 レンと呼ばれた少年はサクラと呼んだ狼を連れ自宅に戻るのだった。









 森を抜けるとそこには草花が生い茂る草原があたりに広がっていた、そしてその草原にまるで最初からあるかのように同化していた家が一軒建っていた、家の周りは策で囲われており柵の中には作物やミツバチが求めてくるであろう花がたくさん咲いていた。


 そして扉の前には女性が誰かを待つかのように心配そうに柵の向こう側を見つめていた。


 時間が経つと二つの影が見えてくる、一つは犬のような姿をした影、そしてもう一つは人間の形をしており、肩には何かを背負っているようにも見えた。


 その影が女性は影がこちらに近づいているのが分かった途端安堵のため息を零す、そして少し怒りを覚えたほおが膨らむ。


「ただいま、母さん」


「遅いわよ、一体どこで・・・って聞かなくてもわかってるけどまた堕ち神を狩っていたんでしょうけど・・・ケガだけはしないでよ?」


「分かってるって・・・この匂いは豚の生姜焼き?やった!サクラ早く食べるぞ!」

『・・・はぁ、全くレンの奴は・・・母上、ただいま戻りました』


 そういいながらサスケは姿を変え・・・犬耳の生えた絶世の美少女に変体したのだった


「母上、早く私たちも席に座りましょう」


 サクラのしっぽは大きく揺れていたのだった


「全く、レンと言いサクラと言いこの兄弟は本当に似るわね・・・」


「何を言う母上、レンと私では性格も性別も違うではないか」


「・・・はぁ、さっ早く席に着きましょう、そのうちお父さんも帰ってくるから・・・ってもう席についてるのね」





 三人が夕食を食べていると扉が開く音が聞こえる、父親が帰ってきたのであろう


「ただいま、シエル」


「おかえりなさいあなた・・・って聞いてよ、レンったらね」


「分かってるよ、堕ち神を狩っていたら帰りが遅くなった・・・だろう?いつものことじゃないか、・・・レンもそろそろこの家を出て世界を知る時が来たんじゃないか?」


「あなたそれに本気で言ってるの?成りたての堕ち神を倒せるからって言って、それにまだこの子は15歳よ!まだ家で体を鍛え上げてからのほうがいいに決まっているわ!」


「しかしだなシエル、レンは俺たちと違って人間だし成長も早いし、そして死ぬのも早いんだ・・・いろんなところを見せてあげたほうがレンにとっても幸せなんじゃないかな?俺たちはこの土地、国からは離れられない。」


 レンはこの二人から生まれた子供ではない、あの深い森に捨てられていた元は捨て子だった、すぐに死んでもおかしくない状況の中でレンは運よくウェイトによって拾われたのだ


 そしてこの二人は神である、しかし堕ち神なんかではなく守り神としてこの国に居座っている、肉体に寿命はあれど魂に寿命がない二人にとっては人間の人生は一瞬の瞬きに過ぎないのかもしれない


「でも・・・」


「レンなら大丈夫、僕たちの子供だから・・・わかるだろ?10歳という若い年齢で間接的ながら堕ち神を倒したすごい子なんだぞ?大丈夫、やれるさ」


「そうね、ウェイトの言うとおりね!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神殺しの息子 ありすの鏡 @Lightmirorr-Wotagei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ