◆第三章

*頸兵-けいへい-

 ベリルはアレウスに運転を任せ、後部座席に移って武器の手入れを始めた。助手席のミレアは身を乗り出し、分解されて座席に並べられている部品を興味深げに見やる。

「銃とは、色んな部品で出来ているのですね」

 しかし思っていたよりも部品の数が少ないとも思った。もっと精密的なものかと想像していただけに、案外と簡単な造りに驚く。

「ずいぶんとまめだな」

「常に高い精度を維持しておく必要がある」

 軽い手入れを終えて組み立てた拳銃ハンドガンを腰の後ろに仕舞う。彼が愛用しているハンドガンはP226というものだ。

 威力があるものではないが、その使いやすさと丁寧に造られているもののため、信頼性が高い。

 次に、左脇から別のハンドガンを取り出して再び手入れを始めた。

「それは先ほどの銃とは違うのですね」

 分解されていくハンドガンにミレアが小首をかしげた。さっきの銃よりも部品の数が少ないように思える。

 真ん中には、レンコンのような形をした塊がある。穴がいくつか空いていて、そこに弾薬を詰め込むのだと理解した。

「リボルバーだよ」

 さすがに移動中の車内では綿密な手入れが出来ないため、簡単な分解をして汚れを拭き取りまた丁寧に組み立てる。

 本格的な整備をするには、走っている車では無理だ。

「見た目以外に、何か違いはあるのですか?」

「そうだな。見て解るように、空いている穴の数だけ弾薬を詰め込める」

 レンコンの部分を抜き出すように見せる。

 これは振出式スイングアウトだ。他にも中折れ式トップブレイク固定式ソリッドフレームがある。

「八つですか?」

 大抵のリボルバーが五発か六発のなか、八発というのは技術の向上と口径の関係で製作可能となったシロモノだ。

回転式弾倉シリンダーが回転して弾薬が移動する」

 暴発の危険性は低く、扱いやすく軽量で管理が楽という利点の多い銃だ。

「良いことばかりですね」

「だが、弾薬を詰めるのに時間を要する」

 オートマチック拳銃のように、元から予備の弾倉マガジンに詰めておくという事が出来ない。

 素早く再装填するためのスピードローダーという器具があるにはあるものの、やはり装填速度と装填数はオートマチックには及ばない。

「それは、あまりいいとは思えないのですが」

 ミレアは説明を脳内でまとめて複雑な表情を浮かべた。いくら管理が楽でも、いざというときに中身が入っていなければ意味がない。

「こちらはほとんど使う事は無いんだよ」

「それなら、どうして持っているのです?」

「オートマチックは時折、弾詰まりを起こす事がある。そんな時に、こちらを使う」

 リボルバーがそれらをまったく起こさないという訳ではないが、オートマチック拳銃に比べれば格段に安心ではある。

「なるほど、そうなのですね」

 もしものときのためのもの。それを考慮しているベリルに感心した。

「そこまで考える者は少ないがね」

 無駄に思慮深い自分に皮肉を込めて肩をすくめる。ハンドガンは小型とはいえ、軽いものでもない。持ちすぎれば動きが鈍くなり迷いが生じることもある。

 故にそれらを持つにも、それなりの経験や慣れが必要だ。

 ライフルなどに比べれば威力は低いけれども、複数を所持出来て隠し持てるハンドガンは、ベリルにとって自身の特性を大いに活かせる重要なアイテムだ。

 ミレアが見ていた様子では、ベリルはまだ他にも武器を持っていそうだ。しかし、その二つの手入れだけで終わった。

 そういえば、ナイフの手入れは昨夜にしていたなと思い出す。

「このままカーナビの通りに走っていいのか?」

 不安になったアレウスが問いかける。ナビの経路は大きく道を外れて目的地までの道程みちのりを示していた。

「そうだ」

 無表情に返し、背もたれをやや傾けて背中を預けた。

「少し眠る」

「寝るのですか?」

「なんでだ」

「敵が次に狙うなら深夜だ」

 説明し、眠りにつくため瞼を閉じた。




-----

※頸兵(けいへい):(1)強い兵。(2)強い武器。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る