第4話:新たな環境

「エレベーターと直通……」

「うむ。便利だろう? わたしがこのマンションに決めたのはこれが理由だ」


 僕達はマンションの地下五階に位置する場所からエレベーターに乗っていた。

 あの拷問部屋がエレベーターで直接繋がっているとは驚きだ。

 それと、さくらは得意気に語っているけれど、僕ならばこんな物騒なマンションには絶対に住みたくない。

 まあ、住みたくないと言っても僕に住むことはできないのだけど。

 このエレベーター、驚くべきことに最上階は五十階だと示している。五十階と言えば高層マンションの中でもかなりの高さだろう。

 しかもエレベーターが目指しているのはその五十階だった。

 超高層マンションの最上階、値段はいくらするのか――想像するだけで恐ろしい。


「おい、着いたぞ。ここがお前がこれから住む家だ」

「えっ?」


 僕は驚いて固まってしまった。

 いや、さくらの言葉にではない。

 視界に入った光景に驚いてしまったのだ。

 エレベーター降りてすぐに見えたのは玄関だったからだ。

 廊下とかドアじゃあない。

 拷問部屋といいエレベーターと直接に繋げるのが流行っているのか?

 僕は嫌だけどな。


 それに玄関も凄かった。

 金で彩られた枠に嵌められた大きな姿鏡に漆が塗られた木製の靴箱。謎の大きな甲冑武者に西洋のフルプレートアーマー。

 そんな物が置かれた露骨に財力を見せびらかすような玄関だった。

 まるで成金みたいだ。


 視線をさくらに移すと、彼女はニヤニヤと意地悪そうに――どこか嬉しそうに見ている。

 うん、自慢したいのだろう。

 ここは乗ってやるとしよう。


「すごいな……他の部屋は?」

「前はあったのだがな、全部買い取ってぶち抜いた。エレベーターもわたしじゃないとここに来ないようになっている。

 楽でいいだろう?」


 さくらは胸を張って、誇るように言う。

 まあ、楽でいいとは思うけれど、やることが大胆だ。


 そして面食らった僕に満足したのかさくらは靴を放り投げるように脱ぐと先へ進み始める。 

 よく見ると大きな玄関の端には脱ぎ散らかされて大量の靴が転がっていた。

 許せない。物はキチンと整頓するべきだ。あるべき物があるべき場所にあるのは心を落ち着かせる。

 何とか綺麗に揃えたいところだったけれど、それをやる時間はない。彼女はペタペタと足音を立てて先へと進んでいる。

 とりあえず自分のだけは揃えて、心を落ち着かせる。


「結構使ってない部屋があるからな。適当に自分の部屋にするといい」

「わかった」


 さくらの後をついて新たな家を回る。

 まるで迷路のように長い廊下に大量のドアが並んでいた。。

 ここに一人で住んでいるのなら、それは使われない部屋も出てくるだろう。部屋の数は軽く二十を超えているのだから。


 そうして辿り着いたのは一番に大きな空間、リビング。

 それを見た時、僕は思わず目眩がした。

 汚い。その一言で表せられる空間が広がっていたのだ。


 どこで売っているのかわからないような大きさのモニターの前にクッションの山があり、周囲に幾つものゲーム機器やPCが置かれていた。

 ここがさくらの拠点なのだろう。

 そして拠点を囲う城壁のようにペットボトルやらコンビニ弁当やらピザの箱やら漫画やらが散乱している。

 ここで暮らす――――頭が痛くなってきた。

 あまりに、汚すぎる。


「ちょっと散らかってはいるが、ここが主な生活空間だな」

「ちょっと?」

「うむ。一ヶ月前に片付けたからな」


 さくらは誇るように言った。

 その姿は愛くるしいものだったけれど、頭痛は強まるばかりだ。

 毎日しろ、毎日。

 むしろ一日に三回はしていいくらいだと僕は思う。

 そして不意にゴミ山に視線を向けるとゴミとゴミの隙間からひょこりと足の長い蜘蛛が顔を出す。大きさは掌くらいだ。

 そして僕は気が遠くなって――――

 そのまま倒れた。


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