第7話 6時間目は全校集会
とある中学校の体育館。
全校生徒が集まり、もうじき始まる夏休みに向けての注意事項等が伝えられ、部活動の表彰や生徒会からの連絡が行われている。
校務分掌が学習であるヤマウチも、生徒たちの前に出て、長期休暇中の自学がいかに大切かをつらつらと述べたりもした。
だが大半の時間は暇な時間であるため、列の一番後ろから生徒たちを見守るという名目で壁によりかかり、腕を組み顔を伏せてウトウトとしている。
奇跡的にまじめな生徒が多いため、集会中に後ろを向いて友達と私語をする生徒はほとんどおらず、今まで生徒にバレたことはない。
何度か魔法使いに見つかり、脇をつつかれて起こされたことはあるが。
全校生徒が一堂に会する意味はあるのかねえ……とヤマウチは眠りへと移行しつつある意識の中で考える。
集団の規模が大きくなるほど伝達事項の正確性は低くなるのは当たり前だし、大半の生徒が部活動の大会成績には興味がない。
各クラスごとに行うHR中にちょちょいとやればいいのに。
ヤマウチが睡魔に抗い全力で目を開くとそこには約300人分の後頭部が。
そして正面のステージでは校長がなにやら熱弁している。
どこの学校でも校長の話は長いものだ。
後10分はこうしていられるな、とヤマウチは再び目を閉じた。
この中学校の教職員は全員なんらかの異能力を持っているが、それでは生徒はどうなのかというと、全員が全員能力者というわけではない。
半分が何らかの異能力を所持していて、残りの半分はなんの能力もない児童である。
国によって設立されたこの学校は、いわば実験場的な側面があり、名目上は『先天的な才能』が必須である異能力者と多感な学生時代に深く関わることによって、児童の『後天的な才能』は目覚めることがあるのか調査を行うというものである。
しかし国のお偉いさん的には、すべての生徒が異能力者であってほしいというのが本音だ。
ではなぜそうならなかったのかというと、理由は至極明確。
『入学希望者数が少なすぎた』の一言に尽きる。
人間という物は排他的なものだ。自分と違うものを恐怖したり、嫌悪したり、差別する。
奴隷などその最たる例だ。人間ではないと判断される場合すらある。
だからこれまで異能力者はその異能を自覚しつつも、それを隠し『人間』として生活を送っていた。
しかし、現在の総理大臣が異能力者であり、それを公の場でカミングアウトするという、なんとも突拍子のない出来事が起こり、事態は一変する。(ちなみに総理大臣は日本で開催されたオリンピックの開会式の演説中に突然異世界のトビラを開き、天使を召喚してみせた。これまで、そして今後も無茶な法案を通していく彼の手腕の裏にはその天使の力が一役買っていると語り継がれていく)
事件ともいえるべき出来事のの後、日本はついに異能力者の存在を認め、それに伴う法整備を今現在行っている真っ最中である。
その一環として設立されたのがこの中学校だ。
学校設立の知らせを聞いた国民の声を簡潔に表そう。『怪しい』
そしてその学校に通うということは、それまで普通の人間として送っていた人生から離れ、異能力者としての人生を選ぶということになる。
だからこそ、『入学希望者数が少なすぎた』のだ。
今この学校に通っている異能力者は、一般人(と書くと異能力者を差別していると非難を受けそうだが、大多数の人間が異能力を所持していないため一般的なので仕方がない)として生活が厳しかったり、学校へ入学するメリット(学費免除や生活支援、最新鋭の施設等)に釣られたりした少数の異能力者なのだ。
さすがにそれは予定と違ったのか、国は急遽一般人の生徒への入学も呼びかけた。
もちろん異能力者と同じ待遇で。
それでも全校生徒数は予定していた定員の1/4程度なので、いかにこの学校が国民に受け入れられていないかがわかるだろう。
ではそんな特殊な学校へ入学してきた生徒たちの生活はどうなのかというと、なんてことはない。子ども特有の対応力の高さであっさりと受け入れてしまっている。
その気になれば異能力を持つ生徒が一般生徒を支配することは容易い。
一般生徒が徒党を組んで異能力者を攻撃する可能性も十分考えられた。
異能力者と一般人がほぼ同数ずつ在籍するクラスにすることによる、対立やいじめは心配されたが、今のところそれほど大きな問題は起こっていない。
もちろんこの中学校にも対立やいじめは存在する。だがそれがあくまでも、『どこの学校でも起こる程度のもの』に収まっている。むしろ少ないかもしれない。
その実状に、定期的に監査にやってくる国のお偉いさんも驚いていたが、その理由はなんてことはない。
一般人の生徒を募った段階で、校長と教頭の異能力を用いて問題を起こす可能性がある生徒を排除しただけである。
教頭の、心まで読み取る千里眼と、校長の、『サトリ』で。
校長の能力に関しては今後また紹介する機会があるので割愛させてもらうが、とにかく現在のこの中学校の平穏はこの2人のお陰であると言える。
だから多少校長の話が長くとも見逃してほしい。
脇腹に激しい違和感、例えるならば人差し指で突かれているような感触を受け、ヤマウチは身震いしながら目を開く。
「ウッチー、何寝てるの」
聞きなれた声が耳元で聞こえる。声を潜めているため吐息交じりでくすぐったい。
「あ、スガ先生、おはようございます」
出そうになる欠伸を噛み殺し、ヤマウチはすぐそばに立っていた魔法使いから一歩離れる。
正直ときめいた。ここは神聖な職場であり、学園ラブコメじゃないんだからやめてくれと思う。
そんなヤマウチの内心など知らないスガは再び距離を詰め、先ほどと同様にヤマウチに耳打ちをする。
「この後のホームルームお願い。私ちょっと保護者との面談が入っちゃって」
スガの髪からヤマウチへとなんとも魔術的ないい匂いが届く。
これは確実に
おそらくこの邪悪な魔法使いは俺が洗脳しないと仕事をしない人間だと思っているに違いない。などと考えながらもそれは全く表に出さずにヤマウチは一言
「了解ですー」
と返す。
それに満足したのかスガはヤマウチから離れ、眠っている生徒を起こすために列へと入っていった。
ヤマウチはそっと体育館のドアを開けると外に出て大きく背伸びをした。
後数分もすれば教室で生徒たちの相手をしなくてはならない。
さっきのスガとのシーンをちゃっかり目撃してた生徒がいたけど、面倒臭いことになりそうだ。
体育館からは終了の合図が聞こえてくる。
教室へと向かう生徒たちの群れに巻き込まれる前に一足早くヤマウチは2-2組の教室へと歩き出した。
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