第20話
その頃、是夢は紺色の髪を後ろで束ねたポニーテールの少女、大道遥香と戦っている。
静かな場所に剣を打ち合う金属音だけが鳴り響く。彼らの周りには誰もいない。そんな孤立した戦闘は是夢が有利な展開で進んでいた。
「はっ!」
短い声を上げると是夢は水平に薙ぐ。それを遥香は何とか弾く。逆に今度は遥香が反撃を試みるがそれをあっさりと是夢が躱す。ならばと遥香は水平斬りと見せかけて手首を返して真下からの斬り上げに変えるがそれもまた防がれる。
全く攻撃が効かないことに苛立ち遥香は歯を食いしばる。その感情に身を任せた遥香はそこから怒濤の攻撃を繰り広げる。
ぶつかり合う二人の剣は火花を散らすが是夢は必要最低限の動きで受け流すの対して遥香は全力で剣を振り続けているため体力の消耗が激しい。
「……………くっそ、貴様ァ」
肩で息をして汗をかきながら、見た目のよらず口の悪いポニーテールの少女は是夢を睨み付ける。
一方の是夢は汗一つかかず鋭い視線に正面から見つめ返す。
「足掻いたところで僕の勝利は最早揺るぎない。諦めたらどうだ」
是夢の挑発を受けた遥香はピクッと眉を吊り上げた。
「私が諦めると思うか?」
「そこまで言うのなら続けてやろう」
是夢が挑発することで遥香の方から迫ってくると彼は予想していたが遥香は攻めてこない。少し予想外ではあったが是夢はすぐに対応する。
「言っておいてそっちから来ないのか。なら僕から行くよ」
それだけ言うと是夢は距離を詰めた。
夕刻、二人の影が遥か地上で何度も重なりあう。そしてまたすぐに分かれる。
彼らの戦闘はただ剣を振り合うだけでフェイントなどの工夫は一切ない。しかし是夢にとってはこれで充分だった。もう既に遥香の体力は限界まで来ている。それでも遥香は気力だけで動いてきたが少しずつ動きが鈍くなってきた。
やがて遥香は大きく肩を上下させながら止まった。
「どうした? やはりのその程度の実力しかないのか」
遥香とは大きく違い余裕を見せながら是夢は遥香を再度挑発する。
「まだだ……まだ…………」
「もうこれが結果だ。僕の勝ちに変わりない」
「………るな……ナメるな…………ナメるなーーーー!」
遥香が怒りを露にして叫ぶと彼女の体から漆黒の邪悪なオーラが発せられた。
「な、何だそのオーラ」
先程までとは違い、漆黒の巨大な、今も広がりつつあるオーラを目の当たりにして今度は是夢が怯む番だった。
だが是夢にはその闇のオーラに思い当たる節がある。つい十数分前に耳にしたばかりだ。
「まさか…………《
是夢が目を見開き驚きの声を上げるが、その声は遥香に届くことはない。
遥香の叫び声が止まったかと思うと、今度は最初のような落ち着いた無表情に戻る。そして闇のオーラを纏った少女の剣に炎が宿りそのまま振りかざした。
これまでとは段違いに上がった剣の速さに是夢は避けるのは不可能と判断し、自らの剣で迎え撃つ。
剣が交錯した瞬間、是夢がしっかりと握りしめていた剣が弾き飛ばされた。
是夢の予想以上に遥香の《希望の一撃》が重たく、手から離れた剣が地上へと落ちていく。
「クソッ!」
真っ赤になり、じんじんと痺れ続ける両手を見て吐き捨てると、丸腰のこの状況をいち早く脱するために落ち続ける自らの剣を追いかけた。
是夢の手から離れた剣はくるくると回転しながら地面に突き刺さった。それから十数秒遅れてそれを追ってきた是夢が到着する。そしてその剣を抜こうと柄に手をかけたのだが、
「固い……ぴくともしない」
地上百から二百メートルの所から落ち、更に不幸なことに落ちた場所が成基のレクチャーや特訓で何度も使った公園だ。つまり、土。だから余計に深く刺さって抜けない。そこへ遥香が追ってきた。
「早く抜けろ……!」
是夢は急ぐべく、歯を食いしばって体全体に力を込め、全ての力を使って柄を握って引くと、先程までのが嘘のように簡単に抜けて尻餅をついてしまう。その瞬間に、今度は火を纏ってない遥香の剣が眼前に迫っていた。尻餅をついたままだった是夢は素早く起き上がって防ぐ。
火を纏っていない遥香の剣はいとも簡単に防げた。しかし、《希望の一撃》を受けた是夢の手はまだ痺れたままのために負荷が大きい。
「さっきまでの威勢はどうした? あれだけ言っておきながらもう終わりか?」
「くっ…………」
体力的にも精神的にも全く問題はない。ただ、たった一度、たった
「どうしろと言うんだ。これじゃあ…………」
この状況は是夢にとってそこまで危機的な状況ではない。再びアレが来るまでは。だからといってこのまま避け続けるわけにもいかない。
「避けても受けてもいけないなら、
ただ躱すだけじゃない。躱しながら攻めればいい。攻めと守りを同時に行えば必ず勝機が見えてくる。
その決意を固めて是夢が動いた。
それと同時に遥香の剣に再び炎が宿った。
「ここで《希望の一撃》が。だが……」
走りながら是夢が呟くが走る勢いを落とさない。
攻めながら躱すことが出来れば必ず勝機はある。ただ問題は点繰り出されようとしている《希望の一撃》を躱すことが出来るかどうかだ。だが躱せなければ殺られるの是夢自信。やるしかない。
覚悟を決めた是夢は振り下ろされる剣を可能な限り引き付けて寸前のところで体を捻って回避する。
「よしこれで……っ!」
あまりに予想外のことに反撃しようとしていた是夢の体が止まる。
完全に躱したと思った剣から、纏っている炎が放たれ、その火が公園の入り口付近に着火してごうごうと炎が上がった。
更に不幸なことに、ちょうどそこへ帰宅途中の千花が通りかかった。彼女は燃え上がる火を見て当然の反応を示した。
「火事……! うそ!」
慌てて走り去っていく千花の姿を見届けて是夢が呟く。
「まずいな……。なんとしても遥香のやつを止めないと」
是夢が再び遥香の方に向き直った時、遥香の様子がさっきまでと一変していた。
感情の込もっていない姿で目には魂が宿っていない。まるで冷酷な機械のような。あえて言うなら殺人兵器というべきだろう。
その表現は間違っていなかった。遥香が飛び上がったかと思うといきなり無差別に剣を振り回して炎を撒き散らし始めた。
「おい、ウソだろ……。このままじゃこの街が崩壊する!」
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