Ragnarock einer anderen Welt――序章――

@takeshi

第1話 終わりの始まり

<新暦2574年3月21日 ソリダリエタ社会主義人民共和国連邦 ヤーパン・ソリダリエタ社会主義人民共和国 千代田郊外>

 超大国が終焉を迎えようとしていた。

 ソリダリエタ社会主義人民共和国連邦、略称ソリダリエタ連邦。その世界で初の、そして唯一の社会主義国家だ。建国は新暦2340年。当時あった大国、アブタイルング帝国に革命が起きて成立した。

 全ての人間が平等な社会。その理念に異を唱える者はいなかった。そしてその理念は建国から200年以上が過ぎても生き続けていると信じられていた。

 ごく一部の、限られた人間にだけ。

 どこの世界でも理想は実現しないもの。いつからか恩恵を得るのは党員や軍人など限られた特権階級の者だけになってしまった。

 それでもソリダリエタが200年も持ったのは訳がある。

 ソリダリエタではほぼ完璧に近い情報統制が行われていたのだ。

 また生活水準も比較的高かったため、国民の不満は少なく、暴動などが起きることもあまりなかった。

 だが、物事には限界という物がある。

 建国から200年が過ぎたころから情報統制も綻びはじめ、各地で暴動や革命騒ぎが頻発するようになった。時には軍人までもが参加するようになり、ソリダリエタの崩壊が避けられないことは誰の目にも明らかになった。 

 そして新暦2574年。軍部がクーデターを起こし、ソリダリエタ社会主義共和国連邦は崩壊した。



 ソリダリエタ連邦の中核、、ヤーパン・ソリダリエタ社会主義人民共和国。その首都千代田の郊外にある未決囚拘置施設。収容されていた囚人の中に、一人の少女がいた。

 彼女の名は結城雫。2557年生まれの17歳だ。

 一般市民の家に生まれた彼女は首都で一番と言われる高校に入学し、開闢以来の秀才と謳われていた。

 将来は官僚、と言われ、エリートコースを歩んでいた彼女の罪状……他でもない、国家反逆罪だ。

 或る時、彼女はひょんなことから機密の欠片を手に入れてしまった。

 並みの人間には真実を知ることはできないだろう。だが、彼女はそれらのごく限られた情報から真実を導き出すことが出来た。

 ソリダリエタのあり様に疑問を覚えた彼女は程なくして捕えられ、収監された。


 大国崩壊の余波は雫のいる施設にも押し寄せていた。

 守備兵が施設中に爆発物を仕掛け、それらはもう間もなく爆発する。


 雫は拷問の影響で朦朧とした意識の中で、自分の死が近づいていることを悟った。

 思い出が走馬灯のように駆けてゆく。


 最後に思ったのは、軍士官学校に進学した幼馴染、藤堂潮のことだった。

 彼は雫とともに逮捕されかけたが、間一髪で逃げおおせた。

 ――――――この国がこれからどうなっていくのか、私は見届けることはできない。

 ――――――潮、私の死を無駄にしないで……

 刹那、彼女の意識は暗転した。


 ここに一人の少女の物語が終わった。



≪正界 正暦7248年3月21日 カンディン山中≫

「ほぎゃ、ほぎゃ」

 正界、カンディン山中。とある一族の長の家に、一人の赤子が生まれた。

 一見、他の赤子と変わったことは無い。

 ただ一つ、容姿が両親に全く似ていないことを除けば。


 ここに新たな物語が始まる。

 非業の死を遂げた少女の、2つ目の物語セカンドストーリーが。


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