化物にも評判の弁当屋

こまち たなだ

弁当屋の娘

 ぴかぴかに磨かれたシンクの側で、黒いワンピースに白のエプロン姿のくるみの祖母と母が忙しそうに動き回っていた。火にかけられたアルミの大鍋が湯気を上げながら音を立てている。

 忙しそうな女二人を見上げながら、小さなくるみはお手伝いと称して玉ねぎの皮剥きをしていた。幼かったくるみはコンクリ作りの厨房で、そうして過ごすことが多かった。


「おばあちゃん達がお料理してるところって、じゃがいもも、宝物みたいに見えるね」


 じゃがいもの一つ一つを、泥を洗い流し、芽を取り、皮を剥き、おまけに煮くずれないように面取りしたくるみの祖母は、流し台を背伸びして覗き込んだくるみの頭を撫でて微笑んだ。


「そうさね。人間こうじゃなきゃあねえ」


 祖母を見上げていたくるみは、ぽかんと口を開けた。


「どうして? 人間は、じゃがいもも宝物みたいにしないと、駄目なの?」


 祖母はくるみの質問に答えなかった。代わりに、混乱して変な顔をしていたくるみに、だし汁をとっていた母親が、応えてくれた。


「じゃがいもも、一個一個、大切に育てた人がいるの。お母さんや、お婆ちゃんが、くーちゃんのこと大切に育てているみたいに」

「私?」


 立ち上る湯気の向こうで、くるみの母が頷いた。鰹節の良い香りがしていた。

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