第2話父の背中、魔王の影
徳川 信康
この私の名前は父家康と義理の父信長からつけられている。
まるで私の人生に切っても切れない2人の存在を決定したかのような神の悪戯。
この事の本当の意味を2度目の人生の最後で思い知る事になる。
最初の人生は
徳川と織田の強固な同盟。
三河の安寧。
この二つの為にあったと言える。
このまま無に帰ると思った瞬間
私の魂だけが
徳川を見守り続けたのだった。
私の命と引き換えに
征夷大将軍になり徳川の世の礎となった父を魂となり見守り続けた事で
死して尚、尊敬の念は深まった。
15歳から父の背中を追い続け。
あの勇将武田勝頼と比べても劣らないと父に褒められた。
21年の人生だったが名を刻むには程の戦働きもし存分に生きた。
そして、魂だけでも徳川の歴史を見守れた事が何より嬉しい。
父家康の死を見届け意識が遠のく。
この事が夢幻の如き事だとしても
満ち足りた最後に感謝こそした。
なのにあの天正6年の
妻徳姫の手紙を持つ酒井忠次を
見送る場に私は戻ってきた
久しぶりの肉体の感覚は何様にも形容出来ぬほど美しい。
戦国は地獄と思っていた。
久方にみる三河は地獄と言うには美し過ぎた。
何を感情に浸っている?
うちなる自分が叫ぶ。
この後の運命をやり通す過酷な運命が目の前に
再度降りかかったのだ。
何故こんな事に
最期の瞬間にした私の潔白を話した事を父家康に如何思われたか
それだけは心残りであった。
決して命乞いでは無く身の潔白のみを話したつもりだった。
失望させたのではないか?
最後に私は間違えたのか?と
声が出せれば聞いてみたいと何度も思った。
しかし、何かが少しでもずれれば
父家康の天下
ひいては徳川の世が崩れる可能性もある。
邪魔になるわけにはいかない。
同じ結末を迎えなくては。
1度目の人生には無い明確な使命感と
誇りが既に私の心には宿っている。
先ずは、酒井忠次の出立を滞りなく終わらせる。
しかし、何故だろう。
見送りに来た父は、もはや昔の面影ではなかった。
既に天下人のそれ。
遠くから見た時には感じられ無い
近寄りがたい威厳を纏っている。
——胸の奥が、僅かに軋む。
あの日。
私の首を望んだ者と、同じ気配を感じた。
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