『二度目の徳川信康は、父のために再び死のうとする。――死にたがる息子を、天下人の覇気を纏った家康が全力で救い出す逆転歴史劇。』

@michinototyuu

第1話楔と後悔


徳川信康。


我が家康の嫡男にして三河の民の代償として、消費された名。


本来なら次の将軍かも知れない未来。


21歳と言う若さで全て諦めさせ


切腹した息子の名でもある


家康と言う人生の中で


多くを諦めた。

耐え続けた。


気が付けば征夷大将軍の座にまで上り詰めた。


これで良かったはずだ。

すべては徳川のため。


誰もが礎となり、誇りのように身を捧げてくれた。


⸻


それでも。


この出来事は、楔のように残り続けているものがあった。


――徳川信康を救えなかったという後悔。


⸻


そしてその“後悔”が、

すべてを終えたはずの男に、再び選択を突きつける。


そのチャンスは、あまりにも唐突に訪れた。


⸻


確かに、あの時――徳川と言う器、征夷大将軍と言う重荷から離れ1人の老兵として最後の眠りについた。


あの時を思い出しながら…


切腹を命じた苦渋の味、ただそれを受け入れた。


これが最後だと、心の中で確かに呟いた。


⸻


「この家康が命も徳川に喜んで差し出そう」


そして同時に、もう一つだけ願った。


――どうか、次があるなら。


――今度こそ信康を救わせてくれ、と。


⸻


その瞬間だった。


終わったはずの視界が、崩れた。


重だるい体も、終わりの静けさも消えた。


⸻


気づけば――


そこはーー


あの日だった。


忘れもしない、天正七年。


三河物語に残した信康の切腹。



すべてが静かに歪み始めた日。


⸻


ことの始まりは信康の妻である徳姫が、父・信長へと手紙を書いた。


この手紙には、12の箇条書きがある。


信康と不仲であること、


我妻で信康の母である築山殿の事。


目下戦中である武田と内通した、と記されていたと聞いた。


この話は拗れれば三河を地獄に変える自体となる。


⸻


使者として選ばれたのは、

後の徳川四天王筆頭とされる


酒井忠次。


家康を生涯支える重臣。


私情を排除し最適な回答を任せられる男に託した


⸻


――1度目は、何も変だとは思わなかった。



何よりやっと形になってきた三河の為、


徳姫の機嫌を損ねるのが怖かった。


その奥に潜むあの男の存在が。


しかし、切腹を命じ首になった信康の顔を見た時の記憶は霧がかかっている


⸻


あの時の感情を思い出して


胸の奥が、静かにざわついている。


あの時は花瓶が床へ落ちていく瞬間を見ているような感覚だった。



割れると分かっていても、止められない。



あの時は、止める手立ても無かった。



⸻


これはただの出来事ではない。



二つの命を代償に、歴史が動き出す日だった。




そして、2度目の花瓶はゆっくりと動きだす。

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