愛するが故、愛を求めるが故にそれを歪んだ形で表してしまう───。
登場する人物全てが何らかの影と過去を持ち、絡み合いつつラストで明かされる。
一度読み始めたら、次が気になり止まらない。
そして次を読むとまた意外な展開に驚かされ、かつ新たな謎が浮かび上がる。
それが最終話まで続くのである。
私の個人的な意見かもしれないが、面白い作品とは読みながらその先の展開を想像する、謂わば作家との知恵比べが出来る作品だと思う。
更には完結後に、読者にその先まで創造させる作品は希有である。
その点では意外性のある本作は、作家の力量と苦労が伝わってくる良作である。
もう一度言いたい。
是非最後まで読んで欲しい。
捜査一課に所属する刑事で姉の盟(めい)から極秘の捜査協力を切り出された悠一(ゆういち)。姉は先月起きた女子大生殺人事件の犯人が彼の通う大学の生徒であると見ており、5年前と2年前に起きた殺人事件にも関わっているものと考えているのだ。果たして悠一は姉に協力することとなったのだが……
倒叙(とうじょ)ミステリーとは、犯人や犯行が開示された状態で始まるものを指します。それだけに登場人物の心情をどれだけ濃密に表せるかがひとつの肝になるのですが、本作の魅力はまさにそこ。キャラクター造形と描写がすばらしいのです。犯人である“カナ”さんが犯人と成り果せるまでの過程――人格形成がストーリーにしっかり敷かれている。だからこそ読者は彼女にひとつの共感を覚えますし、探偵役の悠一さんの紆余曲折や直面する悲哀に心を掻き乱されずにはいられません。そして真相を知らされた瞬間! これまで積んできた感情のすべてを打ち砕かれるのです。
骨太な人間ドラマが織り成す極上の本格ミステリー、「最後の最後まで」どうぞお楽しみください。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)
愛という感情は、時に悲劇を巻き起こす。
小学生のカナはある出来事により、加害とは、そして愛情とはなにかを考えるようになった。
中学生になったカナは、愛していた間中が離れていくことを拒み、恐ろしい行動に出る。
それから五年。捜査一課に所属する盟は、弟の悠一に殺人事件の協力を依頼する。
おぞましい事件の陰に潜むのは、歪んだ愛情。
そして、それは事件の犯人だけが持つものではない。
これからも恐ろしいことが起こる……そう思えてしまう状況が続き、ハラハラするのがこの作品の恐ろしくも、魅力的なところ。
思った通りの悲劇が起こるのか、どうなのか?
ぜひ、その答えを見届けてほしい。
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可奈美は穢された。実の父親によって。
気持ち悪いと思った。同時に、心のどこかで嬉しくも思っていた。
「カナは母さん似だな。それに、ずいぶんと女らしくなったじゃないか」
その後の父親の行動には、これまで感じることなかった愛情があった。
狂気ともいえる愛情が。
――加害とはなにか? そして、愛情とはなにか?
「前から言おうと思ってたんだけどさ……カナ、お前重いよ」
友達の間中も、どんどん遠ざかっていく。
鬱陶しそうに、可奈美の手を振り払う。
――加害とはなにか? そして、愛情とはなにか?
どうしたらいい、どうしたらいい、どうしたらいい?
どうしたら間中を、自分のものにできる?
ここには人目もない。止めてくれるものは何もない。
――加害とはなにか? そして、愛情とはなにか?
「間中。好きだよ。大好き。愛してる」
もう作り笑顔はいらない。
それだけが嬉しかった。
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これは、捜査一課の極秘資料に書かれた連続殺人の『第1番目』である。